6話 「リデアの平穏な一日(後編)」
「師匠にリデアさん、おはようございます!」
せっかく兄さんと2人きりの時間を過ごしていたのに邪魔するのはこの子。まぁ、兄さんの弟子らしいから仕方ないんだけど、エルフのくせに黒髪な理由を聞いてみたら
『憧れの師匠と同じにしたかったんです!』
なんて答えてきた。もしも女だったりしたらこいつも要注意だったわね。・・・一応彼女はいるらしいからノーマルだとは思うけど。
「ああ、おはようヤマト・・・ほらリデアも挨拶ぐらいはな」
「ふん、おはよう」
仕方がない奴と笑う兄さんと、気にしていないようなヤマト・・・まぁ、いつもどうりと言えばいつもどうりの風景。そしてそうすると・・・
「今日もちゃんといるわね。うん、感心感心♪」
と出てくる疫病神・・・ならぬ光の女神レーチェル。何が感心なのかしら? この女のことだから確実に鍛錬が終わりかけの兄さんが疲れはじめたころを狙ってきているでしょうに
「よく言うよ、俺としてはレーチェルとの訓練は遠慮したい所なんだけどな」
「あら~、リュウト君にしては弱気な発言ね。私がアキちゃんたちを狙う敵でも同じことを言うのかしら?」
にやりと笑うレーチェル。確かにこの女の目的は今ひとつわからない。兄さんを殺す気ならば・・・いえ、ワタシたちを殺す気ならば容易にできるのでしょうから、その気は今のところないと思いたいけど、正直なところよくわからないのよね。
「はぁ、まぁ、成果が出ているのも事実か・・・多少は手加減をしてもらえるとありがたいがな」
「失礼ね、手加減はしているわよ。頑張れば生き残る手がある程度には」
絶対にそれは手加減じゃないわ!! あの馬鹿天使が嘆くだけのことは本当にあるわね。と、とりあえず兄さんが殺されることがないようにだけは見張っていないと!
まぁ、結論から言うといつもどうり開始1分ほどで兄さんが血の海に沈んで終わりという感じだった。レーチェルの回復付だから問題がないって言えばないけど、やっぱりいつか復讐しないと・・・。
「ってて・・・相変わらず容赦がないな、レーチェルは」
「私としてはあな・・・そなたが無事ならばいいのじゃが」
と言いながらも心配そうなアキ。気持ちはよくわかるけど、なんかこの子って言葉遣いが安定してない気がするのよね? 特に兄さん相手だと
「ほら、お子様は早く寝なさいよ。明日の朝寝坊しても知らないわよ」
でもね、この子がいると何かと邪魔なの。兄さんに手を出そうとしたら止めて来そうだし・・・
「人を子ども扱いするでない。そなたこそ、昼間の鍛錬で疲れておろう・・・早く寝ぬと明日に響くぞ?」
「竜族の体力を舐めないでよね!」
バチバチと火花が散るような気がする。しょ、所詮エルフのアキなんかは精々1万年もすればいなくなるわけだけど、に、兄さんはワタシの物なんだからね!
「いえ、お二人とももうお眠りください。リュウト殿、お久しぶりに私と一献を楽しみませんか?」
そんな中にしれっと割り込んでくる人もいるし! うう、ワタシ、この人苦手なんだけどここで引き下がるわけには・・・
「め、メイ! しゅ、主君にもう寝ろとは何事なのじゃ!」
「そ、そうよ! わ、ワタシだってまだ眠くなんて・・・」
なんかバチバチとぶつかり合う火花が3つになった気がするわ。・・・あれ? なんでメイまでこの争いに加わってくるのかしら?
で、もう1人というかある意味において主役の兄さんはというと・・・
「・・・なぁ、これっていったいどういう状況なんだ? 俺に平穏な時間ってないものなのだろうか・・・」
こんな感じだもん! なんで兄さんはアキや、こ、このワタシの溢れんばかりの愛情に気が付かないのよ~!! 鈍いにもほどってものがあるでしょうに!
「さてと、今日のところはこんな感じかな」
ふうと一息吐いて、ワタシは書いていた日記を閉じる。ワタシも自分がこんなに筆まめな方だとは思わなかったわ。なんだかんだ言ってもう時期このノートが埋まっちゃうぐらい。・・・でも凄く大切な宝物。
だから、誰にも見つからないように本棚の奥へとしまっておくの・・・そう、この『兄さん観察日誌NO1』は! もうじきNO2も買ってこないとね♪
え、えっと、ついにストーカー属性まで身につけたらしいリデアでした
メイ「本当にリュウト殿の近くに置いていていいのか疑問を覚えますね」
そういうメイも行動が随分と積極的になってきたというか・・・
メイ「私は私で自分の幸せもおいたいですから」
・・・アキもなかなか大変みたいですね。では、次回がこの章の最後です。お楽しみに~




