3話 「突然の乱入者」
「師匠! ご無事だったんですね!」
無事にエルファリアへと戻ってきた翌日、いつもの日課どうりに鍛錬場所で鍛錬をしていた俺に投げかけられた言葉だ。
「なんだ? 俺が無事じゃないとでも思ったか? 俺の心配をするのはまだまだ早いぞ」
「い、いえ! けしてそんなわけでは・・・」
とがめられたと思ったのか、慌てて言いつくろうのは俺の弟子であるヤマト=ルオール。まぁ、俺の言動も少々意地悪だったけどな。これも一応は日常へ帰ってきた故のことだと許せ、ヤマト。
「でも師匠・・・今日ぐらいはお休みになるものかと」
「まぁ、休んでもいられない事情があってな。お前こそ、今日は休むとばかり思っていたぞ? メイから休暇を貰ったと聞いていたが?」
世間的には乱れていた平和は奪い返した。いや、乱れていたことすらも気づかれてはいなかったか。・・・だが、今の平和は仮初め。そこに安心して座り込んでいるわけにはいかない・・・ってどうしたヤマト?
「・・・師匠、申し訳ありません。私は何もできませんでした・・・あれだけ師匠に鍛えてもらって、教えてもらって・・・結局何一つお役には立てませんでした」
「ヤマト・・・」
悔しげに、まるで血を吐き出すように紡がれた言葉。良いことだとは思う、思うが・・・
「いたっ!?」
ポコンと脳天にヒットした俺の手刀にそんな声をあげるヤマト。・・・そんな顔で見ても俺は男の泣き顔にどうこう思う趣味はないぞ?
「あのなぁ、たかが1年の修行と模擬戦でそんな簡単に活躍できるようになられてみろ、俺の立場がないだろうが。俺だってもう10年以上も剣を振り、そこいらの者よりはずっと多い死線をくぐり抜けて今の力を持ってるんだぞ? そんなセリフを吐くのはまだまだ早い」
いや、厳密に言えば俺だってそんなセリフはまだ早いだろうな。ましてヤマトはエルフ族だ・・・エルフの時は人なぞよりもはるかに長い。ヤマトが強くなるのはまだまだこれからさ。
「ん~、貴方にそんな偉そうなことを言う資格はまだまだないと思うけどなぁ、リュウト君?」
突然に響いた声に冷や汗が背中を流れる。ヤマトは(知らないから当然なのだが)涼しい顔をしているが、俺としてはこの声の主とは正直・・・
「れ、レーチェル・・・調べ物は済んだの・・・か?」
「そっちはまだまだね。まぁ、根を詰めても早くわかるってものでもないわ。だから・・・ちょっとあなたの特訓をお手伝いに来たのよ」
ニコニコとした笑顔をたたえながら現れたレーチェル。そして告げられた言葉・・・流れる冷や汗は量を増やすことはあっても止まることはない。レミーが言っていたとおりなら彼女のかす特訓は下手な戦場よりも危険なものだ。
「さぁ、勝負よ! リュウト君、私を乗り越えて見せなさい!」
「ちょ、ちょっと待て! それは無茶だろ!?」
はっきり言って俺とレーチェルの実力差は俺とヤマトの実力差と同じぐらい・・・いや、そんな程度じゃない途方もない差があるはずなんだが
「あら? あなたは相手が勝てない相手だからと言って逃げ出すような子だったかしら? そんなことが許される立場だったかしら?」
だが、そこまでを笑顔のままに一息で告げたレーチェルは急に真面目な厳しい顔を出してさらに告げる。
「いい? 貴方がこれから、いつの日か戦わなければいけない本当の・・・正真正銘の黒幕は言ってみれば恐竜の王みたいな存在よ。私なんてそいつから見ればミジンコにも満たない。恐竜の王と戦わなければならないあなたがミジンコとの戦いを無茶だなんて冗談でも言ってはいけないわ」
真面目に淡々と、そして隠しきれない悔しさをにじませながらレーチェルは言う。・・・そうだな、レーチェルが何らかの目的を持って俺を鍛えていることは知っている。だが、彼女は自分が労を払うのが嫌でそんなことをするタイプではない。つまり、自分の力の限界を・・・まだそこに達していなくても自分では勝てないことに一番悔しい思いをしているのは他ならぬ彼女なのではないだろうか?
「さぁ、あなたはどうするのかしら? 逃げる? それとも立ち向かう?」
「決まっているだろう? 俺は二度と自分の大切な者を失わないと、守り抜くと自分自身に誓った! ならば、立ちふさがるものは全て切り捨ててでも前に進む! リュム!!」
今の俺にそんなセリフを言う資格は本当はない。だが、それでもレーチェルもまた俺が守りたいものの1人だ。何があっても彼女に剣を向けるは本来の姿ではないこともわかっている。だが、ここでそんな理論をもちだして何になる? どうせ、どうあがいても今の俺がレーチェルに勝つなんて奇跡がダースどころかグロス単位で起きても0%から動かん。ならば、全力で戦ってやるさ・・・より大きな力が必要とされている限り
「良い覚悟ね・・・思いっきり戦っても大丈夫よ、ここはもう私の結界の中だから」
レーチェルはそう笑う。それは俺が全力で戦っても周りは大丈夫だということ。同時に俺の全力などレーチェルの結界を壊すには程遠いということ。・・・だというのに悔しいとも思えないな。実際にその程度の力の差は優にあるだろう。
「ああ、そんな心配はしていないさ。・・・全力で行く」
手に取ったリュム、竜神剣も呼応するように低くうめく。俺とて披露していない新技の1つや2つはある・・・どこまで使えるか試すには申し分ない相手かもしれないな
さて、そんなわけでリュウトVSレーチェル模擬戦です!
リュウト「わざわざ模擬戦とつけるってことは、いずれ?」
さぁ、どうでしょうね? ただ、実際にレーチェルとラスボスの実力差は恐竜の王とミジンコなんてレベルじゃないぐらいの差があります。レーチェルもさすがにかの存在の実力を正確に知っているわけではないのですね。
リュウト「レーチェルがミジンコだったら俺はなんだという気もするがな」
だからこその竜神剣と仲間の存在なのです。言っときますが・・・今のレーチェルは自分にハンデで能力封印をかけています。それを解除して今の竜神剣の全力の能力強化までほどこしてなおミジンコ級なのです。
リュウト「まさに話にならないという奴か・・・ま、とりあえずは次回は新技も使ってどこまでレーチェルに迫れるか・・・だな」
はい、レーチェルの今の時点では圧倒的な実力もまた楽しんでもらえればと思います♪




