8話 「そして仮初めの平和へ」
「さ、後のことは任せて頂戴・・・私も操りを解く手段位は見つけてあるわ。竜神剣を使わずにね」
女神らしく・・・なのだろうか、にっこりと微笑んでそう言ったレーチェルだが、そうですかというわけにもいかない。
「ちょ、ちょっと待て!? この戦いはただの前哨戦だろう? 本当の敵はゼウスを操っているもの。ゼウスを倒せば結界がとけて、そいつの居場所がわかると・・・」
「リュウト君・・・」
「うっ!?」
うって変わっての冷たく鋭い視線。絶対に適わない存在、絶体絶命の死に囚われているかのような感覚。レーチェルのこればかりは慣れようもない。
「これだけのことをする存在が結界がとけたからと言ってすぐに居場所がわかるとでも思ったのかしら? 安心しなさい、私の方でそっちも探しておいてあげるわ。だから、あなたがすることは・・・」
「その代わりに最大限に強くなっておけってことか?」
戦いはまだ終わっていない。これから訪れるのは平和なんかではけしてない。・・・ただの戦いと戦いの間に生まれた谷間にすぎないのだから。
「そうね・・・って言いたいところだけどそれだけじゃダメよ。確かに次の戦いは今回の戦いほどぬるい戦いじゃない。でもね、力や知だけでは超えられないものがあるの。貴方はまず心を鍛えなさい。自分の心のありかを、自身が目指す本当のものを見つけなさい。それが出来なければ・・・本当に死ぬわよ」
以前、そう、昔魔界に行く前にもアシュラに同じようなことを言われたことがあった。次の戦いはさらに過酷、だから力も知も今以上に必要・・・けれどもっと必要な物があるか。あの時に見つけたと思ったもの、自分が幸せでいられる場所を守るために戦う。だが、それは確かに中途半端なんだ。何を『幸せ』と思い、何を『目指し』、何のために『戦うか』。俺はまだ、それさえも理解できていない。
「難しく考えることはないわ。でも真剣に考えなさい。瞑想とは気を練ることばかりではないわ・・・自分の心を見つけ出しなさい。それが出来たなら、貴方の力は今なんかとは比べ物にならないぐらいに大きくなる。それにあなたが幸せになるためにも必要なことよ」
・・・幸せにか。今のままでも十分に幸せだとも思うんだけどな。まぁいいさ、レーチェルが任せろと言うのならば任せる。俺は・・・俺がやるべきことをやっていこう。
「さて、話があるんでしょ?」
他の人が誰もいなくなった神殿でレーチェルさんの声が響く。そう、そのために私は・・・いえ、私たちはみんなを先に帰してここに残ったのだから。
「ええ、勿論お話がありますわ」
「私たちが気づいていないと思ったら大間違いだよぉ!」
今まで隠れていたコーリンさんとママナちゃんも姿を現して抗議する。ええ、私たちとしてはあなたの行動を見過ごすのは危険が大きすぎますから。
「お答え願います、レーチェル殿。あなたは本当は今回の騒動の黒幕の居場所を知っているはずです」
「そうね、ご明察よメイちゃん。いえ、ママナちゃんやコーリンちゃんに教わったことかしらね? まぁ、そんなことはどっちでもいいわ。ええ、私はゼウスを洗脳したものの居場所も、さらにそいつを良いように動かしている奴の居場所も知っているわ・・・でも、それがどうかしたの?」
!? まさか、さらに奥がいたとは思わなかったわ。うっかり口を滑らせたとは思えない。これは私たちに情報を与えているのか、それとも混乱を狙っているのか・・・嘘をついているようには見えないけれど、レーチェルさんに関しては油断はできないわね。
「どうしたの? じゃありません! 知っていたのならば何故にリュウト殿や女王様に言わないのです! まだわからないなんて嘘をついてまで・・・」
「さっき言った通りよ。今のリュウト君たちじゃ次の戦いは厳しい。ここで時間を稼がせてもらうわ。いえ、時間を稼ぐための今回の戦いよ」
時間を稼ぐ・・・果たしてそれはどっちにとっての時間なのかしら?
「それは真に私たちにとっての時間でしょうか? 魔界の奥の方にいるアシュラ様はともかくとしてもリュウトさんやアキさんは地上にいます。当然、そのものも居場所はわかっていると見ていいはずです・・・相手にとって都合がいい状態ならば時間など稼がせてくれないのではないのですか?」
「そ、そうだよぉ!」
ママナちゃんはどっちかというと便乗しているだけみたいだけど、まぁ彼女は(実年齢はともかく)若いものね。その点コーリンさんはさすがだわ。的確に矛盾点を突いてくる。
「私は言ったわ、時間を稼ぐための今回の戦いだったと。当然向こうにも今動けない理由がある。もっともゼウスを洗脳した奴だけだけどね、その後ろにいる奴にとってはこんなのはお遊びもいいところでしょう」
時間を稼いでいるのは双方だということね。だとしたらその時間でどっちがより得をするのか・・・天秤がよりどちらに傾くのか・・・ということになるけど。
「信用していいのですね、レーチェル殿」
「ええ、これからどんなことがあったとしても私はあなたたちの味方だわ。・・・だからただ信じてほしい。今はそれ以上のことは言えないわね」
ならば信じましょう・・・ただし同時に疑いましょう。もしも・・・私ならばいい。もしもアキやリュウト君を裏切ろうものならばあなたと言えども必ず後悔させてあげるわよ。
そして、その後とある場所で
「時間を稼ぐ・・・とな」
「ええ、今のまま攻めても得策でありません。そして面白くもなければ、あなた様の目的にもそぐわない」
暗い室内。玉座にどっかりと座るものと目の前にかしずくもの。それは・・・
「たしかにな・・・ならば、そちらの方は任せよう。我を裏切るなよ・・・レーチェル」
「仰せのままに・・・」
竜神伝説第4部『天界からのSOS』完
第5部『仮初めの平和の中で』へ続く
さて、これにて第4部は終わり。第5部は特訓や自分探しや、日常ほのぼのコメディがあったりするのですが、3部と同じで意外なところに意外な伏線が隠れていたりするので探してみてください。もっとも3部の伏線もまだ大部分が伏されたままですけどね
レーチェル「そして私の動向を・・・かしら?」
ですね~、はたしてレーチェルは敵か味方か!? 操られているのかそうじゃないのか! いろんなパターンを考えておいてください♪ ということで今回はこれで終わり! 続く第5部も見てくださると非常に嬉しいです。




