5話 「絶望の終着駅」
「ほう! 女、その顔を見る限り知らなかったようだな。どうだ?この者の所為で貴様はこんな目に遭ったのだ。恨み言に一つでも聞かせてやれ。」
そうだ・・・言い訳のしようなどない。間違いなく俺が皆を巻き込んだのだ。その上、先生を助ける手段もないときている。人質にとられているのだから仕方がない? そんな言い訳がなんの役に立つと言うのだ・・・俺は身動き一つ取れない。先生の顔を見ることさえも・・・怖くてできないと言うのに。
「リュウトくん・・・あなたが竜神だったのね。ほら! 何を俯いてるの! しっかり私の顔を見なさい!!」
そうだ・・・俺は例えどんな言葉を投げかけられようとも、それを受け止める義務がある。そう思い、恐る恐る見た先生の顔は・・・満面の笑みだった。
「竜神の力を受け継ぐなんて凄いじゃない! お姉ちゃん鼻が高いぞ♪ リュウトくんのことだから私たちを守ろうとしてくれたんでしょ?・・・ごめんね、お姉ちゃん・・・あなたに守られてあげられそうもないや。だからね、お姉ちゃんの代わりにあなたは他の人たちを守ってあげて。他の多くの人たちを・・・あなたならできるわ。だって私の自慢の弟なんだから。」
それ以上・・・それ以上言わないでくれ。そんなことは・・・認めたくない!
「名前も知らない騎士さん。私は人質になって大事な弟の足を引っ張るなんて嫌よ。殺すなら・・・さっさと殺しなさい!!」
嫌だ・・・先生・・・俺の前からいなくならないでくれ・・・。
「なるほど・・・ただの女と侮ったこと詫びよう。そして、そこまでの覚悟を見せられたら叶えてやるのがせめてもの情け。冥土の土産に名ぐらいは教えてやろう・・・俺の名は闇黒騎士ヘルだ。」
ヘルと名乗った騎士の剣がマリアさんの心臓を貫く。辛うじてまだ息があるみたいだけど・・・あれではもうどうにも出来ない。
「せ! 先生!! 目を開けろよ!あんたがこれぐらいの傷で死ぬわけないだろう!!?」
本当はリュウトだってわかっているはず。マリアさんは・・・助からない。
「こ・・・こら、お姉ちゃんだって言っているのに・・・。リュウトくん・・泣かないでよ・・・ほら、私が好きだった・・・いつもの笑顔・・・。」
マリアさんの言葉は最後まで言うことはできなかった。なぜなら、その前に闇黒騎士がその首を切り落としたから・・・。
「ね、姉さ~~~~~ん!!!!」
リュウトが自分の足元に落ちたその首を抱きしめて叫ぶ。・・・マリアさんの顔は女の私から見ても綺麗だと感じる・・・笑顔だった。
でも・・・悲劇はこれで終わらなかった。突然、火の手に包まれた孤児院の扉から出てきたのは見るからに下級の魔物。特に脅威でも注目すべきものでもない・・・その手に二人の子供の首さえ存在していなければ。
「っ~~~~~~~!!!」
リュウトの言葉にならない叫びが響く。それはそうだろう・・・私だって辛い。膝が震える。酷い嘔吐感がある。涙なんてとっくに麻痺して出ても来ない。闇黒騎士も顔をしかめたところを見ると彼の指示ではないのだろうが、そんなことは何の慰めにもならない。
「ふん、身近なものの死に心が折れたか。未熟よな・・・。」
膝をつき、身動き一つしないリュウトにヘルが近づく。本当は私が守らないといけないのに・・・体が動かない。ここはまさに地獄そのものだった。けれど、地獄にも希望はあったらしい・・・後にさらなる絶望となろうとも。
「リュウトを虐めるなぁ~~~!!!!」
飛び出してきたのは昨夜森であったママナ。どうやら異変を察知してやってきたみたい。でも・・・ママナとヘルの実力差はあまりにも大きい。
「きゃう!」
「ふん、どいつもこいつも・・・力なきものは黙っておるがいい!」
「待て! ・・・ママナを! ママナをどうする気だ!!」
「ほう? 先ほどまで戦意を失っていたというのに・・・こんな魔族のために心を取り戻すか! 面白い!! 安心しろ、こんなものでも我らが仲間、自ら進んで竜神様に協力するよう再教育してくれるわ。」
「させない・・・絶対にそんなことはさせない! アキ!! 力を・・・力を貸してくれ!」
リュウトが・・・私の力を必要としてる。・・・ここで動けなかったら私は何の為にここにいるのよ!!
「無論だ! 私はいつでもそなたの味方だ!」
「力なきもの共がほざくでないわ! サンダーソード!」
きゃ! 雷の基本技であるサンダーの魔法を剣に落として放電? あれが魔法剣って奴?
リュウトが果敢に雷をしのぎながら接近していく。・・・やっぱりリュウトは魔法が使えないみたいね。なら!
「援護は任せろ!ファイヤーボール!」
私の援護を受けて、リュウトがヘルに切り込む! だけど・・・
「愚か者め! 魔法の制御も出来ぬものがこの剣と打ち合うなど!」
帯電した剣に触れた瞬間に雷がリュウトへと流れ込んでいく。
「うぐぅ・・・・うぉぉおおおお!」
気迫だけならば・・・リュウトの方が遥かに上だろう。でも
「笑止。気迫だけで勝てるのならば・・・誰も苦労はせんのだ。」
押されているのはやっぱりリュウト。正直、リュウトとヘルでは剣技のレベルの桁が違う。
「もう一度受けてみよ! サンダーソード!」
「私を忘れるな! エクスプロージョン!」
エクスプロージョン、これも火の基本技の一つ。爆発魔法だから本来味方が近くにいるときには使いにくい技だけど、威力は申し分ない。
相殺された雷と火。その爆風が晴れたとき・・・
「奥義、心衝。」
とん・・・と軽く打ち出されたかに見える剣の柄によるリュウトの胸への打撃。でも・・・それを受けたリュウトは静かに倒れたのだった。
「りゅ、リュウト! 何をしておる!? そんな一撃で!?」
「無駄よ、俺の一撃でその者の心臓は止まった。苦しまずに逝けたことを感謝するがよい。」
そんな・・・嘘だよね? リュウトが・・・死んだなんて・・・。思うように動かない足を引きずるようにリュウトの元に行き、胸に耳を当てる・・・嘘、心臓の音・・・聞こえない。
「リュウト! リュウト!! 嫌だよ!! ねぇ!目を開けてよ~~! リュウト~~~~!!!」
「壊れおったか。・・・命を奪うほどの価値さえもないな。」
ヘルが何か言っていたような気がするけど・・・私にはもう何も聞こえない。もう何も見えない・・・何も考えられない。
まさか、まさかの主人公の死!? 次回からは竜神伝説じゃなくてエルフの女王伝説になってしまうのか!?
マリア「冗談じゃないわよ。お姉ちゃん認めません! リュウトくん! 心臓が止まったぐらいで死ぬんじゃないわよ!」
・・・あのマリアさん? 突っ込みどころは一杯あるんですが、とりあえず・・・あなたは確実に死んでいますよね?
マリア「ファンタジー小説なんだから幽霊の一人や二人であたふたしないでよ。」
いや、平然と出てきて悠長に喋る幽霊は珍しいかと・・・。
マリア「そんなことはどうでもいいわ! リュウトくんが本当に死んでたらとり殺してやるわよ?」
・・・えっと・・・では次回をお楽しみに~♪
マリア「あ~! 待ちなさい~~!!」




