7話 「心の支えはいつでも」
「残念ね、一歩私の勝ち。・・・見つけたわよ、あなたの心。そして帰ってきなさい、より強い心を・・・あなたの本当の心の形を取り戻して!」
『リル・カタムス』古より伝わったその伝説の魔法は対象の心を覗き込む魔法。そして必要とあれば、対象の心の世界に入り込むことができる魔法・・・あなたの心の中見させてもらうわよ、リュウトくん。
「まったく、発動が面倒な割に隙だらけになる使えない魔法さね。古代文字を使うような魔法ならばもう少し考えてほしいものさね」
「そうでもないわよ? たしかに心に入るのは隙も大きいけど、なかなか便利な魔法なのよ、あれは」
暗い世界、ここがリュウトくんの心の世界とはとても思えないところね。そう、おそらく本来の彼の世界はもっと光にあふれているはず・・・そして暗いのではなくてさびしい世界なのでしょうね。
「さ、あなたにとっても私がここにいることは良い事じゃないでしょ? さっさと出て来て頂戴」
私にとってもリュウトくんは大切な子・・・こんな世界に閉じ込めたくはないのよ。さっさと出てきてもらうわ、元凶さん。
「うごごご・・・女、我の邪魔をする気か?」
「邪魔? 違うわね、あなたを消滅させる気よ。ここはあなたがいていい世界じゃないわ」
黒い闇・・・いえ、もやのようなものを睨み付ける。私から見ればたかがこの程度のもの・・・でもリュウトくんには厄介な相手。あの子は優しすぎるのよ、だからこんなのに影響を受けてしまう。でも、竜神の力は違う・・・一度受けた力に対する抵抗力、免疫のつき方は並ではないものね。
「我を消滅? くはは、馬鹿も休み休み言うがよい、女よ」
吐き出される無数の矢・・・シャドーアローね。悪いけど、あなたの本体ならばともかく切り離されたエネルギー体ごときに負けるつもりは私にはないの。
「ム? どこに消えた?」
それはほんのわずかなずれ。幻覚の真髄は目をごまかすことではない、心を惑わすこと。・・・私の幻覚はね、見ることもできずに痛いのよ?
「貴方相手に時間をかけるつもりも私にはないのよ。消えなさい、永久の闇の中へ 『デスティニー オブ デス』」
分子原子・思考に至るまで完全崩壊させる私の文字通りの必殺技。これを受けてね・・・形をとどめておける物質なんて存在しないのよ?
そして本来の姿を取り戻した心の世界・・・中心にいるのはやっぱりあの緑髪の子。ふふ、ちょっと焼けちゃうわね。心の支えはいつでもあの子なのね? リュウトくん。
「随分と遅かったじゃないさね、光の女神様?」
「あら、そうかしら? 歳を取ると時間が早く感じるっていうのにね~」
バチバチと飛び散る火花。言っておくけどあなたと仲良く触れ合うつもりなんて私にもないわよ?
「ふふ、そこらへんにしておきなさいリリィ。それに光の女神様もね? 私から見ればあなたたち2人とも若いわよ」
「「年増 (さね)」」
ボソっとつぶやいた、不覚にもハモってしまった言葉にルーンの額に青筋が走った気もするけど気にしないわ。そんなことよりも重要なことは・・・
「まぁ、いいわ。さ、あなた達にはさっさとどこかに行ってもらいましょうか? お互いの目的のためにはそれが一番平和だと思うけど? もしも、これ以上リュウトくんに手を出そうというのならば・・・」
手に持つ剣に力が入る。たしかにリリィとルーン・・・2人がかりはかなり厳しいと言わざるを得ない。でも私がリュウトくんを鍛えるように、私自身も鍛えなければいけない。この程度の試練を超えられなければいつの日か仲間として・・・なんてとても言えないわね。
「フフ、そんなに気負わないでほしいわぁ、光の女神様。別に私たちは今、竜の坊やをどうこうしようとは思ってないもの。彼は私たちにとっても生きていてもらわないといけない子なの。だ・か・ら・今日はこれだけ」
そうでしょうね・・・もしもこの子たちが本気だったらリュウト君はとっくに死んでいる・・・って!?
「あなたは何をやっているのかしら!!」
「あ~ら? 何を光の女神様がかりかりしているのかしらね? まさか1万年も生きてきてキスの一つも知らないわけじゃないでしょ? 可愛い男の子を前にしたらキスの一つもしたくなるのは当たり前よぉ。だって、私はサキュバス・・・これでも淫魔なのよ?」
言うだけ言って逃げるように(いえ、実際に逃げたのね)いなくなったルーンとリリィ。あなたがそういう存在だってことは嫌ってほど知っているわよ! もう、アキちゃんになんて言ったらいいっていうのよ・・・ま、まぁ言わなければいいんだけど。私ちょっとどうかしているかな?
「まぁ、しっかり頑張りなさいリュウトくん。あなたの試練はまだまだ続くのだから・・・」
ルーンたちがいなくなったことで通常空間に戻ったこの世界。だからこそ、アキちゃんたちがこっちに近づいているわね。アシュラ君に見つからないうちに退散しておきましょう・・・ちょっとほっぺたにキスをしたのは親愛の証・・・よね? きっと。
というわけで無事に8章も終わって再び次回からはゼウスの居城へと進んでいきます!
アキ「一体どこが無事じゃと言うのじゃ・・・」
え、えっとアキさん? ものすごく怖いのですが?
アキ「そうじゃろうのう、ものすごく怒っておるからの。私とて2回(※3回目はアキは気絶してたので知りません)しかキスしていないのに! ルーンも2度目とはどういうことじゃ! そしてレーチェル殿まで一体どういうことなのだ!! あなたは血のつながりがあるだろうに!!」
まぁ、繋がりがあると言っても相当薄いですけどね・・・。たぶん、近親婚にはあたらないぐらいには。
アキ「・・・(ギロ!)」
え、え~・・・では次回予告をお願いします(汗)
アキ「ふん・・・合流し再びゼウスの居城に向かうリュウトたち。そして待ち受けるのは天使と神々の大部隊! 次回、竜神伝説第4部9章『激突! ラグナロク!?』リュウトは私のものだ! 誰にも渡さんぞ!」




