6話 「心をあなたに」
「壊す・壊す・殺す・壊す・・・」
正気というものが感じられない目。こう見えてもそれなりの時間生き物を見てきた私はその目を見れば考えていることの1つや2つ見抜くは訳ない。でも今の彼の眼からは何の感情も感じられない。ただ、狂ったむき出しの殺意をあたりにふりまいているだけ。
「いつか必ず訪れる試練。いつか必ず目にしなければいけない光景だけどね・・・やっぱりあなたのそんな姿は見たくなかったと思うのは甘いのかしらね」
「そりゃぁ光の女神様とも思えない甘ささねぇ。自分以外の生き物は全て自分の手ごまとでも思っていたんじゃないさね」
私の言葉にそう煽りを入れるのはリリィ。彼女の言うように思えたらどんなに楽かわからないけどね。私にとってはリュウト君はやっぱり可愛い子孫なのよ。・・・あの子と私の血を引いたとても大切な子。本当ならばこんな戦いに巻き込みたくなんてなかった。
「ふふ、その甘さもまた光の女神様の強さよ。ねぇ、レーチェル?」
「どうかしらね? そして私にはあなたたちのようにこの状況を達観する余裕もないのだけど?」
本当にそう。この2人はある意味自分も世界も達観している。だから、失敗を恐れていない・・・死んでもいいから。世界が壊れてもいいという前提で動いている。それは強さなのかもしれないけど、私はあくまでも守りたいからこそ戦うのだから。
「悪いけど、早速決めさせてもらうわ! ミラーフィールド!」
リュウト君を覆う鏡の結界・・・堕天使レミーを元に戻すのと同じ。今のリュウト君を取り巻く闇を強いダメージを与えて追い出してやれば元に戻るはず。元々彼の『外』からやって来た闇なのだし。
「!!? 壊す! 壊す!! 壊す!!!」
限りなく本能で動いているはずの今のリュウト君すら脅威を感じているようね・・・そしてそれは正解よ! 堕天使レミーに使うような手加減バージョンで打つつもりはないわ!
「トライライトスピア!」
手加減した一本の光じゃない。3本の全力の光を中に注ぎ込む。これが本当のミラーフィールドの力・・・ざっと世界を100回は滅ぼせる力があるんだけど、今のあの子にはどのぐらい有効かしらね?
「・・・ぐがぁ!!」
!? まさかただの気合いだけで鏡の光も吹き飛ばしてくるとは思わなかったわ。でもこれはほんの一部だけ、私たちが抗おうとしている存在のチリにも等しい外側の力が流れ込んでいるだけにすぎない。こんなところで私がつまずいてちゃ、この子たちを巻き込む資格さえもないってものね。
「竜の坊や? オイタはここまでにしてね? ・・・『スパイダー・ネット』今の坊やには下手な幻影よりもこっちの方が効くでしょう?」
彼女たちとのチームワークがいいというのもあまり嬉しくないところだけど、今は頼もしいのも事実。そして幻影というのは心に対して使うもの・・・心が見えていない今のリュウト君には効かないでしょうね。でもあれなら
「さて、あたしもやらせてもらうとしようさね。そしてわかっているんだろうさね? 光の女神様? 想像以上すぎたさね、これを力技で戻すのは至難の業さね」
そんな軽口を叩きながらもリリィが織り込んでいくのは多重魔法陣。どれか一つとってしても並みの魔法使いならば1万人ぐらいは必要な超高等魔方陣。それを私がざっと確認しただけで持って1億は同時展開しているわね。あれぐらいあれば・・・今のリュウトくんでも5秒ぐらいは足止めが効くかもしれない。
「ええ、そうね。最後の仕事は私ってことになるんでしょうね。とりあえず、見た目で分かる程度には信頼してあげるわ。2人で全力振り絞って時間を稼ぎなさい」
「ふふっ、言ってくれるさね! いいさ、今回だけはあんたのお守をしてやるさね! 100万の輝きし世界を闇の底へ導かん。古より伝わりし禁じの封を今! エターナル アウト!」
倒すことではなく、正気に戻すが目的。ダメージを与えることが出来なく時間稼ぎも意味がない。そして、方法がわかっているならば下手な小細工なんかよりも一点集中の方がいい。ルーンとリリィの行動封じのコンボならばおそらく10秒弱は持つでしょう。その間に私は
「とこしえの光のもとにわが心をささげよう。その光を我が友へと、願うはただ一つ、かつての安らぎの日々への帰還なり 『リル・カタムス』」
古代言語だと言われるこの魔法名と長字詠唱に支えられたこの技ならば・・・彼の囚われた心を見ることができるはず!
「壊す! 壊す! 殺す!!」
「暴れるんじゃないさね!」
「まさかここまでとはね。これ以上はもたない?」
あの2人の結界をこうまで簡単に破壊しようとするそれを可能にする彼の潜在能力もとんでもないけど、やっぱり一番怖いのはあの存在の力ね。そしてやはり竜神剣は・・・
「残念ね、一歩私の勝ち。・・・見つけたわよ、あなたの心。そして帰ってきなさい、より強い心を・・・あなたの本当のここその形を取り戻して!」
さて、そういうわけでもう少しだけ続きます。スペシャルチーム戦!
マリア「リュウト君もまた面倒事によく巻こまれるものだわ」
まぁ、それが竜神の宿命みたいなものですから^^
マリア「何が宿命よ・・・あの子はこんなことをするために力を得たわけじゃないのに」
したい事だけが出来るほどに彼に与えられた力と使命は軽くはないのです。もっともそれを受けることができるだけの強さも持っているのではないですか?
マリア「当たり前でしょ! 私の自慢の弟なんだから!! それはそうと・・・リュウトくんの安全はもう確保されているのよねぇ?」
あはは、なんでしょう? その返答次第ではとでも言いたそうな脅しは・・・
マリア「あら? わかっているなら話は早いわ。当然でしょ? それともしばらく会わないうちに私の怖さ忘れちゃったかしら?」
い、いえ・・・まさか~・・・ってことでサヨナラです~!!
マリア「うふふ、逃げるってことはそうなのね? ・・・待ちなさい!!!」




