2話 「悲しき予定調和」
それから数日。小さい田舎町であった村にうわさが広がるのは恐ろしい程に速かった。
「ほら、あの子・・・」
「ええ、恐ろしい魔女なんですって?」
「ユミちゃんも森に連れ込まれて殺されそうになったとか・・・」
そして噂とは無責任な広がり方を見せるもの。森へ誘ったのすらリリィの仕業と噂はゆがんで伝わり・・・いや、そうであったとしたらそれはどれだけリリィの救いであっただろうか。
「そうなの! 私は嫌だって言ったのに、あの子は無理やり私をぴっぱって・・・」
涙ながらに口から出されるはユミという少女の出まかせの物語。本来、過失があるのは彼女の方・・・大人たちに糾弾されるべきが自分だと知っているが故の嘘がどれだけ残酷であるのかさえも彼女は知ろうともしないのだろう。
「おや、ずいぶん静かになった物さね。竜の坊や」
「この世界で騒ぐ意味もなさそうだからな。さて、お前の境遇には同情するが・・・だからと言って今のお前に協力する理由もないな」
再び戻った漆黒の世界・・・いや、リリィから供給されていた記憶が途切れただけなのだろうが・・・対峙した現在のリリィに俺はそう宣言する。
「そりゃ、あの程度で分かった気になられても困るさね。あんなのは子供ならば当然の反応・・・そう思える程度には人生ってものをあたしも経験しているさね」
「ならば・・・いったい?」
そう問う俺にニヤリと笑いリリィは
「魔女の行く末なんて大体みな同じもんさね。家も家族を焼かれて・・・自分も紅蓮の炎の中に消える。ただ、あたしの場合は自分だけは生き残っちまったってだけさね。さ、その先の記憶も見せてあげるさ」
冷たい雨が体に降り注ぐ、今のリリィや俺のような存在ならともかく、まだ幼い少女が長時間浴びることは命に係わりかねないだろう。
「どうしたんだい? 野生の獣だって雨宿りぐらいはするもんさね」
突然響いた声は・・・そしてその見た目はまるで今のリリィのようで・・・だが、間違いなく別人とわかるのは目の色が違うからだろう。いや、厳密に言えば顔立ち自体も少々違うが。
「死んでもいい。もうあたしには・・・失うものなんて何もないもの」
「馬鹿なことを言うんじゃないさね。あんたにはまだ失くしてないものがあるじゃないさね」
・・・そうだな。たしかにこの時点のリリィにはまだ失っていないものがある。それさえあれば、また新しい幸せを得ることは不可能じゃない。そう、俺もまたそうだったように。
「知ったようなこと言わないで! あたしに・・・あたしにいったい何が残っているっていうんですか!? 友達も! 家も! 家族もなくしたというのに!!」
「決まっているじゃないさね。あんたはまだ生きてる・・・その命は失っていないじゃないさね。生きてさえいればまたいいこともあるさね」
優しいのだろうな、そして強いのだろう。だからこそわかる・・・これがきっと彼女のさらなる悲劇につながるのだと。もし、この人が一緒にいたのならば今のリリィはきっといなかった。
「そんなの信じられません! あたしは化け物なんです。化け物のあたしと誰が一緒にいてくれるっていうんですか! あんまり変なことを言うと・・・」
リリィの目が怪しく光り、火の力が満ちる。だが、彼女の力と比べると・・・
「確かに普通の人間よりは強い力を持っているさね。でも、私に比べればまだまだ幼稚さね」
ウィンク1つでリリィの火炎は消える。人としては強い・・・だが人ならざる者には、そして彼女に通用するほどの力はない。
「これでわかったさね? あんたが強いなんて思っている力は本当に力を持っている者から見れば子供の児戯も同然さね。それでも不安だっていうなら・・・私があんたの家族になってあげるさね」
「あたしの家族に・・・なってくれるの? あたしはリリィ! リリィ=マジファーです」
「リリィ? へぇ、偶然もあるもんさね。私の家にいる子・・・あんたの妹にあたる子も同じような名前を。おっと、いけないさね・・・私の名前はルナ、大魔女にして伝説と呼ばれた魔女、ルナさね」
こうして再び家族を得たリリィ・・・新たな悲劇の入口に立っているとはきっとこの時のリリィは思っていなかっただろうな。
リリィの過去が続々暴かれていきます。これがどう本編に絡んでくるのかというと・・・実はここまでおまけの部分。問題はこれからなのです!
レミー「ム~! なんでそういうことするの~!」
いや、おまけといっても説明しておかないとつながらないことというのもあるのです><
レミー「そうじゃないよ~! だって可哀想・・・わたしと同じ気がする」
ああ、なるほど・・・。たしかに境遇は近いかも。そして彼女の目的がほんの少し見えてきたら。ぜひそれを覚えておいてください。それが物語の核心部分につながることです。
レミー「ム~? よくわからないよ~?」
・・・まぁ、レミーだしね。みなさんは大丈夫でしょう! では次回またお会いいたしましょう!




