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竜神伝説~リュウト=アルブレス冒険記~  作者: KAZ
4部8章『光と闇のロンド』
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1話 「リリィの過去」

 ここはどこだ? 見覚えのない場所、見覚えのない人々。そして自由に動かない体。俺は確か・・・


「ねぇ、リリィちゃん? 聞いてる?」


 突然の聞き覚えのない声から発せられた聞き逃せない言葉に意識がはっきりする。そうだ、俺はリリィと戦って、それで・・・ならばここはリリィの過去なのか? 俺に何を見せる気だ・・・。


「あ、うん・・・聞いているよ。それで、なんだっけ?」


「もう! やっぱり聞いてないじゃないの! あのね、森の奥の方に出来た教会にかっこいい男の子が来てるんだって! だから一緒に会いに行こうよ!」


 ごく普通の・・・まぁ、町で普通になんか暮らしたことのない俺が言うのもなんだが、たぶんごく普通の暮らしなのだろう。街並みが古めかしいのは、時代が古いから当然。ならば、こうやってかっこいい男の子に興味があって会いに行こうなんていうのは微笑ましい女心っていうのかな? よくわからないが。


「えっ? でも、森は危ないから行っちゃいけないってお母さんが・・・」


「大丈夫だよ! ちょっとだけ、ちょっと見てすぐ帰ってくるだけだから・・・ね?」


「あっ!? ちょっと待ってよ! ねぇ、ユミちゃんたら~!」


 誘ったのはユミという少女、追いかけてしまったのはリリィ・・・見た目からするとまだ10にもなっていない彼女たちに責任を言うのはおそらく酷なのだろう。そして、森・・・これがあのリリィの過去ということを考慮しなくても十分すぎるほど不吉だな。




「ねぇ、ユミちゃん・・・ここどこ?」


 森というのは昼であっても光量は少なく薄暗い。そして道を外れてしまえばいともたやすく迷う場所なのだ。こんな町はずれの小さな森であっても幼い彼女たちにとっては十分すぎるほど難解なダンジョンだろう。


「グスッ・・・わからない。わからないよぉ・・・」


 旅慣れたものの目から見れば確かにこの森にはわかりにくいとはいえ道があった。だが、それはこの少女たちにわかれというのは無理な品物であろうし、おそらくは大人ですら一般の者は立ち入るような場所ではないのだろう。


 そして迷えば迷うほどに森は不気味さを増し、時間が過ぎるごとに日も暮れ闇が増していく。空腹と恐怖と寒さは確実に彼女たちから余裕を奪い、そして


「ガルルルルゥ・・・」


「ひっ・・・も、モンスター?」


 響き渡る唸り声はまさに恐怖そのものだろう。少女がいうようにモンスター・・・魔獣ではこの声はないのだが、彼女たちに危険な存在であることは変わらない。そう、普通の人間ならば獣1匹をとったって十分すぎるほどに森とは危険な場所なのだ。


「いや、いやぁぁぁああ~! わ、私なんて食べても美味しくないよ!?」


 悲鳴も懇願もどれだけの意味を持つのだろう。深い深い森の中・・・誰にもどこにもその悲鳴は届かない。これが物語ならばさっそうと誰かが助けに来るところなのだろうがな。


 いや、ただ一人だけこの悲鳴を聞いている者がいる。これはリリィの過去だ、そして彼女は言っていたじゃないか『ほんのちょっと人よりも魔力が高かったというだけで化け物扱い』だと。ならば、おそらく・・・ひょっとしたら彼女はここで死んでいた方が幸せだったのかもしれないな。


「ユミちゃん! ・・・ユミちゃん、怖いのなんて・・・あなたなんか消えちゃえ~~~~!!」


 強い魔力・・・そうだな、確かに強いのだろう。だが、それは普通の人間としての話だ。アキは勿論のこと、俺の魔力にすら遠く及ばない。相手が動物程度ならともかく魔物に通用するものではない。それでも


「ユミちゃん・・・大丈夫!?」


 彼女と・・・かつてのリリィと同じ視点で見ている俺にはわかる。彼女の心臓は壊れそうなほどに高鳴っている。自分が発した力の正体さえもわからずに混乱している。それでもなお、友人を心配し、優先した・・・これがあのリリィなのか。


「ああああ、あれ・・・リリィちゃんがやったの?」


「う、うん。・・・たぶん。」


「いや! 来ないで! この・・・化け物!!」


 ピシリと空気が凍りついた気がした。俺もまた恐れた言葉・・・そうであると認識してなお心の底では言われたくないと思った言葉。力の正体もわからず、なんの覚悟もせずに友人からぶつけられた言葉は彼女にどれだけの衝撃を与えたのだろうか?


 だが、俺はまだ知らなかった。リリィが体験した悪夢はここはまだほんの入口にすぎないのだということ。そして彼女が抱える世界への憎悪がどれだけ大きいのかということを・・・。

というわけでリリィの過去の物語です。リリィにもこんな時代があったんですねぇ。


リリィ「確かに懐かしさね。あたしもずいぶん青かったものさね~」


あの優しく純粋そうな少女がこうなるのですから時の流れというのは残酷なものです。


リリィ「それは聞きずてならないさね。文句ならそうさせなかった時代に言っておくれさね。そして・・・乙女に時の流れとかいうものじゃないさね!」


レーチェルもそうですが、あなたはさらに歳上でしょ? いまさら乙女も何も・・・うぎゃあああああ!!!


リリィ「ふう、女心を介さないやつは最低の悪さね。読者のあんたたちはこいつ見たくならないように気をつけることさね♪」

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