6話 「一心同体」
「おや? 逃げちまったかい」
「ああ、そして・・・追わせはしないぞ!」
全身の火傷は痛みはするが虚勢を張る。一応俺、竜神と呼ばれるものは心臓だろうと頭だろうと1ヶ所を失っただけで死ぬほど軟ではないと言うことだが、さすがに消耗率が大きいかもしれないな。
「追う? 何を言っているのさね? あたしの目的は竜の坊や、あんたさ。そして・・・力はもう見せてもらったよ。後はあんたの心を見せておくれさね!」
なっ!? ・・・これは闇? の、飲まれ・・・る・・・。
『へえ? このあたしを見つけるなんてなかなかやるじゃないのさ、光の女神様?』
『くだらないお世辞はいらないわ。今の私なんかよりもあなたはもっと強いでしょう?』
なんだ、これは? リリィ? そしてレーチェルだと!? いや・・・あのレーチェルは俺の知っているレーチェルほどの力はない? そうか、これはあの時と同じ過去の・・・
「そうさね、これは今から5000年ほど前の出来事さね。まぁ、今の光の女神様の実力は知らないさけど、この時だって今の坊やよりはずっと強かったさね」
かつてあったというレーチェルとリリィの戦い・・・以前見た1万年前の戦いもそう思ったが、どうしてこうまで実力が違うのだろう。俺は最強の称号なんていらない・・・ただ、守れる力がほしかった。だが、今の俺では・・・
「魔剣シャドーブレイカー・・・」
リリィの声が響く・・・魔剣? レーチェルの持っているあの剣か? 一般にレイピアと呼ばれる形状。いや、リデアの持っている剣とそっくり?
「あの女神様の持っている剣は坊やの竜神剣の眷属なのさね。いや~、手ごわかったさね。ほら、よく見て見ることさね」
『悪いわね、私も負けられないのよ・・・あの人との誓いにかけて!』
不利は承知で戦うレーチェル・・・あんな姿は想像もつかなかったな。そしてあの人とは先代竜神・・・ライオスのことか。
「ほらほら、見るべきところはそんなところじゃないさね。よく見て見るがいいさね、坊やにもあれが出来るはずさね」
過去のリリィが放つは深い漆黒の闇。そしてレーチェルはそれを軽々と切り裂く。・・・ん? ちょっと待て!? まさかあの剣の力は!
『・・・参ったさね。闇を切り裂くぐらいの剣はそこそこにあるが、まさか再生まで封じるさとはね』
『ええ、この剣は自身を究極と呼んだ剣の眷属よ。あの剣ほどの能力はないけど、無形のものを斬る力と再生を封じる力は引き継いでいる』
無形を斬る力と再生を封じる力・・・そうか、竜神剣の全てを斬る力と能力を殺す力の下位互換というわけか。
「ほらほら、坊やが知るべきところはそんなところじゃないさね。この先が坊やの知らない力さね」
俺が知らない力? ・・・!? 何故、ただの魔法が闇を裂く? 再生を阻害する?
『やっぱりあんたはやっかいさね。魔剣の力の使い方を知っている』
『ふふ、当然でしょ?』
魔剣の力? 俺は・・・竜神剣を、リュムの力をつかえていないのか?
「あはは、しょうがないさね、もう一つヒントをあげるさ。魔剣の力を引き出すとか、使いこなすとか考えているからいけないのさね。剣は剣士たる坊やの体の一部じゃないのさね? 使うのではなく一体化するのさね・・・ならば剣の持つ能力は必然的に坊やのものさね」
剣と・・・リュムと一体化する。力を貸すのでも借りるのでもない。心まで完全にすり合わせる・・・
突然の爆発があたしの世界で起きる。ふふ、この世界で過去の残滓以外でこんなことが起きるのは異物たる竜の坊や以外にはないさね。さて、あとは・・・
「さて、聞くさね。あんたは竜の坊やかい? それとも・・・竜神剣かい?」
もしここで竜神剣の方に乗っ取られているなら失敗。当然ではあるけど、あたしたちが求める希望としては落第さね
「我は・・・俺は・・・俺は・・・・・・俺はリュウト=アルブレスだ・・・」
成功・・・!? あっはっは! ルーン! 確かにこの子はあたしたちの希望になりえるかもしれないさね! なんていうセンス! そしてなんていう心さね! ただの一回でこの技を習得するなんてね!
「リリィ・・・お前が何を望み、何を俺にさせようとしているのかは知らん。だが、その道が俺の望む道と違うなら・・・俺はお前を討つ!」
あはは、安心しな、坊や! 今は異なるこの道・・・いずれ坊やとあたしたちの道が重なる時が必ず来るさね! さて、じゃあ今はその力、もう一度確かめさせてもらうさね!
「さぁ、坊や・・・っ!?」
速い!? ふふ、油断していたとはいえ、いつ斬られたかもわからなかった。これは評価を改めないといけないさねぇ。5000年前の女神様なんかよりもよっぽど強いさね。この『2人』のコンビは!
「行くぞ・・・竜神流・・・刹那!」
「ああ、来るといいさね! 竜の坊や!」
2つの心を1つに合わせる。言葉で言うほど簡単なことじゃないさね。2つの心で1つの体を操り、その心は限りなく1つ。その上でなお自分たちを見失ていない。これを一度でつかむ、なんていう奇跡さね!
「深遠なる闇よ、すべてを覆い、すべてを滅ぼさん! 世界の全てにあたしと同じ悲しみを!! インフェルノ オブ ダーク!」
「そんなこと・・・させるものか! 世界は・・・あいつらは俺が守る! 俺は正義なんかじゃない! 自身の理想の為に他を害する悪でいい! だからこそ・・・この思いだけは絶対に手放すものか! 竜神流・・・風竜斬!」
2つの思いと2つの力がぶつかり合う。・・・だけどね、甘いんだよ竜の坊や。あんたの生はたかがた100年余り・・・あたしの思いにはまだ届かない。そして力はさらにさね!
「ぐぅ・・・守るんだ・・・俺が・・・絶対に・・・!」
「ふふ、竜の坊や。あんたは本当にすごいと思うさね。時が時ならば、あたしよりもずっと強くなったんだろうねぇ。あんたが世界を滅ぼさんとするその姿も楽しみだけど、今日のところはあたしの闇の一部・・・見せてあげるさね」
ぽんと竜の坊やに投げかける黒い点・・・漆黒の闇の一部。さぁ、あたしの過去を見ても心を壊さないでおくれよ、竜の坊や・・・。
さらなる段階へと進んだリュウト・・・けれど、その力はまだまだ及ばず。今回はリリィの勝ちですね。
アキ「そ、そのようなことはどうでもいい! リュウトは・・・リュウトは無事なのか!?」
まぁ、死んではいません。心がそのままで生還できるかはまだわかりませんが・・・
アキ「か、体だけ無事でも仕方ないのじゃ! 心が、あの心がなければそれはリュウトではあるまい!!」
まあ、そこらへんは次章をお楽しみに。一見、物語の本筋から外れたように見える次章ですが、実際は大きく見た物語のど真ん中だったりするのです。そこらへんの謎解きも楽しんでいただけたら幸いです。では、アキ?
アキ「う、うむ・・・リュウトが垣間見るは過酷なリリィの半生。その闇に囚われた時、さらなる道が開かれる。竜神伝説4部8章 『光と闇のロンド』・・・リュウト、私はあなたを信じている」




