2話 「瞬間の攻防」
リリィと名乗った魔女が手をかざすとどこからともなく表れた杖。魔女を名乗る以上は杖を使うことは不思議でもなんでもない。そして、今のは転移系の技だろうか? ならば、水か風の属性か?
「はっ! 竜の坊や! まだまだ戦いなれていないようさね! 覚えとくといいさね、古の時代には自分の属性以外を使う術があったということをね!」
リリィの杖から飛び出してきたのは火? っ!?
「おあいにく様! そんな炎なんてワタシが! えっ!?」
リデアの氷で凍るどころか前方に張った氷の壁さえも何の障壁にせずに溶かし炎がリデアを襲う!
「大丈夫か!? リデア!」
「に、兄さん・・・」
とっさにリデアを抱いて炎から逃れた俺だが、俺もリデアもそれなりに手痛い手傷を負うことになってしまったか。
「フフフ、他者を助ける余裕があるなんて頼もしいじゃないかい、竜の坊や! いつまでその余裕が持つか楽しみさね!」
「フッ、例え死んでもこの余裕だけは失くすつもりはないな!」
そうだ、仲間の1人助けることが出来なくて何が神だ! 何がリーダーだ! この身がいかなる業火に焼かれ、バラバラに引き裂かれようと仲間の手だけは決して離さない! これが俺が俺であるということだ!
「いいねぇ、実にいいさね。あとはその心に見合う実力と・・・その心自体にあいつに勝てる強さがあるかだね」
「リュウトの強さを見る前に私の強さを見てもらおうか! 火の力は私の十八番なのでな! 『我が思いの形は常に一つ・・・汝の力を借りて、ここに現出させん!』ドラゴンソウル!!」
そうだ、俺にはこんなにも頼もしい仲間がいる。どんな時でもお互いに足りないところを補っていけば・・・!?
「ぬるい、ぬるいさね、エルフの嬢ちゃん! この程度の火じゃ髪の1本さえも焼かせては上げられないさね!」
特に防御のために何かをやったという感じはない。アキの力はリュムの強化をまだ受けていないとはいえ魔王さえも焼き尽くせるほどの力があった。つまりこいつは間違いなく魔王たちよりも強い!
「それにやっぱり甘いさね! 魔女が・・・物理攻撃が出来ないとでも思ったのかい!」
何の魔力も感じなかった。だから攻撃にすぐには転じてこない・・・今までの経験則から無意識に思っていたことを根底から崩される。それはただ杖を振っただけにしか見えなかったのだが
「どけっ!!」
その危険性に気が付いたアシュラがとっさにアキに体当たりして杖の延長線上から動かす。
「へぇ? なかなかの防御力だね、あんたもあいつがお気に入りっていうだけのことはあるさね」
「ふん、空間を切り裂くことはできようともオレの体を切り裂くには足りん! オレを・・・オレたちを舐めているのは貴様だ!」
「・・・一応お前の防御力を高めたのは俺なんだがな? 必要なさそうではあったが」
大して驚いた様子も見せず、楽しそうに笑うリリィと自身の誇りを賭けるアシュラ・・・そして戦闘時には意外と相性がいいコクトがそれをサポートしていたようだ。
「リデア!」
「ええ、任せてよ! タイムフリーズ!」
油断も出し惜しみもできる相手じゃない! ここは俺たちの必勝の手で行かせてもらう! はずだったのだが・・・
「な・・・に? くっ、こんな封じ手があるなんて!?」
「っ? 兄さん、いったん時間停止を解くわ!」
時間が停止する直前に張られた炎の結界、いやどうやら同時に転移までしていたようだな。無数に燃える炎のどこかにいるはずだが探し出すことができるほどの時間の停止はリデアにはできない。だが、この状況なら時間が動けば・・・
「ふぁ、ファントムアロー・・・?」
「ふふ、時間停止が絶対の切り札なんて思っているうちはあたしには勝てないさね。まぁでも、天使の嬢ちゃんの判断は悪くなかったさね」
幻影の力のエキスパート、そしてあのレーチェルと模擬戦を行っていたなら転移する相手との戦いにも慣れていたはずだ。だが、その各炎の結界に対してばら撒かれた矢は間違いなく幻影の矢・・・今までのレミーにはこんなに大量に幻影の矢を撃つ技はなかったはず。レミー自体もわかっていないようだし、ひょっとしたら堕天使レミーの方の技か?
「でもやっぱり甘いさね、これがちゃんと転移先を読んで集中させていれば多少はダメージになったかもしれないけどねぇ~」
にやにやと笑うリリィ・・・その顔は早く次の手をうってこいと明らかに誘っている。いや、違うな。何故かは知らんが、こいつは俺たちの情報を持っている。だから知っているんだ、こういう時に俺たちが・・・俺が打つべき手段がなんなのか。だからそれを待っている。
悔しいと思う。情けないと思う。ひょっとしたならば、それはさらなる危機に俺たちを追い込む罠かもしれない。だが、それでもこのままじりじりと追いつめられるわけにはいかない。そう・・・こいつ相手に出し惜しみが出来ないのはさっき思った通りだ。
「いくぞ! まずは・・・わかっているよな?」
「無論だ、我は剣・・・常に言っておろう、主を理解できぬて何が剣だ」
ふっ、よく言う・・・理解できぬ手をうつ愚かな主だと嘆くことも多いくせに・・・だが
「行くぞ! リュム! 竜神剣第一封印解除!!」
リリィ! お前がなにを望み、何を確かめに来ているかは知らん! だが、そうそう簡単に負けてやるほど俺たちは無策ではないぞ!
まずは前哨戦・・・とはいってもリリィはまさに今までで最強の敵なのです!
メイ「それもまだ本気には、ほど遠そうですね。しかし彼女の言うあいつ・・・普通に考えれば彼女ですが、文脈的におかしな『あいつ』が一回ありませんか?」
な、なかなか鋭い突っ込みを!? 確かにあります。そして、その『あいつ』はルーンのことではないのです。
メイ「なるほど・・・この状況において出てきそうなあいつというと・・・つながっているのですね、すべてはあそこで」
とまぁ、これ以上言うと確実にばれますからね。では、次回はリュウトたちの力がどこまで通じるかをお楽しみください♪




