4話 「逃げる勇気」
タナトスとヒュプノス・・・神という称号だけで言えば俺やリデアも同じではある。だが、たかが100年余りの新米神と遥かな昔から語り継がれる死をつかさどる神を同列に扱えるはずもないか。
まして、完全に不意をついたはずのアシュラの一撃をいなすことができるほどの実力者だ。一見、直撃ではないものの攻撃自体は決まっているように見えるが・・・アレは本当にダメージになっているのか?
「アシュラ・・・どう見る?」
「わからん・・・だが、久々に楽しめそうな戦いということは間違いなかろう。」
心底嬉しそうなにやりとした笑いを見せるアシュラ。頼もしいと言えば頼もしいが、こいつが楽しめる戦いっていうのはイコール危険だっていうことなんだよな・・・。
「我に出会った時点で主たちの死はすでに確定しておる。足掻くな、騒ぐな・・・死は主たちが思うほど嫌悪すべきものではないぞ。」
かたかたとしゃれこうべそのものの顎を鳴らして笑うタナトスと感情の読めないヒュプノス。対するこちらは6人・・・いや、今はレミーを戦力とは見ない方がいいだろう。どちらかというとタナトスの容姿を見ても少々青ざめてはいるがアキが戦意を失っていないことだけでも上出来だな。
「でも兄さん・・・あいつは、タナトスはワタシの攻撃を・・・。」
そう、忘れてはいけないポイントはそれ。密かに試みた竜神剣の幻影斬りもなにも変化がないところを見ると奴は紛れもない実体のはず。だとすると・・・
「あの回避・・・あれではまるで邪竜神のようだ。」
アキがぽつりと、そして恐々と紡ぎだした言葉。忘れるはずがない名前・・・アキがその名を呼ぶことさえも嫌がるのはあの結末を思い出すからだろう。
「そうだな・・・あいつのようにこの剣が有効ならばいいんだが。・・・そんな顔をするな、あの時よりもメンバーも増え、俺たちも強くなった。同じ結末になんかしはしない。」
あの結末を恐れはしない。だが、繰り返してもいけない。俺は・・・1人じゃない。自分の命だからと好きに使えるなんて馬鹿なことはもう考えられない。
「ならばよい。私はあんな思いはもうしたくないのじゃ。だから・・・その言葉、決して忘れるでないぞ。」
ホント、難しいな。誰かを救うっていうのは。あの時、あんなに誇らしく思えた事はこんなにもアキの心に深い傷を残している。だからこそ・・・こんなところで俺は立ち止まってはいけないと貴方は言うのだろうな・・・レーチェル。
「・・・さぁ、行くぞ! まずは小手調べと行こうか? 竜神流・・・風竜斬!」
かっての俺の必殺技を出力を弱めたとはいえ、小手調べと言えるのは良いことなのか悪いことなのか。ともかく悩んでいてもしょうがない、今は求める答えを得るために動く時だ! だが・・・
「っ!? どうやら邪竜神ともタイプが違うようだな。」
確かに当たったはずの1撃は何事もなかったようにすり抜けられる。防御の正体がわからねば竜神剣と言えども斬ることはできない・・・どうする? まずは攻撃が有効そうなヒュプノスから倒すか? それでは問題の先送りすぎないが・・・
「リュウト! その前にそなたの!」
「兄さんの傷の手当よ!」
アキとリデアが血相を変えて走り寄ってくる。確かにカウンター気味に鎌での一撃を貰ったが・・・見た目の出血は多いが、実際にはさほど深い傷ではないんだがな。!? どうやらもう1人勘違いしたのがいそうだ。
「・・・竜神流、竜爪閃!」
普段は対象以外に傷つけないように調整している技をあえて地面をえぐるように撃つ。あいにく、タナトスにはすり抜けられてしまったが・・・目的は果たせたな。後はあいつが気が付くかどうか・・・。
「ふん、相変わらずな奴だな、貴様は。」
おっと、どうやらアシュラには気が付かれたようだな。さぁ、お前が戦う時は今じゃないだろ? 戦うことは勇気がいる。だが戦わないことを選ぶもまた勇気だ。お前が選ぶべき勇気は今は後者だよ。・・・安心しろ、臆病者だの裏切り者だのいう奴はここにはいないのだから。
もうもうと上がる砂煙。いや、僕のすぐ横を抜けて行った3本の風の刃・・・おそらくこれが話に聞いていた『竜爪閃』という技なんだろう。
でもこんなに周囲を傷つける使い方はあの人らしくない。だからきっとあの人は・・・師匠は僕に来るなという警告のために撃ったんだ。
僕・・・メイ様に言われて情報収集をしていたヤマト=ルオールはようやく師匠を見つけることができた。でも見つけた師匠は死神っぽい・・・いや、まさに死神なのだろう敵と相対していて、手傷もおっていた。僕は・・・無意識のうちに駆け寄ろうとしていたんだ。
メイ様の言葉が思い出される。あの人もこんな場面に出会ったら逃げろと言った。僕は・・・僕はなんて無力なのだろう。悔しかった、僕も師匠と共に肩を並べて戦いたかった。でも無力な僕には足手まとい意外にはなれなくて・・・走り出したかった方向とは逆方向へと走り出す足が恨めしかった。
『それでいい』
そんな師匠の言葉が聞こえたような気がした。
「ふん、最低限の判断力は持ち合わせているようだな。」
「当然だろ? 俺の自慢の愛弟子なんだぞ?」
けなされたのか褒められたのかいまひとつわからないアシュラの言に俺は顔をしかめながら返す。
「だが、何故にこんな場所にあいつはいたのだ?」
「ああ、それはメイあたりの仕業じゃないかな?」
同じように気が付いていたコクトが訝しむが、きっと俺が思うには彼女の策略なのだと思う。この手の裏の動きに関してはコーリンなどよりも確実にメイの方が上だからなぁ。コーリンなら自分で諜報活動ぐらいするし。
「あんたたち、何言っているのよ?」
「おねえ・・・じゃくてメイがどうかしたのか?」
この2人は案外俺以外のものに対する察知範囲は狭いんだな。まぁ、余裕がないだけかもしれないが・・・ともかく
「なんでもないさ。さぁ、今はこの戦場を勝ち抜くぞ! 無論、犠牲など出さずにな!」
タイトルを見て逃げるのか!? と思った方も多いのではと思いますが・・・。
メイ「逃げたのは彼でしたね。しかし私が命を出してからまったく音沙汰がなかったので忘れられているのかと思っていましたが・・・」
それは僕が・・・って意味だよなぁ。僕がキャラの動向を忘れてどうするんですか? 勿論覚えていますし、彼には彼の役割があるのです。
メイ「なるほど、では彼女たちも・・・」
当然です。あの2人もちゃんと出番はありますよ・・・いつどんな場面かはともかくとして・・・ですが。
メイ「まぁいいでしょう。では当然私も・・・」
さ、では今回はこの辺でさようなら~。
メイ「・・・このわたしが逃がすと思いますか? 幕が閉じても・・・クスクス、では皆様『は』このへんで。またのご来訪お待ちしております。」




