2話 「信頼と壁」
これ以上話すべき言葉も見つからず、俺たちは再びゼウスの居城を目指して歩き続ける。そんなときだった
「ねぇ、兄さん・・・あの子、レミーは大丈夫かしら?」
普段ならニコニコと笑いながらくるくると代わる代わる話しかけていくレミーが最後尾をとぼとぼと歩いている様子を見てさすがのリデアも心配なようだな。
「大丈夫・・・ではないだろうな。だが、今の俺たちにこれ以上出来ることはないさ。でも兄さんとしては嬉しいぞ。なんだかんだ言ってリデアがレミーを心配してくれてな。」
「は? はぁ!? わ、ワタシは別にあの子のこと心配しているわけじゃないわ! そ、そうよ、ただこの辛気臭い空気が嫌だっただけよ!」
と途端に顔を真っ赤にして否定するリデア。わかりやすいのはいいことだが、兄としてはもう少し素直になってもらいたいものだな。
「まぁいいや、それにな・・・あのコクトだって何も言わずに我慢しているんだぞ?」
そう、コクトはレミーに何も語らずに先頭を歩いている。一見普段通りにも見えるが、ときおり固く握られている拳が内面の葛藤を隠しいれていないってところだな。
「・・・あの男はただ冷徹漢だから妹のことなんてどうでもいいってだけじゃないの。」
「ふぅ、そなたもわかっておろうに。あやつは相当なシスコンじゃぞ? ・・・そなたと同じようにな。」
俺たちの会話を隣で黙って聞いていたアキが呆れたように口を出す・・・しかし
「なっ! だ、だれがシス・・・じゃなくてブラコンよ! ワタシはそんなんじゃないんだからね!」
だよなぁ? リデアの言動聞いている限り俺は嫌われていないか? 自分で考えておいて少々気落ちするぐらいショックな話ではあるが・・・
「・・・はぁ、どの口でそういうのだか? なぁ、リュウト?」
「あ、あははは、悪いアキ、それに関してはノーコメントにさせてくれ。」
「はぁ、こっちにもわかっていないのがおったか。・・・まぁ、私にとっては好都合なのかな?」
ん? それは一体どういうことだろう? なんて俺が首をかしげていると
「ねぇ、兄さん・・・でもワタシはレーチェルから聞いたわよ・・・兄さんの竜神剣にはレミーを助けられる力があるって。」
「・・・・・・そんな力はないよ。きっとレーチェルはそんな言い方はしなかったはずだ。そう、あの力はそんなことに使える力じゃない。」
リデアの言う力がなんであるのかはわかる。そう、竜神剣は全てを斬る剣・・・文字通りにな。つまり
「レーチェルは言っていたわ! 竜神剣には感情や記憶すら斬る力があるって! だからあの子の恐怖を斬ってあげれば・・・」
そう、だがその力はリデアが思っているようないい力ではない。そして、リデアの大きくなった声に俺よりも早く反応したのは
「・・・少し声を抑えろ。いくら奴が呆けていようともその音量では気が付く。」
「アシュラ!?」
コクトとほぼ並んで歩いていたアシュラがいつの間にか横に来ていた。まぁ、こいつも素直じゃないがレミーを気にしているという意味じゃ同じだからな。
「・・・ふん。」
「な、なんだっていうのよ。・・・まぁいいわ。で、なんで兄さんは斬ってあげないのよ。」
言うだけ言ってまた先頭に戻っていったアシュラに悪態をつきながらも声を潜めるあたりリデアも本当はわかっているんだろうな。そして、リデアの問いの答えは
「竜神剣はな、都合よく特定の恐怖だけを斬ることはできないんだよ。」
「・・・どういうことよ。」
俺の言葉にいぶかしむような表情をするリデアだが、どうもこうも言葉通りの意味なんだよな。
「もしも俺がレミーの恐怖を斬ったとするならば、今レミーが感じている恐怖だけでなく『全ての恐怖』を斬ってしまうのさ。そして、一度斬られた感情は二度と再生しない。」
「それってつまり・・・レミーは恐怖を感じない存在になるってこと?」
「そう、恐怖っていうのは危険に対する反応だ。戦場で感じ取る恐怖は俺たち戦士にとっては何よりも大切なもの。・・・それに負けなければだがな。」
恐怖を感じない・・・それはあまりにも歪過ぎ、そして危険だ。いや、恐怖だけじゃない。竜神剣を使えばどんな聖母のような人でもその優しさを斬ることもできる。逆にどんな憎悪に満ちたものでも憎悪をそのものを切り裂けるだろう。だが、一切の優しさや憎悪を持たないなど生き物として欠陥もいいところ。ましていかなる理由があろうとも強制的に人の感情を壊すなど許されるはずもない。そんなことをすれば、今回の黒幕とやっていることは変わらないじゃないか。
「・・・」
「それに今回の恐怖だって俺たちが勝手になくしていいものだとも思わないよ。」
「どういうことよ?」
竜神剣の能力が自分の思っていたものと違う、もっと異質で恐ろしいものだとわかったのか沈黙していたリデアだが、俺の言葉にまた眉をひそめた。
「感情を消そうが記憶を消そうが事実は変わらない。レミーも俺たちもいつまでも逃げているわけにはいかないのさ。これはきっと乗り越えなくてはいけない壁の一つなんだろ。だからこそ、もう一人のあいつ・・・堕天使レミーはあんなことを言ったんじゃないかな? それに信じているのさ、レミーがこんなことで潰れるほど弱くはないということをな。」
「そうね・・・確かにそうかもしれない。・・・でもちょっとレミーが羨ましいな。」
「うむ、それに関しては私も同意するぞ。」
へっ? 何で羨ましい? それにアキまで?? うっ、なんか二人のまるで分っていないとでも言いたそうな目。この2人、普段は仲が悪いのに俺を責める時だけいいのは気のせいか?
「はぁ、お互い苦労しそうね。」
「うむ。だが私はすでに恋人の座を射とめておる。そなたに譲るつもりは毛頭ないぞ。」
「言ってくれるわね・・・!」
な、なんだかよくわからないが・・・ものすごくピンチな気がする! あはは、誰か俺を助けてくれる奴は・・・いないよなぁ。はぁ・・・。
竜神剣に秘められた力・・・というよりも今まで出てきた能力の別の使い方なんですが・・・
リデア「まぁ、兄さんのことだから説明しておかないとまず使わないでしょうしね。」
その通りなんですが、そこまで断言されるのも・・・
リデア「なによ! せっかく説明してあげたっていうのに! でも実際に使うことあるの?」
まぁ、この段階で解説をしているわけですから・・・。ちょっと変化球的な使い方ですが竜神剣の能力は結構使われることがあるのです。
リデア「ふ~ん、まぁ兄さんは使えるものは何でも使う主義だしね。」
その通りですね。もっとも竜神剣は意外と色々弱点もあるのですが・・・
リデア「でもそれは後々なんでしょ?」
正解です! いや~、だいぶ慣れてきましたね~!
リデア「ムッ! なんだか馬鹿にされている気分だわ。フフ、二度とそんな態度が取れないようにしてあげようか?」
あはははは・・・で、では今回はこれぐらいで! 次回もよろしくお願いいします!
リデア「こら~! にげるんじゃな~い!!」




