9話 「光の女神」
眠りの香が周囲に充満し、動くものがいなくなったのを見計らって私・・・レーチェル=フランは闘技場へと転移する。
今はまだ私は彼らの傍にいることはできない。私と彼らの実力差はまだまだ大きい。 今の彼らに同行することは確実に彼らの成長を阻害するだけになってしまうとわかっているから。
とはいっても、彼らの危機を見逃すというわけにもいかないのが困りもの。来るべき最後の決戦の前には全員の力が必要・・・だからこそ!
「さぁ、出てきなさい。裏の裏のつもりかもしれないけど、私にはその程度の隠密は通用しないわよ。」
ある意味、私の同種。この場を見る手段だけを残して自分は次元の位相をずらした場所に隠れている・・・。あのアシュラくんでさえも気が付かなかったでしょうもう1人の刺客。今の彼らの不意をつかれるのはさすがに危険だわ。
「なるほど、さすが女神レーチェル・・・お噂はかねがね。」
地面に浮きあがった魔方陣の中から出てきたのはやせ型の男。それにしても転移はひどいものね、いちいち魔法陣を浮き上がらせなければできないレベルなんて。まぁ、そもそも転移自体が出来ないリュウトくんたちよりもマシなんでしょうけど。
「そういうあなたは・・・見たことないわね。天使には見えないから神なんでしょうけど。」
「なっ!? 私のことを知らないだと!? 期待の超新星! 近い将来神々のトップに立つと自称する天才! このマーロ=ヴォルスを知らないと!?」
何が天才なんだか・・・。まして自称ねぇ? いいわ、確かに傷ついたリュウトくんたちに任せるには不安な相手・・・私の遊び相手ぐらいは務まるかどうか、試してあげようじゃない。
「おっと、動かないでください。狂暴な番犬があなたを狙っていますから・・・」
狂暴な番犬ねぇ? この子が? 軽く首を振った瞬間に転移させられてきた巨犬・・・いえ、地獄の番犬『ケルベロス』が背後から私の首にかみつく。
「くっはっは! 噂のレーチェル=フランもこの程度ですか! やはり、僕がトップに立つ日は・・・」
「何をそんなに喜んでいるのかしら? マーロくん・・・だったかしらね?」
ぎょっとした顔で彼は血だらけで笑う私を見て・・・ようやく気が付いたみたいね。
「なるほど、幻影ですか。なかなかよくできた幻影ですね。」
「ご名答よ。でもね・・・ちょ~っと気が付くのが遅すぎるわ。いいとこ30点かしらね?」
アシュラくんじゃないけど私としてはケルベロスをけしかける前に気づくぐらいじゃないと遊び相手としては面白くないのよね。これならまだ堕天使のレミーの方がマシかもしれないわ。
「くぬぅ、お前たち出て来い!」
パチンと彼がマーロくんが指を鳴らすと出てくる出てくる、たくさんのケルベロスたち。幻影? って一瞬思ったけど、もっと単純なものだったみたいね。
「ふ~ん、複製したのね。随分と手間のかかることをしたものだわ。」
「手間? ふっ、手間などではないですね、貴方はここで死ぬのですから。」
・・・どうやら私が相手をするのが手間っていう風に解釈したようね。まぁ、それも手間と言えば手間だけど、面白くないのよね・・・弱すぎて
「ガルル・・・? !? キャインキャイン・・・」
ほんのちょっと私が力を込めて睨むととたんに子犬のように震えだしたケルベロスたち。・・・なかなか可愛らしいわね、それにご主人様よりはお利口で能力もありそうだわ。
「お、お前たち!? 何をしているんだ! 早くあの女をかみ殺せ!!」
「ふう、マーロくん? この手の魔獣系の魔物はね、力の強弱に敏感なのよ。そう、自分よりも強い相手には牙をむけない。とりあえず、私と自分の強さを判断できる程度には優秀みたいよ? 貴方とは違ってね。」
私の言葉にぎりぎりと歯ぎしりをしながらもその目はまだ認めてないって感じね。はぁ、自分を優秀だと勘違いしている無能っていうのはたちが悪いものだわ。本当に将来有望っていうのはリュウトくんたちみたいな子を言うのよ?
「貴様らぁ・・・いいからさっさとかかれぇ!!」
もう紳士的な言葉遣いをする余裕さえないマーロくんが取り出し、振りかざした鞭。私としてはまだ勝ち目のあるマーロくんの方に行くかとも思ったんだけど震えながらも私の方に向かってくるなんてなかなかの忠犬だったみたい。
「いいわ、すこ~し遊んであげる。かかっておいで、ワンちゃん。」
「ガルルル・・・キャウ?」
私が殺気を抑えたことで我先にと襲い掛かってくるケルベロスたち。・・・でもそれは甘すぎる。彼らの前に立ちふさがったのは鏡。いえ、前だけでなくすでに彼らを取り囲んでいる。
「さ、これだけ数が多いのだからせめて1枚ぐらいは鏡を割って逃げ出すことを期待しておくわ。『ミラーフィールド!』」
そして
「そそそそ、そんな馬鹿な!? あれだけいたケルベロス共が全滅!?」
「マールくん、だから言ったでしょ? 手間のかかることをしたって。複製はね、時間がかかる割にはオリジナルを超えるものにはそうはならないのよ。やるんだったらもっと元が強いものを複製するか育成という形で1匹に更なる時間を注ぎ込むかしないとね。ま、貴方の実力じゃそんなのを育てたら自分が危ないでしょうけど。」
魔獣・魔物・悪魔・・・その他の種族でも自分が気に入らない行動を自分よりも弱いものに命じられてやることは稀。特に魔に属する力の強いものほどその傾向が強いもの。彼の実力ではこの程度が関の山でしょうね。
「さて、まだ戦う気かしら?」
私のその一言が耳に届いたか怪しいうちに彼は魔方陣の中に消えて行った。ま、好都合だけどね。
「さて、番犬程度の役には立ちそうだし一応治してあげるとしましょうか? ・・・そしてリュウトくん、貴方たちは早く強くなりなさい。私が貴方たちの仲間として戦えるようになるまで。私だって・・・貴方たちの仲間を名乗りたいのだから。」
とりあえず現時点での最強の称号どおり余裕の勝利のレーチェル。ただマーロもけして弱くはないんですよね、相手が悪かっただけで。
レーチェル「あの程度で私に勝負を挑むんですもの。当然の結果だわ。でも逃げ帰ったってことは・・・」
まぁ、そういうことですね。だいぶ先の話にはなりますが・・・。さて、では次章の紹介を!
レーチェル「・・・ふう、まぁ今回は作者くんに従ってあげるわ。戦うこと・・・それが勇気と思うものは多いもの。でも本当にそれだけ? 次章竜神伝説第4部6章『勇気の意味』考えなさい、あなたがするべき勇気ある行動を・・・。」
では次回もよろしくお願いいたします!




