6話 「安らぎと我がまま」
「俺の名はリュウト! リュウト=アルブレス! 竜神の誇りをかけて戦おう!」
「ワタシはリデア! リデア=アルバード! 氷の彫像になりたい子からかかってきなさい?」
俺たち、2人の声が重なるように響く。名乗る名前は違っていても俺たちは兄妹だと自信を持って言える。
・・・とは言っても少々厳しいのも現実。相手はけして弱くはない。俺はやはり操りの糸を斬るために意識も力も温存しておきたいと思うし、傷も浅くはない。
「兄さん・・・その・・・」
心配そうな顔で話しかけてくるのはリデア。確かにリデアだってわかっているはずだな。先ほど、リデアの『タイムフリーズ』の支援を受けて斬りかかった一撃はまさに止めの一撃のはずだった。そう、あの一撃で動きを封じる程度のダメージを与えて操りの糸を斬るはずだったんだ。だが・・・
「リデア、ゆっくり語るは後だ! まだ相手は俺たちほどには消耗していないぞ!」
違うな、『俺たち』ではなく『俺』だろう。そうと知ってなお堅くした表情のまま悲しげに笑いかけてくるリデア。俺は妹にもこんな顔をさせてしまうのか・・・。絶対に守りたいな。きっと、こう思う相手が増えることは重みではなく喜びと幸せのはずなのだから。
「さぁ! 行くぞ!」
先陣をきるのは俺。この傷では長期戦は不利、元々俺は持久力に優れるタイプでもなく守りよりも攻めが得意となればなおのことだな。
「そうはさせるものか!」
迎え撃ってくるのは奴らの兄、シオンだ。奴が持っているのは武骨な大刀、見た目だけで言えば刀である竜神剣とまともに打ち合わせてはいけない武器だ。だが!
「ぬぅ!?」
竜神剣は見た目通りの剣ではない。一度は俺の力不足で折れたことはあるが、本来そう簡単に折れるような剣ではありはしない!
そして後ろのリデアの動きもわかる・・・これもリデアが教えてくれた父さんの奥義のおかげかな? とにかく俺の役目は隙を作ること!
「くっ、逃がすか! 何?」
半歩後ろに引いた俺を追いかけるように繰り出された斬撃を空中で前転をするように避ける。・・・そう俺のつけているマントが奴の目くらませになるように。
「さすが兄さん! 行くわよ! 『フリーズアロー』!」
基本技の中の『フリーズアロー』のような矢や球の発射系は使い手の技量によって複数同時展開する。アキのように8個とはいかなかったようだが、リデアの『フリーズアロー』は3つ。十分に上出来な結果だ。
「兄上! ここはわたしにお任せください!」
横から飛び込んできたのはシズネ。彼女が繰り出したのは水の壁? とりあえず属性はわかったが何を? そうか! 『フリーズアロー』が当たった瞬間に水の壁は凍りつく、おそらくあえて凍り易くしていたのだろう。そしてまだ貫き切っていない『フリーズアロー』は凍った水の壁に埋まるように動きを止める・・・か。
後ろからクスッって笑う声が聞こえる。そう、リデアも気が付いているな? これで彼らは俺たちの目論み通りに一か所に再び集まった。確かにあの防御法は予想外だったが水の壁は同時に彼女たちの視界も封じている。そして俺が・・・いや、天の属性を持った竜神剣が使えるのはアキの火属性ばかりではない!
「行くわよ、兄さん! 『ダイヤモンドダスト』!」
アキの『ファイヤーバード』や『ドラゴンソウル』を受けて『火炎竜尾斬』が生まれるように、リデアの冷気を受けてもまたこの剣は力を発揮する!
「行くぞ! 名付けて竜神流・・・『氷花竜斬』!」
剣に宿った冷気がまるで氷の花のように空中に空気の層という花を咲かせる。だが、見た目の美しさほど優しい技ではないぞ!
「わ、我らの体が凍りまする!?」
「な、何故だ!? 俺の火でもとけぬ!?」
僅かな斬り口から浸透する氷に焦る2人・・・温度とは分子の振動速度のこと、そいて絶対零度は分子の停止する温度。ゆえにそれよりも下はありえない。だが・・・もしも分子を再び動かすことを阻害する力が込められていたら? 温度的には同じ絶対零度でも結果は大きく違うってことさ。
「さて、俺からすれば動けなくすればチェックメイトでな・・・。」
動けない相手ならば容易にその操りの糸を斬る事が出来る。これに使うエネルギーを温存するためにさきほど俺の風の力は込めなかった・・・『火炎風竜斬』に当たる技は使わなかったのだからな。
「リデア、お疲れ。」
やはり操りから解放されるということはいったん意識を失うらしく、気を失った2人をひとまず寝かせておいて俺はリデアに笑いかける。かけたのだが・・・
「ふ、ふん! なによ! 自分ばっかり傷ついて馬鹿じゃないの!」
何故かリデアはご立腹のようだった。まぁ、気持ちがわからないわけじゃないが、気づかせるためとはいえリデアが傷つくのは俺が嫌だし・・・。
「悪い、だがこんなことでしか俺は兄として・・・」
キミを守ってやることができない・・・そう続けるはずだった言葉はリデアの意外な行動に止められた。
「ふん、ワタシの為だっていうんでしょ!? だったら! せめてワタシにその傷を治させなさいよ!」
つかつかとやって来て何故か真っ赤な顔をしながら治療を有無を言わさずに始めるリデアに苦笑しながらも嬉しく思う。これなら少なくても仲間程度には認識してもらえているとみていいだろう。
ちょっとした感激に胸を熱くさせているとコクトの姿が目に入った。そういえばあいつも前の戦いで怪我をして、レミーが気を失っているから治せる奴いなかったんだよな。
「なぁ、リデア・・・悪いけど」
「嫌よ!」
全部を言う前に再びさえぎられる。・・・何故だ?
「に、兄さんの考えていることぐらいはわかるわ。か、勘違いしないでよ! 妹だから察してあげるってだけなんだからね!? で、コクトも治せっていうんでしょ? 兄さんの仲間だっていうのはわかるけど、ワタシはまだそこまで受け入れられないわ!」
・・・そうか、そうかもな。あいつをすぐに受け入れてやってほしいと思うのは俺のわがままで、まだそこまでは出来ないっていうのはリデアのわがままだ。でも・・・それでいいのかもしれない。コクトには悪いがな。
「リュウト、リデアの言うことが当然だ。別に俺の怪我はすぐにどうこうというものでなし、レミーが起きてから治してもらうさ。」
う~ん、だからと言って放置しておくのもな。ああ、そういえば
「ならせめてこれでも使っておけ。」
懐から取り出したものをコクトに投げ渡す。コクトはしばらくそれを唖然とみつめて
「これはなんだ?」
などと聞いてきた。見た目通りだと思うんだがな?
「何って・・・薬草だ。劇的ではないが効果は保証するぞ。俺は今でも下手だし、以前はまったく回復使えなかったからこれを持っていないとどうも落ち着かなくてな。」
「・・・ならば俺が使ってはまずかろう。」
と俺に投げ返してくる。余計な気遣い? は無用だぞ?
「心配するな。全部じゃないし、天界にもあっちこっちに生えていたからな。なくなったらそこらで補充する。」
つまりは雑草なんじゃ・・・なんてぶつくさと言いながらもすりつぶして傷口に塗っていくコクト。
俺はいつも思う。こういう瞬間がきっと幸せなのだと。戦い傷ついてもキミたちがくれる安らぎとほんのちょっとのわがまま。これさえあればどんな苦難にもきっと負けない・・・心からそう思えるんだ。
リュウトのちょっとした幸せ。そして微妙に周りの気持ちがわかっていなかったりするリュウトです^^
アキ「うう・・・わ、私だけの専売特許が~~~!!」
えっ? えっと~、どうしました? アキ・・・さん?
アキ「どの口がそんなことを言うのじゃ! リュウトと合体魔法剣を撃つのはシリーズ恒例で私だけの特権だったではないか!」
いや、シリーズ恒例って・・・(汗)1作目は風竜斬と天竜斬しか出てきてないし、2作目は火炎竜尾斬や他も出てきたけど、リュウトが初めから全属性使えてたから合体魔法剣自体が今作で初でしょう?
アキ「か、関係ないのじゃ! いままで私以外にはいなかったことには変わらぬ! うう、リデアに一歩リードと思っておったのに・・・。」
メインヒロインの時点で大幅にリードをとっている気もしますが相変わらず余裕のないことで^^ とまぁ、こんなところで今回はお開きです♪
アキ「こ、こら! かってに終わらすでない! 読者殿、まだまだこの章は続くぞ! 次回もまたよろしく頼むのじゃ!」




