5話 「小さな1歩」
わからない・・・わからない! わからないわよ!!
なんで! なんで兄さんはあんなに血まみれになっているのよ!? さ、さっきからワタシが兄さんにぶつかったり、進路妨害しちゃったり・・・兄さんは何も言わないけど明らかにワタシの所為よね? なんで・・・何がいけないのよ・・・。
「がっはっは! これほど滑稽な姿が見えるとはなぁ。」
「兄上、笑うのは失礼というもの。我ら兄妹のタッグが掛け算ならば、彼らは引き算・・・あれでは我らに勝てるはずもございません。」
何が・・・何がいけないのよぉ。ワタシなら・・・兄さんならこんな奴らに負けるはずないのに。なんで・・・なんでこんなことに。
「ふっ、小娘。動けば足を引っ張るお主でも動かねばただの的になるのみ。・・・どちらがマシかは言わぬがな。」
くっ! 悔しいけどその通りだわ・・・だからね、ワタシはアンタの剣に当たってやる気はないのよ!!
「ほう? よく俺の剣を避けたな? ・・・と言って欲しかったか?」
えっ? どういうこと? あっ!
「そう、これはタッグバトルですよ。私のことを忘れるようじゃいけませんわ。今まではうまくあなたの兄上を攻められましたが、タッグバトルでは弱い方を先に落とすのが定石。そう、あなたですわ。」
ワタシが・・・弱い? ・・・そうよね、ホントはワタシだってわかっている。だから強い振りをして・・・誰にも頼るもんかって虚勢を張って・・・でもばれてたのね。
「そうだな。これはタッグバトルだ・・・だから俺の存在も忘れてもらっちゃ困るな!」
えっ、妹の方の攻撃・・・変わった武器(薙刀とかっていったかしら?)を横から受け止めたのは兄さんの竜神剣。でも・・・どうして? ワタシはあんなに足を引っ張ったのに。きっとワタシがいない方が兄さんには楽な戦いなのに・・・。
「リデア・・・それでいいのさ。俺たちは1人で戦っているわけじゃない。お互いにお互いのサポートをすればいいと言うだけのことなのさ、タッグバトルなんてな。」
ひょっとして・・・ワタシにそれを教えるために兄さんはわざとあんな動きを? 言われてみれば、ワタシがきちんと動きを理解していなければ逆に不利になる動きばかりをしていたような・・・?
「で、でも! ワタシは今まで一人で・・・急に兄さんの動きを理解しろなんて無理よ!!」
なんでワタシはこんなに弱いのだろう。でも、弱さを表に出せたら・・・少しは変われるのかしら?
「協力をするってことを認識してくれればそれでいいさ。今回は・・・俺がサポートする! リデアは自分の好きなように動けばそれでいい。」
ワタシの好きなように・・・好きなように!・・・でも
「でも、兄さんは大丈夫なの!? そんなに傷だらけで血まみれなのに・・・。」
全部ワタシの所為。ワタシが自分勝手に動いたから。いくら兄さんがサポートの方に回るとはいえ、あんな状態でまともに動くるはずが・・・。
「おいおい、兄さんをあんまり甘く見ないでほしいな。この程度の怪我でどうこうなるような体じゃないし、この程度でへこたれるほどぬるい修羅場はくぐって来ていないぞ?」
・・・もう! 今までのワタシの言動も悪いとは思うけど、そこは妹して兄を心配しているんだってことぐらいはわかってほしかったな。
「と、当然よね! それにこんな美して可愛い妹を守れるなんて兄さんは幸せ者よ!」
そしてワタシの口から出てくるのはこんな言葉ばっかり。やっぱりワタシは弱さを見せるのは怖い。本当の自分なんて見せられないよ。
「ああ、そうだな。」
でも兄さんも悪いのよ? こんな言葉に対してこんな笑みをくれるんだから。だ、だからワタシの顔が赤くなっちゃうのよ!
「ふん! じゃあ、頼むわよ! 『ダイヤモンドダスト!!』」
ワタシの冷気は絶対零度・・・いえ、正確には絶対零度以下ね。でもこの程度じゃあいつら相手に決め手にはならないでしょう。さぁ、兄さんはどう援護をしてくれるのかしら?
「あらあら、ただの冷気で私たちをどうするつもりでしょうか? ・・・えっ?」
「言っただろう? 俺を忘れるなって! 『ウィンドサークル!』」
風の結界魔法『ウィンドサークル』。通常ならばその風の結界で中にいる存在を徐々に切り刻んでいく技だけど・・・
「・・・なるほど、冷気を閉じ込めたというわけか! だが、俺の力もなめるなよ! 『エクスプロージョン!!』」
火の爆発魔法が冷気ごと風の結界を破壊する。でもね!
「フリーズ・・・ボムズ!!」
冷気範囲魔法『フリーズボム』を連発する。投げつけた氷の結晶が爆発した周囲を凍りつかせるこの技・・・このタイミングでうまく使えば・・・こうなるって訳よ!
「こ、これは・・・氷の牢? 兄上!」
「任せろ! すぐに溶かして!?」
「そんな時間をやる気はない!!」
即座に兄さんが切り込んでいく。でも、これって兄さんがサポートともワタシがサポートともいえる? そうか・・・それだけのことだったんだ。相手ができることを考えて、相手のやることを予想して協力をする。ワタシにはまだ兄さんみたいに他の人の動きを予想して動くほどの経験はないけど・・・兄さんの為に行動ならできそうな気がする。
兄さんが切り込む・・・当然相手の二人は避けようとする。その瞬間に!
「タイムフリーズ!」
長時間なんて止めてられないワタシ。でも、その一瞬を止めるだけで十分すぎる意味がある。それは・・・時間停止中にも動ける兄さんとだからこそできるコンビネーション。
「ぐはっ!? い、今何が起きたというのだ??」
「し、信じられませぬ。我らが斬られる瞬間を認識できなかった?」
違うわ、斬られる瞬間の貴方たちの時間は存在していなかった。でも、やっぱり兄さんも無理しているみたい。無防備な相手だったのに致命にはまだ遠く及ばない。よく見れば兄さんの息は少し荒い気もする。
「さて? ここからが本当の勝負だろ?」
だというのに余裕な顔をして兄さんは言う。きっと、あの姿が兄さんの強さ。ワタシの強がりとは違う・・・仲間を安心させて敵に畏怖をもたらすもの。
「くくく・・・がっはっは! 付け焼刃のコンビネーションで我ら兄妹に勝つ気か? 本当のコンビというものを見せてくれるわ! おっと、名ぐらいなのろう・・・我が名はシオン!」
「私はシズネと申します。以後よろしゅう・・・いえ、『以後』など貴方たちにはありませんでしたね。」
生意気ね・・・でも名のなれたら名乗り返さないと・・・ね? 兄さん?
「シオンとシズネか・・・。俺の名はリュウト! リュウト=アルブレス! 竜神の誇りをかけて戦おう!」
やっぱり兄さんはその名を名乗るのね? 兄さんを拾ったっていう人が付けたという名前。でもいつかは2人でこの名を名乗りたい。
「ワタシはリデア! リデア=アルバード! 氷の彫像になりたい子からかかってきなさい?」
一人で生きていたリデアに出来ていなかったこと。そしてこの先の戦いに絶対に必要なこと。それを教えるために都合のいい場としてリュウトはタッグバトルを受けたのですね。
リデア「だからって自分からあんなに傷つかなくてもいいでしょ! 口で言えばよかったじゃない!」
・・・それはあなたが口で言って理解できるようなタイプじゃないからでしょう?
リデア「な、何よそれ! わ、ワタシが馬鹿だっていいたいの!? レミーじゃないのよ!」
そこで当たり前のように引き出されるレミーもレミーですが、あなたの場合は賢いとか馬鹿とかっていう以前の問題で・・・
リデア「そう・・・つまりあんたはワタシを馬鹿にしているのね? 馬鹿作者のくせに・・・。」
えっ? い、いや、そうじゃなくて・・・
リデア「あら? 何か言ったかしら? フフ、もう何も言えないか。でも、氷の彫像にしても醜いものは醜いわね。・・・さて読者のあんたたちは美しいワタシを次回も見に来ること! べ、別にあんたが来なかったからって泣くわけじゃないわよ!? ほ、本当なんだからね!」




