2話 「堕天使・降臨」
思えば、俺は随分遠回りをしてきたのだな。
「ム~、わたしはアーくんとがよかったのに~。」
「に、兄ちゃんとじゃ駄目なのか!?」
「ム~、そんなことないけど~。もう! じゃあ、行くよ! お兄ちゃん。」
たわいもない会話。レミーがアシュラとコンビを組みたかったのは本当だろうし、兄としてそれには不安も憤りも覚える。誰があんな奴に可愛く完璧な妹をやろうなどと思うものか! ・・・コホン、だがレミーが俺を嫌がっていないことも俺とコンビを組むことに否があるわけでもないことはわかっている。だからこそ、こんな会話が楽しめる。
「ああ、行こう! レミー!」
剣を握る拳に力がこもる。俺は今までもこれからも、この笑顔を守るためだけに剣を振る。ただそれだけだったはずなのに、この場所にたどり着くためにこんなにも遠回りをしてしまった。無関係なものにも守るべきものにも無用な悲しみを振りまいた。だからこそ、守る! 何があろうとも!!
「くっくっく、我らに勝つつもりでいるらしいぞ、弟よ。」
「無知とはこうまで哀れなものなのだね、兄者。」
俺たちの相手となる2人、向こうも兄弟か。いいだろう、どちらがより強い絆で結ばれているか見せてやろう。
「兄者、僕はあの天使を殺らせてもらうよ。」
「えっ? いきなり~~!!」
「真剣勝負にゴングがあるとでも思ったのかい? 愚かだねぇ。」
早速敵の剣がレミーに迫る・・・だが!
「貴様の汚れた剣がレミーに届くと・・・本気で思っているのか?」
何人たりとも・・・俺の前でレミーを傷つけさせるものか! それは俺の誇りであり、生きる意味そのものなのだから!
「くっ、僕の相手はお前じゃないだろうが! お前は兄者と戦ていろよ!」
「貴様の考えたシナリオに俺たちが乗ってやる必要がどこにある? 無知の前に傲慢だな、貴様は。」
「あ、兄者! まずはこいつを殺ろう。こいつむかつくよ。」
「よかろう、弟よ。我ら兄弟の恐ろしさとくと教えてやろう。」
2本の剣が走る。脅威は・・・感じない。なぜならこいつらの剣は軽いからだ。以前、俺に飛び切りの脅威を与えたリュウトの剣は・・・もっと、途方もなく重い思いが込められていたぞ!
そして
ギィィィィィン! 耳をつんざくような金属音がして、2人の天使は俺に弾き飛ばされる。
「馬鹿な、我ら兄弟がたった1人に勝てぬだと?」
そんな認識だから勝てぬのだ。確かに主に戦っているのは俺かもしれない。だが、レミーの後方支援がどれだけ戦いに影響を与えているかも気が付いていない。いや、守るべきものがいる。それがどれだけの力を与えてくれているのかを知らぬものに負けはしない! これは俺がレミーから・・・そしてリュウトから教わった最強の力なのだ!
「兄者、耳を・・・」
「ふむ、それはいい手だな。」
ムッ? 何をする気だ・・・!?
「小娘! 貴様の首貰ったぞ!」
「ム~! 私はそんな簡単に・・・えっ!? おにい・・・ちゃん?」
あはは、しまった。つい体が動いてかばってしまった。これは・・・俺の失態だな。
「くはは、兄者、うまくいったな。あの天使を攻撃すれば、騎士は我が身を盾にしてくる。愚かしいまでの愛とでもいうのかな?」
愛か・・・そうであったなら誇らしいが、これは違うな。レミーはあの攻撃を対処できたはず、守る思いと信頼してないというのは違う。まだまだ・・・リュウトのようにはいかないらしい。
「お兄ちゃん・・・なんで? わたし、大丈夫だったよ? あっ、すぐ治すから!」
「いや、いい。こんなのはかすり傷だ。お前を信頼しきれなかった罰と思えば・・・ぐぉぉお!?」
どれほどの思いに守られていても傷は傷。確実に遅くなった動きは、俺に更なる傷を負わせる。だが、治療する時間など・・・ありはしないのだ!
足が震える。目がかすむ・・・だが、倒れられん。あいつはいつだってそうやって戦ってきたじゃないか。かつて俺が嘲笑った行為の誇り高さと凄さが今はよくわかる。
「許さない・・・お兄ちゃんは・・・今度こそわたしが守る!」
レミーの声が震えている? 俺はまた泣かせてしまったのか? ・・・! いや、そうじゃない!? レミー、その黒い羽根は一体!?
強い怒りが力の回路を切り替える。レミーの意識が沈むと同時にわたしの意識が浮かんでくる。いえ、違うわね。レミーはわたしのことを知らない。わたしが主導権を持っているときの記憶はない。でも・・・わたしは知っている。だから、彼女の怒りはわたしの怒りでもある。
バサッと広げた漆黒の羽が舞い散る。これは不幸の象徴・・・これからあなたたちへと送る不吉の印よ。
「初めまして・・・そういうべきでしょうねぇ。わたしはレミーであってレミーでない。彼女の中にある闇そのもの・・・もう一つの力が具現化した仮想意思。そう、わたしのことはこう呼んで頂戴。『堕天使レミー』と。」
「堕天使・・・レミー?」
あたりから唖然とする声が聞こえる。そうでしょうね・・・どう見てもわたしは彼らが知っているレミーとは異なる存在でしょう。普段のレミーが太陽のように誰にでも光を与えるのなら、わたしは月・・・ですらないわね。わたしは闇、誰にでも死をもってもたどり着けない暗き闇の底を見せてあげましょう。
「な、なんなのよ!? この圧倒的な闇は!?」
リデアが悲鳴じみた声を上げる。そうでしょうね、同じ闇のお兄ちゃんやアシュラならばともかく、光の彼女にはわたしの闇は毒以外の何者でもない。すっ、と黙ってリュウトがリデアとアキの前に立って結界を張る。さぁ、あなたはわたしも・・・受け入れてくれるのかしら?
「レミー・・・いや、堕天使レミーだったな。俺はまだ、お前のことをよく知らない。だが、それでもお前がレミーであるというのなら俺の仲間であり妹だ! さぁ、俺は答えを示した! キミの答えを見せてくれ!」
わたしの答え・・・わたしがレミーでなくてもレミーであるという証。そして、リュウトは・・・いえ、彼らは見せてくれた。わたしを信じるという覚悟を。そう、圧倒的な闇に脅かされてもアキも・・・リデアですらわたしに怯えを見せていない。自分よりも遥かに濃い闇の瘴気を見せられてなおアシュラは微動だにしない。お兄ちゃんがわたしを見る目は天使のレミーのころと全く変わらない。だから・・・わたしも変わらずに弓をとる。
「さぁ来なさい、坊やたち。わたしは堕天使レミー、誇り高き竜神の代わりにあなたたちに闇を見せてあげるわ。」
堕天使レミーとリュウトたちの初会合・・・どうだったでしょうか?
堕天使レミー「あんなに簡単にわたしを信頼するなんて・・・お人良しばかりねぇ。」
とまぁ、悪ぶってはいますが根はレミーなんですよね、この人も。
堕天使レミー「どういう意味かしら、それ。わたしはレミーみたいにお馬鹿でも優しくもないわ。わたしの後に続くなら守ってあげましょう。でも、前に立つなら死すら生ぬるい地獄をあげるわ。」
そういう表面的な部分じゃ無くて・・・もっとレミーをレミーたらしめている部分が・・・まぁ、今回はこの辺で
堕天使レミー「ム~、このわたしをからかうつもり? いいわぁ、あなたは前に立つことを選択したのねぇ? いってらっしゃい・・・地獄へ。」
えっ? ちょ、ちょっと・・・なにこれ、沈む! 沈む・・・ ・・・。
堕天使レミー「大丈夫、死にはしないわよ。言ったでしょ? 死すら生ぬるい地獄をあげるって。さて、読者の坊や・子猫ちゃんたちはどっちを選ぶのかしら? 次回までに答えを出しておいてねぇ、バ~イ。」




