6話 「眠りし竜」
「さてと、正気に戻っているかはともかくとして、こいつが気が付くまでにはもうしばらくかかるだろう。・・・リデア、さっきの話の続きだが」
「もういいわよ。・・・たしかにあんたは兄さんみたいだし、それに不満はあるけどこいつ・・・コクトとかって言ったっけ? は兄さんの仲間なんでしょ?」
しぶしぶ・・・といった感じだがどうやら認めてもらったみたいだ。だが、俺が謝らなくてはいけないことには変わらない。
「ありがとうな。そしてごめん。リデアが懸命に探してくれている間・・・いや、今だって俺はリデアのことを思い出せていない。こんな兄で嫌だというのなら・・・」
「ちょ、ちょっと待ってよ! ワタシだって当時8歳よ?(リュウトとリデアは2歳差)記憶はそんなにはっきりしてないし、兄さんの顔だって覚えていなかったわ。あの頃のワタシと今のワタシじゃだいぶ違うだろうし・・・記憶の有無なんて意味がないよ。それに兄さんはワタシがおぼろげに覚えている兄さんと同じ。きっと、ワタシなんかより兄さんは変わっていない。」
そういって、リデアはニッコリと初めて笑みを見せてくれた。まるで子供のような、純粋な笑み。覚えてもいない彼女の子供の時の笑みを幻想してしまいそうな・・・そんな笑みだった。
「それに謝るのはワタシの方。言ったでしょ? 兄さんに謝りたいことがあったから探していたって。あの時、私と兄さんが離れ離れになってしまったとき、本当は兄さんはワタシと一緒に逃げるつもりだった。それをワタシが実力も考えずに父さんたちを助けたいなんて言ったから・・・逃げるどころか騒ぎの中に飛び込んでしまったから・・・きっと兄さんが記憶を失ったのもワタシの所為・・・。」
それは本当に悔やんでいるのだろう。いつものリデアの強気で勝気な態度ではなく・・・ひょっとしたらこれが本当の彼女なのかもしれないが、今にも消えてしまいそうなほど弱弱しく見えた。だから
「本当は俺が言うべきセリフなんじゃないと思う。だが、もし俺がリデアの言う通りにリデアの知っている俺とそう変わっていないというのならば、きっとこういうんじゃないかな。俺たちはちゃんと生きて再会できた。そんなことでリデアが自分を責める必要もない・・・いや、責めないでほしいと。きっと、当時の俺だってキミを助けたいと思ったはずなんだから。」
さらさらと俺と同じような黒髪のポニーにまとめられたリデアの髪を梳くようになでる。遠い昔にもこうしてよくなでていたような気がするのは記憶の残滓か、それとも思い過ごしなのだろうか。
「なっ!? ・・・え、えっと・・・こ、子ども扱いしないでよね!」
ふんと真っ赤になってそっぽを向いた彼女は本当に子供っぽくてついつい笑みがこぼれてしまいそうになる。なるほど、こんな可愛らしい妹だ。きっと当時の俺も溺愛していたんじゃないだろうか。俺がシスコン気味なのはその所為か? ・・・これじゃあ俺もコクトのことは笑えんな。
「ところで、兄さんに聞いても覚えてないだろうから、あんたに聞くわ。兄さんはどうやってあの場面を生き残ったのよ? 冷静に考えればあんたが当時の兄さんを取り逃がすとは・・・」
今更ながらに青ざめた顔でコクトに問うリデア。まぁ、再会する前では考えないようにしていた反動というところかな?
「いきなり転移されたからな。おそらく当時のリュウトの力ではあるまい。遠距離から正確に望んだ対象を転移させ、しかも状況まで認識しているとなると、考えられるのは・・・」
・・・レーチェルの仕業か。当時から俺は彼女の手の中だったというわけか。つまり、俺と姉さんがあったのも偶然じゃなかったんだろうな。まぁいいさ、手の中にあろうと俺は俺として懸命に考え生きてきた結果であることには変わらないからな。
「っ・・・!? 本当にどこにでも現れるわね、あの女。正直あんまり気分がいいことじゃないけど、兄さんを助けてくれたってことには感謝しないといけないわね。ところで兄さん、話は変わるけどいいかしら?」
「ん? ああ、なんだ?」
「兄さんが竜の力を使わないのもまだ切り札として隠しているからかしら?」
竜の力? それは一体なんだ? きっと俺の顔は何とも言えない間抜け面だったのだろう。だからこそリデアにも感付かれたのだろうから・・・
「ひょっとして兄さん・・・そのことまで忘れているの!? ワタシたちは竜の血をひくものとして特殊な力を持っている。そう、ワタシならこんな力・・・」
リデアが目をつぶり意識を集中させると彼女の背中が輝き・・・竜を思わせる翼が生えてきた。
「ワタシのは竜の翼。比類なき力強さと速さを持った竜の翼。でも言い換えればただの飛行能力・・・兄さんのは村の誰よりも強い力だったと聞くわ。使いようによっては世界のバランスを簡単に崩してしまう能力。だから時が来るまで使うなって・・・ワタシはその能力さえも教えてもらえなかった。」
俺にそんな能力が? ・・・じっと自分の手を見てみる。無論何も感じない・・・だが、何か別の自分の鼓動が聞こえたような錯覚がする。
「まぁいいわ。とりあえずそんな能力があるってことを知っていれば、兄さんならそのうち使えるようになるでしょう。・・・そんなことより! いいいい、今は! 失われた兄妹の時間と絆を取り戻すのが先ね。」
とリデアが真っ赤な顔をしながら俺の腕に抱き着いてくる。おいおい、そんなに顔をこすりつけられたら歩きにくいぞ?
「そそそそそ、そなたは何を考えておる!? 今までは兄妹の話と黙っておったが、それ以上は見逃せん! リュウトは私のものだぞ!」
「はぁ? アキとかって言ったっけ? あんた何言っているの? 兄さんはワタシのものに決まっているでしょ?」
俺を挟んで(というよりそれぞれに腕に抱き着いて)睨み合っているアキとリデア。おかしい・・・いったいどうしてこうなった?
「なぁ、コクト・・・。」
「知らん。これはお前の責任だろう?」
「お、俺は何もやっていないぞ!?」
「・・・何もやっていないからこうなったんだろうが・・・。」
ぬっ? 俺は何かやらなければいけないことをやっていないのだろうか? ・・・わからん。
「大体ねぇ、なんとかと畳は新しいものの方がいいっていうのよ! つまり古い女はお払い箱なの!」
「私とリュウトはそこまで古くはない!」
「あら? じゃあワタシにもつけいる隙はありそうね!」
「ムムム、付き合い始めたのは日が浅いが、そこに至るまでの絆が深いのじゃ! そなたなどの入る余地はない!」
「ワタシは兄さんの妹なの! これぐらいはいいわよねぇ、兄さん?」
わからん、わからんが・・・
「誰か何とかしてくれぇ~~~~~!!」
え~、予定ではセラフィムの話だったんですが、都合により先にリデアの話をさせてもらいました。よくよく考えたらこっちの方が自然な流れだったので><
リュウト「なぁ、なんでアキとリデアは仲良くできないんだ?」
いきなりそこ!? 他に言うべき内容はいっぱいあるでしょ!?
リュウト「いや、これが一番、頭と胃が痛い話なんだが・・・。」
完全に自業自得でしょう。とりあえず自分の鈍さを恨みつつ、胸に手を当てて考えてみることをお勧めしておきましょう。とまぁ、リデアもリュウトとは和解し、リュウトにもなにならとんでもない能力が隠されているということがわかったところで今回はお開きです。
リュウト「とんでもない能力か・・・ひょっとして前作のアレか?」
そうあれもその一つです。あれだけでもある意味世界をひっくり返せますけどね。ではでは、次回もよろしくお願いいたします~♪




