5話 「マリオネットの糸」
「さて、ここからが本当の勝負・・・そうだろ?」
「な、何のことだ?」
にやりと笑いながら問いかけた俺に対する答え。そこでどもったら答えを言っているようなものだけどな。・・・自分もそうだからだろうな。切り札を隠しているやつの気配っていうのはよくわかるんだよ。
「別にないならないでいいさ。そちらの方が俺にはありがたい。」
事実だ。別に俺はこんな場面で戦いたいわけでも殺し合いがしたいわけでもない。そして俺が切り札(竜神剣の力)を隠している理由は2つ。1つは俺の力を敵に知られないようにする為。そしてもう1つは・・・俺がこれから斬ろうとするものを斬るためだ。
正直これが斬れるものなのかどうかという確証もない。リュム本人なら知っているのだろうがこいつは一度できたことでないと話してはくれないからな。・・・いやリュム本人の意思ではなく、そういうルールらしいんだがな。
まぁ、なんにしても成功率を上げるためには竜神剣の力は出来る限り温存した状態でなおかつ高めておきたい。使わないのに高めている状態を維持するっていうのが意外と神経を使うことだと思い知っている状況なんだが、こちらはリデアのおかげで何とかなりそうだ。
「隠し持っているものがないのならば・・・このまま俺の勝ちになるだけだ!」
振り下ろす剣。正直苦しい戦いだと思う。初めてやる出来るかどうかも分からないことを実戦の中でそれも自分と同程度(竜神剣の力を使わない前提のため)の相手・・・いや、奴の隠し持っている切り札を使われたら確実に俺以上の相手に対して実験しようとしている。普通の奴が聞いたら正気を疑われるかもしれないな。だがそれでも!
「・・・ならば見せてやろう! これが我の切り札だ!」
キィイィン! 金属がぶつかり合う音。2つの剣がぶつかった衝撃は思った以上の力で俺を弾き飛ばした。空中で伸ばした片足がかろうじて地面に届き、ズザザザザと砂埃を上げながらブレーキをかける。そして俺は見た・・・奴の剣が発している神々しい光を。
「神剣レヴィス・・・我が主ゼウスのつくりしこの剣の力を見て生き残った者はおらん。この光を冥府への土産とするがいい。」
隠し持っていた力も俺と同じようなものだったというわけか。だが竜神剣は聖剣でも神剣でもない。力を発揮するときに時折発光するときがあるが、あれは使用者たる俺に力の発揮具合を示すためのものらしく竜神剣自体は光属性ではない。
そう、竜神剣の属性は天! 光も闇もその内に秘めた究極の魔剣! 相手がいかなる聖剣だろうと神剣だろうと恐れることはない。それをはるかに凌駕する『究極』が俺の手の中にはあるのだから・・・今、使うわけにははいかないとしてもだ。
「滅するがいい!」
先ほどのお返しとばかりに振り下ろされる剣。今の状態でまともに受けるとまた弾き飛ばされるな。そう判断をし、とっさに身をよじってかわすと・・・切っ先から触れてもない地面が割れ、はるかかなたの山が崩れる音がする。おいおい、俺を倒すためにあたりを壊してどうする。操られているとはいえ一応天使だろ? まぁ、レミーの例もあるから何とも言えんが
「見たか! この素晴らしき力を!」
「ふん、俺一人を倒すためにこんな大規模な災害を起こしておいてよくいう。」
「正義をなすための仕方なき犠牲という奴だ。」
犠牲・・・何かをなすために犠牲者を作っておいてそれが仕方がないだと? 目の前が真っ赤になった気がする。脳裏に映るのはあの日の光景。俺の力のなさのせいで死んでいった姉さんたち・・・コクトを恨む思いは全くなくても、あの日の自身の情けなさだけはけしてなくしも薄れもしない。『仕方のない犠牲』それは俺が最も嫌いな言葉だった。
「仕方がないだと? これはお前が力を抑制できていない証拠だ! レーチェルは勿論のこと、俺もアシュラもこの程度のことはやる気になれば容易にできる。それを相手の体の一点に集中させること・・・それができて初めて力を使えるというんだ! そんなこともわからず、未熟な力に振り回させる貴様程度に負けるつもりはない!!」
怒りで血が熱く沸騰するかのようだった。つまりそれは俺もまだまだ未熟だということ。俺が冷静だったならば気が付くはずだった。俺の言葉に奴は確かに動揺したということを・・・その動揺は間違いなく奴の動きを格段に悪くしていたことに・・・
だが、この時の俺は気が付かなかった。気が付かないからこそ、感情のままに剣を振り下ろした。振り下ろした剣はその鋭さのまま奴の両翼を両断し・・・吹き出したもので視界が赤く染まる。孤児院を焼いた炎、姉さんから、ハナから、ケンタから噴き出した血と同じ・・・いっそ世界のすべてをこの色で染めてしまうか?
ズシリと感じる重み。いや、誰かが俺を羽交い絞めにしてる? その声を聞く前に・・・よく知る暖かさが俺を正気へと戻していく。
「リュウト・・・私にはあなたの気持ちはよくわかる。私もあの場にいたから・・・あなたにはかなわなくても同じ思いを抱いた私だから。だから激しく怒るのはいい。でもね、その怒りで自分の心までをも壊してしまうのはやめて・・・」
俺はいったい何を考えていた? ふらつく頭を手で押さえて支える。
「アキ・・・助かった。やっぱり、俺にはキミが必要だよ。あんな狂気ともいえる思いに囚われている俺を支えられるのだから。」
「え、えっと・・・その~。でもあれは狂気じゃないと思う。あれはあなたの素直な感情。きっとそれを見せられること自体は悪いことじゃない。でもきっとあの衝動のままに動いたらあなたの心は壊れてしまう・・・それが狂気だと思うの。」
アレをみても彼女は恐れもせず、否定もしなかった。それがどんなに俺の心を支えてくれているのか・・・キミは知らないだろう? さて、ともかく今は
「リュム・・・準備はいいか?」
「・・・とっくに出来ている。」
「そうかならば・・・竜神剣! 奴を縛る操りの力・・・マリオネットの糸を切り裂け!!」
奴の、セラフィムの体を通る竜神剣・・・だが今度は傷1つつけることはない。精神剣たる竜神剣が切り裂いたものは体ではないのだから。
「へ~、そんなことを考えていたんだ? で、兄さん? こいつはこれで正気に戻ったの?」
傷の痛みからか、それとも解放の衝撃からか気を失ったセラフィムを足でつつきながらリデアが問う。
「さぁな。俺も初めてやったことだからまだなんとも。レミー、まだ安心はできないが一応命に別状がない程度までには治してやってくれるか?」
「あ、うん! まっかせてよ!!」
うまくいけばかなりの情報と・・・それ以上に光明が見えてくるのだがな
・・・リュウトのあの感情の暴走。リュウト自身に激しい感情があるのは事実だが・・・アレはおそらく奴の影響を受けているのだろう。
確かに奴とリュウトはよく似ている。そして奴と竜神は相対する存在・・・影響を与え合っても不思議ではない繋がりがある。そうそれはもっとも強く、もっとも危うい存在。
まぁよい。それを支えるのは剣たる我の役目ではない。奴は自身の感情に負け、仲間を滅ぼした。リュウトには・・・奴以上に心強い仲間がいる。きっと、それが両者の明暗を分けるときがくる。我にはそう思えるのだ・・・。
タイトルはマリオネットの糸・・・でもそれ以上に目立つのはリュウトの暴走ですね。何かを知っていそうなのは竜神剣と・・・レーチェルあたりでしょうか。
アキ「竜神剣が言う奴とはレーチェルの言う『あの存在』というものと同一の存在じゃろう? それにおそらくリュウトの夢に出てくる奴とも・・・」
まぁ、そこらへんは一応秘密ということで^^ 問題はどっちかというと・・・
アキ「竜神剣が何を知っているのか・・・ということだな。まったく、あの剣は能力と言い知識と言い謎だらけだな。」
もともとあなたがリュウトを竜神剣のもとに導いたんですけどね^^
アキ「べ、別に悪い影響は与えておらんじゃろうが! むしろ竜神剣がなかったらリュウトも私たちも死んでおるぞ!」
たしかにそうですね。さて、次回はセラフィムの洗脳は解けるのか! そしてあの子との会話もあるかも? ですね。
アキ「まだまだ私たちの冒険は道半ば。次回以降も応援をよろしく頼む!」




