4話 「開眼! 竜神流!」
やってきたのは天使。とはいっても今までの天使とは格が違うって感じだな。
「ふん、我が貴様のようなものの相手をせねばばならんとは・・・。我は熾天使が一人。」
「・・・なるほどな。天使としては最上級の存在がお出ましというわけだ。で、そのセラフィム様がなんのようだ?」
「知れたこと。ゼウス様を脅かす者は我らが敵。竜神よ、貴様がこのメンバーのリーダーと見た。しかるに・・・我は貴様と一騎打ちを望む!」
なるほどね。俺たち全員を相手にするのではなく、俺を打ち取ろうという算段なわけか。とはいっても俺たちも受けないわけにはいかないんだよな。それに・・・
「はぁ、何言っているの? なんでワタシたちがそんな申し出を受けなくちゃいけないのよ。のこのこ一人でやってきたのが運のつきよ!」
「リデア! いいだろう、受けてやる。俺たちの力を知らしめるいい機会だ。こちらとしてもあんな風に無駄に下級天使の犠牲者を増やしたくはないからな。」
おそらく戦略という意味ではリデアの言うことが正しい。だが、それでも俺は無駄な犠牲を出したくない。俺たちのみならず敵対するものであったとしてもだ。俺に賛同するのはアキ、わかっていないのがレミー、どちらでもいいと思っているだろうが下級天使との戦いは面倒ぐらいに思っているかもしれないのがアシュラ、そして冷徹な本音はリデアよりのコクトというところか。
「ふん、まぁいいわ。勝てる自信はあるんでしょ?」
「ああ。だがな、勝てるから戦う訳ではないぞ。勝たなければいけないからこそ戦うんだ!」
その言葉と同時に切り込みをかける。これは試合じゃない、卑怯も何もこの場にはありはしない。全てを想像し、すべてを超越し、そのうえで俺が勝つ!
ガキィィンと響く金属音。お互いの頬を流れる鮮血。傷つけてしまった罪悪感とぞくぞくするような高揚感。やはり俺の業も相当深いみたいだな。
「アシュラ、どう思う?」
「ふん、奴の素の力・・・竜神剣の力を使わねば互角と言ったところだろう。」
隣ではアキとアシュラとかって言った奴らが気軽なお喋りに興じている。誰一人あいつの・・・兄さんの心配をしていそうなやつはいない。やっぱり、こいつらは本当の仲間なんかじゃないわ! 特にこいつは・・・。
「ふっ、リデア・・・俺が信用できなければいつでも切りかかってきてかまわない。たしかに俺はそれだけの罪を重ねたのだからな。」
くっ、だというのにこんな余裕のセリフ。いつでも切りかかってこいという割には警戒を感じない背中。馬鹿にしないでよ! そんなあんたを切りかかれるわけないじゃない!!
キィィィィン・・・剣と剣がぶつかり合う音。その音が響く度に兄さんに・・・ま、まだあいつを兄と認めたわけじゃないけど! ・・・傷が増えていく。じりじりとするこの感覚。ひどくイライラとする。なのになんでこいつらはそんなに平然としてられるのよ!! ワタシは震える足をごまかすので精いっぱいだっていうのに・・・
「リデア、落ち着くのじゃ。気持ちはわかるが、そなたがそんなにイラついてはリュウトも安心して戦えんではないか。」
気持ちが・・・なにが気持ちがわかるっていうのよ! 一人戦うあいつの心配一つしてないで仲間だ、恋人だと言っているこいつらがどの口で! ワタシは怖い・・・そう、やっと見つけたかもしれない兄さんと大切な人を失うかもしれないなんて・・・すごく怖い。
「何がわかるっていうのよ! 心配の一つもしていない・・・負けたっていいと思っているからそんなに余裕何でしょ!?」
そんなワタシの言葉に対する返事は・・・ビンタだった。
「私たちとて心配していないわけではない。ただそれ以上に信じておるのじゃ。リュウトは必ず勝つ・・・あいつが絶対に負けないと叫んで負けた勝負はないのだぞ。私たちは信じている、リュウトの強さを・・・なによりもその心の強さをだ。そなたはまだ今のリュウトのその強さを見たことがないゆえ仕方がないかもしれぬがな。だが、リュウトを・・・兄を信じてやってくれ。」
アキは冷静だった。でも・・・それは表面だけ? ワタシをひっぱたいてその手は・・・かすかに震えていたのだから。ひょとしたら信じていても万が一に怯えているのは彼女なのかもしれない。
「ふ、ふん! ワタシはまだあいつが兄さんだなんて認めてないわよ!」
「やれやれ・・・リデア、お前は何を見ている?」
そういいながら近づいてきたのは黒騎士・・・コクトとかって言ったっけ?
「何よ! あんたに何がわかるって!」
「少なくても今のお前よりはな。よく見てみろ、あの剣を・・・あの動きを。何か思うところはないか?」
何よ、追いつの動きがなんだって・・・!? え、嘘? だって、あいつは記憶がないんじゃ?
「無意識のうちに覚えていたんだろう。それにあいつの特性が遺伝により継承されたものならば、たしかにあれこそが最適の剣であることにはかわらない。」
あの動きは・・・あの剣術は父さんの? でも
「違う。似ているけど違う。父さんのは・・・もっと神々しかった。」
「・・・今のリュウトと俺が斬ったあいつの父であっただろう人物ではリュウトの方が強い。だが、たしかにかの剣にはリュウトにはない輝きがあった。リデア、お前にならわかるのではないか? リュウトの剣にかけた何かが・・・。」
父さんの剣、そしてあいつの・・・ううん兄さんの剣・・・違うのは、たしか。
『ねぇお父様? 私たちにもその剣を教えてほしい!』
『リデア・・・お前までリュウトみたいなことを。あいつにも言ったがお前らにはまだ早い。だが、そうだな・・・一つだけ教えてあげよう。この剣の基本にして奥義がある。それがなければ、この剣はただの剣技に成り下がってしまうというものがね。』
『え~! 何々! なんなの、お父様!』
『いいかい、それはね・・・』
っ!? なるほど天使の最高峰・・・といってもそれが強さのかはわからんが、それを名乗っているだけあってなかなか強い。竜神剣の力を使えば勝つのはたやすい。だが、俺が知りたいことを確かめるにはまだ使うわけには・・・。
「兄さん! その剣の真価は・・・『感じること』よ!」
耳に届いたのはリデアの叫び、脳裏に映ったのは遠い日の誰かの声。俺は・・・前にもこれを聞いたことがある?
「ふっ、戯言に耳を貸し動きをとめるとは! 竜神よ! 貴様の負けだ!!」
迫る剣。だが、それに何の脅威も感じない。なぜなら
「な・・・に? なぜ当たらない!!」
繰り返される斬撃。一つとして当たる気はない。そう・・・これこそが
「リデア・・・その言葉、父さんの言葉か?」
「思い出したの!?」
「いや・・・ただ聞いたような気がするだけだ。その時には何のことだかわからなかった。だが今ならばわかる!」
見ることには視界という限界がある。集中は長時間維持できるものではない。・・・もっと自然に、視るのではなく感じる。360度余すことなく自然に感じとる。柳が風を受け流すがごとく攻撃をいなし、しなった竹のごとく反撃する!
「がはっ!? ば、馬鹿な! なぜ急に・・・!?」
「さぁな。兄妹の絆、親子の絆だとでも受け取ってくれ。さて、ここからが本当の勝負・・・そうだろ?」
リュウトの剣は我流じゃなかった!? リデアの一言でさらにパワーアップなのです!
リデア「厳密には父さんの一言よ。ワタシは意味わかっていなかったんだから」
おや? 珍しくおとなしいですね?
リデア「こ、こういうキャラの方が兄さんは好きなのかな・・・って。ほら、アキってちょっと控えめな性格しているでしょ?」
そりゃまぁ、リデアから見ればたいていのキャラは控えめかと・・・でもないか。レミー・レーチェル・メイ・・・みんな我は強いな。
リデア「だ、だからイメチェンして兄さんのハートを・・・」
いや、リデアには無理だから。アキは控えめだけど芯が強いから大丈夫なんであって・・・キミは表面的に強く取り繕っているだけで内面は弱いんだから。鎧取っ払ったらすぐに潰れるぞ?
リデア「う、うるさいわね! 誰が内面弱いって!! ああもう! べ、別にそこまで兄さんにこだわっているわけじゃないんだからね!」
そうそうそれでこそリデア・・・ぐふっ!?
リデア「あんたにはたっぷりワタシの強さを見せてあげるわ!」
い、いや・・・そういう強さじゃなくて・・・ぎゃふ!?
リデア「さ、今回はこれで終わりよ。み、見たければ次もかってに見ればいいじゃない! わ、ワタシは別にどっちでもいいのよ!? じゃ、じゃあね! ・・・つ、次もちゃんと見てくれるよね?」




