2話 「兄の思い」
「なぁ、コクト・・・」
前を行くコクトに俺は話しかける。
「なんだ?」
返事は淡白なものだったが、その視線は試すような、それでいて優しさを感じるような不思議なものだった。
「兄って・・・いったいなんなんだろうな。」
その声は出した俺自身が驚くほど弱く、まるで独り言のように吐き出された。
「何をいまさら・・・。お前はレミーの兄なのだろう?」
「そ、そりゃ俺だっていい加減な気持ちでレミーの兄を名乗っていたわけじゃないさ。だがな・・・やっぱり義理の妹と実の妹は違うわけで。それに・・・」
我ながら言い訳じみていると思う。まして、その相手はレミーの本当の兄なんだからどうしょうもない。
「やはりリデアのことが気にかかるか?」
「・・・やっぱり知っていたか。」
俺はまだコクトにリデアの事を話していない。にもかかわらず、コクトはリデアのことを知っていた。別に不思議なことじゃない。リデアはレーチェルから力をもらったといった。あのレーチェルがなんで言わなかったのかわからないが、俺がリデアの兄であることに気が付かないわけがない。ならば・・・そのレーチェルの傍にいたこいつが知っていたところでなんら不思議なことではないのだ。
「勿論知っている。フッ、以前レミーが俺とお前はよく似ていると言っていたが間違えてはいなかったようだな。」
「俺とお前が・・・似てる?」
以前はともかく今のこいつはレミーのよき兄だ。それに昔も・・・な。どこら辺が俺と
「ああ、似ているとも。今のお前はあの時の俺にそっくりだ。あの時の俺と同じように、今お前がやるべきことはあの子に自分が兄だと告げて、笑顔で抱きしめてやることではないのか?」
「やっぱり違うよ、俺とお前では。俺は・・・あいつのことを覚えてさえいないんだ。」
そうだ、コクトは本当のところ何も変わっていない。かっても、あの時も・・・そして今もずっとレミーの為だけに生きている。俺とは・・・俺とは違う。
「確かに立場は違うかもしれん。だが、それは主観的な考えだろう? レミーやあの子の立場で考えてみろ。『ずっと会いたいと願い続けている大切な兄が行方不明になっている』・・・その状況になんら違いはないじゃないか。それに俺の場合もお前の場合も、自分たちの種族において十分に長い時を離れて過ごしたんだ。記憶なんて失わなくても変わったものも、無くしたものも、手に入れたものもあるさ。お互いにな。」
確かにそうなのかもしれない。だが
「それでも俺はあまりにも変わりすぎているさ、きっと。」
「そんなものは彼女にしかわからんだろう? それにお前はそれほどは変わっていないと思うがな。・・・ごほん、いずれにしてもそれを受け入れられるかどうかは話してからだ。いつまでも同じ場所で足踏みはしてられんだろ。」
足踏み・・・か。たしかにこうしていても何も変わらない。あいつはその命か思いが擦り切れて消えてしまうまで探し続けるだろうし、俺の中の罪悪感が消えることもない。話してしまうのがお互いのためなのか。だが、それでも
「強いんだな、お前は?」
「当然だ、兄とは妹を守るために強くなければいかん。・・・と言いたいところだが、これはお前たちからもらった強さだぞ。」
「そうか・・・ならば少し返してもらうとするか。」
「ああ、持って行け。あまりにも大勢からもらいすぎてな。余りすぎて困っていたところだ。」
お互いに顔を合せて笑う。不思議なものだ、こいつは間違いなく『かたき』だったはずなのだ。普段『かたき』はヘルで、『コクト』は味方なんて言っていても両者が同一人物であることを俺自身に隠し通せるものではない。それでも、もう怒りも憎しみも感じない。
姉さんのことを思うと悲しくは感じる。けして俺の中で姉さんの存在が小さくなっているわけではない。それでもなお・・・コクトはすでに俺の仲間で友人なのだとはっきりと言える。それでいいんだと俺は信じている。
「さて、そんな繊細な兄心を介さないやつが向かってきているようだがな?」
「向こうからすれば俺たちの行動はまさに筒抜けだろうからな。アキ! レミー! アシュラ! 準備はいいか!?」
遠くからやってくる気配。操られているものにしては珍しく悪意と殺意をまき散らしながらやってくる。よほどの自信がある強者か、それとも自身を律することもできない愚かな弱者か。いずれにしても戦いは避けられそうも無いな。
「無論じゃ! そなたこそ先のことに囚われてミスをするんじゃないぞ!」
「ム~、わたしはいつでもOKだよ~!」
「ふん、貴様らが気づく気配をオレがわからぬとでも?」
はは、そうだ! 俺にはこんなにも頼もしい仲間たちがいるじゃないか! それが戦いであっても、それ以外でも・・・恐れるものなんて何もなかった。俺はいつも通り、ただ守りたい。その思いのままに動けばそれでいいんだよな? ・・・さて、じゃあ行くとするか!!
兄の思い・・・リュウトとコクトはまさに似た者同士なのです!
レミー「ム~、それわたしが随分前に言ったよ~。でもわたしはお兄ちゃんもリューくんも大好きだよ。でも、アーくんの方がもっと好きだよ。」
ん~、なんか大昔のCMを思い出させるようなセリフだけど、まぁレミーらしいといえるな。
レミー「えへへ、そうでしょ~♪」
けして、褒めたわけじゃないんだけどなぁ。さて、リュウトたちは戦いからは逃げれないみたいですが
レミー「りーちゃんがどう出るかってこともよ~く見ていてね~」
あ、先に言われた>< ということで次回もお楽しみにです




