2話 「罰なき罪」
熱い! ワタシが初めに感じた感覚はそれだった。これは村が燃えている? そう・・・またあの『夢』なのね。もう何度も繰り返し見た夢。忘れるなって警告される罪の夢。
「リデア! よかった・・・無事だったんだね。」
ワタシに駆け寄って来て安心したって顔を見せる少年。なんでよ? いつもははっきり顔が見えないのに・・・なんで今日はあの男、竜神の幼いころを思わせる顔で出てくるのよ!?
「あ! お兄様! い、一体何があったの? お家が! なんでお家が燃えているの!?」
そう、当時ワタシは兄さんのことをこう呼んでいた。ううん、たぶんこれは・・・ワタシがおぼえている限り兄さんと最後に交わした・・・
「ごめん、僕にも何がなんだが・・・それに父さんも母さんも見当たらない。リデア、とりあえずは安全なところに・・・」
「嫌! お父様とお母様を探すの!」
そうだったわ。ワタシは力なんてなかったのに、兄さんだって潜在能力は強かったらしいけどまだ大した力は・・・それにあの人は本当は臆病だった。
「リデア・・・僕たちはまだ弱いんだ。何がこの村にあったのかはわからない・・・でもね、この村の人たちはみんな竜神様の血を引く人たちだよ? だからきっと大丈夫。」
きっとそれはワタシを安心させるための方便だったんだと今となっては思う。兄さんはワタシよりも、歳以上にずっと大人だった。でも
「嫌! お兄様の・・・お兄様の臆病者!!」
「あ、リデア!?」
ワタシはなんて子供だったんだろう。ワタシを抱きしめていた兄さんの腕はあんなに震えていたのに・・・ワタシは振り切って逃げてしまった。いえ、逃げたんだったら正解だったのね。一番行ってはいけない場所へ、騒ぎの真っただ中に飛び込んでしまった。そう、ワタシは知っていた。ワタシがそこに行けば兄さんが追ってくるしかないことを。
「ほう? まだ生き残りがいたか。・・・っ!? 幼き子供!? だが、これも命令。悪く思うなよ。」
そこで会ってしまった。まるで悪夢の中から出てきたような真っ黒な鎧を着こんだ騎士に。それは子供のワタシの姿を見て、それも8歳ぐらいの女の子だったから? なんにしろほんの一瞬だけ戸惑いを見せた。でも、それでも剣を向けてきて・・・もうほとんど覚えてないけど、この夢の中でもぼやけているけど・・・後ろの死体の山の中には父さんと母さんの顔もあったと思う。
「い、い、い・・・・嫌ぁぁぁぁ!!」
口を割いて出たのは悲鳴。これも間違いだったのかもね。もし黙って殺されていたら兄さんは・・・
「ムッ?」
無情にも振り下ろされた剣に対して、ワタシの悲鳴を聞いて飛び込んできた兄さんは持っていた唯一の金属・・・ワタシは詳しいことを聞いていなかったし、まだ貰っていなかったけど、一族の証だというペンダントでその剣を受け止めた。
「リデアは・・・リデアは僕の妹なんだ! 絶対に僕が守るんだ!!」
「くっ!? い、妹だと!? ふ、ふん・・・小僧、覚えておくがいい。力ないものに守れるものなど何もないのだと! だからこそ俺は・・・」
ひょっとしたらこの黒騎士にも妹がいたのかもしれない。兄さんの声にほんの一瞬だけひるんだ時に・・・
「リデア! これをもって逃げろ! 大丈夫、僕は死なないから! またきっと会えるよ。でも、その時僕たちは大人になっているかもしれない。だから、それが再会の目印だよ。」
そう言って兄さんは黒騎士の剣を受け止めて真っ二つに斬れたペンダントの片方を投げ渡した。ワタシはそれを受け取って・・・ただ逃げた。その後の兄さんのことはわからない。でも、兄さんは死なないって約束したから! だから会わないといけないの。会って・・・しっかり謝らないとワタシは前に進めないもの。
「・・・っ!?」
「あらあら、随分物騒な歓迎ね。」
突然感じた気配に飛び起きて剣を向けると、そこにはニコニコと笑うレーチェルがいた。
「ふん、何が物騒な歓迎よ。寝ている戦士の傍に近よれば当然よ。それにあんただったら気配を察知させないぐらい朝飯前でしょうに。自分から気配を出して起こしておいて物騒もないもないわよ!」
「ふふ、あなたたちを起こす目覚ましとしては最良でしょう?」
本当にこの人にはいろんな意味でかなわないと思う。きっと、ワタシが本当に攻撃してしまっていても 楽に対処できるからこその目覚ましなんでしょうし。
「それにしても何よ、ここは? 女の子が寝るような場所じゃないわよ。」
ワタシがどこで寝てようが勝手じゃないの。それに今は旅(兄さん探し&竜神の手伝い)の途中の仮の寝床。寝れさえすればどこでもいいのよ。この洞窟なんて比較的まともな方よ!
「教えてもいない寝床にかってに侵入する人に言われたくないわ。それに・・・ワタシは兄さんに会うまでは女なんかじゃないわ。」
そう、ちゃんと謝らないうちは自分なんて持てない。兄さんは優しかったから・・・もしワタシが知っているあの兄さんのままなら馬鹿だなって怒るかもしれないけど、それでも会って謝るまでは・・・
「へ~? 本当にそうかしら?」
「な、なによ?」
「あなたみたいなタイプって危ないところを格好よく助けてもらえたりするとメロメロ~ってなっちゃう気がするんだけどな~。」
その言葉に顔が一瞬で真っ赤になった気がする。なんか頭の中がぐつぐつと沸騰しているような。今なら本当に頭の上でお湯が沸くかもしれない。
「だ、誰が竜神なんかに惚れたっていうのよ!?」
「あらあら、私は一般論を言っただけよ? 別に竜神クンに惚れたなんて言ってないわよ。まして名前も聞いてないんでしょ? あ、私からは教えないわよ。自分で本人から聞くこと。」
くっ、ワタシとしたことが古典的な誘導尋問に・・・。それにこの人は本当に心の中まで見えているんじゃないかと思う時がある。つい名前を聞きそびれてしまったことを後悔したのもレーチェルから聞けばいいと思ったのも事実・・・って! い、一応パートナーの名前ぐらいは知っておこうと思っただけよ! それだけだからね!!
「ふ、ふん! あんな奴の名前なんてどうでもいいわ。それにワタシが助けに行く必要もないみたいだし!」
「あら、それはあんな相手だったからよ。今回の・・・いえ、今回『も』かしらね。ともあれ、そう簡単にいく冒険じゃないわ。彼はあなたの力を必要としてる。今回は顔見せだったけどね♪」
いいようにつかわれている。それは十分わかっているのに!! なのになんであいつがワタシの力を必要としているっていう言葉だけで顔がにやけちゃうのよ・・・。兄さん、ごめんなさい。ほんのちょっとだけ寄り道をさせて。ワタシ、やっぱりあいつの力になってやりたいみたい。そ、そうよ! きっとあいつが頼りないからほっとけないのよね!
「ふ、ふん! わかったわよ! しょうがないからこの騒動が終わるまではあいつに協力してあげるわよ!」
これ以上いるともっととんでもないボロが出そうだったからワタシは逃げるように洞窟を飛び出していったの。け、けしてあいつに早く会いたいとかじゃないんだからね!!
「はぁ、誰に似たのかしらね? あんなに素直じゃないなんて・・・。 でも、次会う時にはコクトくんが傍にいるし・・・その流れで判明するかしら♪」
罰を与えられないままに放置された罪。案外受ける方は苦しいようですね。しかし、リデアが誰に似たのか・・・僕はレーチェルの隔世遺伝じゃないかと思います^^
コクト「ふむ、随分と間が空いているが・・・リュウトも先代竜神そっくりというし、あの2人の遺伝は強そうだ。」
さて、今回はあなたにも十分関係のある話だったわけですが?
コクト「な、何のことだ? こ、黒衣の騎士なんてそう珍しくもないだろう。」
いや、十分珍しいでしょう? ただでさえ鎧はほとんど普及していない世界観なんだし。それに妹に反応する奴となれば・・・
コクト「お、俺はレミーを守りにいかねば! で、ではな!!」
とまぁ、読者様のお察しの通りかと思います。では次回はメイやコーリンたちの話ですよ~。




