1話 「信頼と」
ここは天界のとある場所、レーチェルの隠れ家の一つである。
「レーチェル様! ただ今戻りました! ・・・まだ戻っていないのか?」
普段なら俺が帰ってくればすぐに何らかのアクションが返ってくるところだが、今日は何の返答もない。いや、この隠れ家は今日知ったばかりではあるが・・・
「あ、ごめんね、コクトくん。ちょっとつまっていたものだがら・・・とりあえず奥まで来て頂戴。」
どうやら珍しく何か悩み事があっただけのようでいることはいたらしい。レーチェル様ほどの人が悩むこと・・・おそらくは今回の騒動に関することだとは思いながらも言われた通り奥に顔を出す。
「ん、お帰り。で、何か収穫はあった?」
「申し訳ありません。・・・特に収穫と言えるものは。」
「そう・・・まぁ、仕方ないわね。今回の相手はそう簡単に尻尾をつかませてくれる相手じゃないわ。」
普段だったら何の収穫なしであれば最低でも小言の一つ・・・最悪なら筆舌しがたいお仕置きという名の拷問が待っているところだが今回は何もなし。それが逆にレーチェル様も手を焼いているのだとということがよくわかる。
「レーチェル様はここで何をなさっているのですか? 俺はこんな場所があるなんて今日まで知りませんでしたよ。」
「そりゃ、場所が知れ渡っていたら隠れ家にならないでしょ? 天界にいくつかあるのよ、万が一の時に拠点にする隠れ家がね。ここも知っているのはあなたぐらいのものだわ。それと私が何をしているのかは・・・あなたにもまだひ・み・つ♪」
悪戯っぽく笑いながらウィンクを決めたレーチェル様。俺は知っている、レーチェル様がこういう態度をしたときは碌なことにならないということを。そして無理にその秘密を(どんな方法にしろ)知ろうとすることはさらなる災いを招くということを。・・・結局のところ、最低限の災いはまさに天災として受けるしかないのだ。
「・・・わかりました。甘んじて受け入れましょう。ところであのリデアという子はどうなりました?」
「なんか引っかかる言い方だけど、まぁいいわ。リデアちゃんは予想通りだったわよ。」
レーチェル様が言うにはリデアは自分の名前と目的を去り際に言い捨てるように出ていき、リュウトに至っては兄だということはおろか自分の名前さえも言えなかったらしい。もっともリュウトはどちらもほぼ同じ意味を持つだろうがな。
「なんです? その情けない結末は? ・・・レーチェル様、本当によろしんですか? もしあなたが積極的に・・・」
「はぁ、とりあえず、あなたにそんなことを言う資格はないと思うわよ? それにまだ私が出るわけにはいかないの。確かに私が出ていけば今回の騒動の犠牲者はきっと最小限に抑えられられる。でも・・・続く騒動の被害は? なによりも今は『あの存在』と戦うための戦力を作らなければならないの。例え今を苦しくしても彼らに強くなってもらわないといけない。」
後半は表情一つ動かさずに・・・まるで能面のように無表情でレーチェル様は言い切った。本当は苦しんだと思う。この人は非情で冷静を装っているだけの心優しい人なことは俺たちはみんなわかっている。
「やはり、レーチェル様はお強いんですね。わかりました・・・レーチェル様がそういうのでしたら俺は付き従いましょう。この身はすでに血にまみれ、途方もない恨みを受けています。今更厭うものなどありはしません。」
「ん~、残念だけどあなたはもういいわ。・・・リュウトくんたちのところへ、レミーの手助けをしてあげて頂戴。タイミングは任せるけど、危機を狙ってなんてやるとリデアちゃんとかぶるからやめた方がいいわよ~。」
初めの一言にお払い箱かと肝が冷えたが、続く言葉に安心させられる。もっとも最後の一言で茶化しながら大事なアドバイスをしてくれるのがこの人らしい。
「いいんですか? 俺が合流したら知っていることすべて話しますよ?」
「かまわないわ。あなたの知っていることで事態が大きく動いて、彼らの成長を阻害資する・・・ってほどのことはないわ。それに成長しなくちゃいけないのはあなたも同じよ。」
その一言がうれしい。成長しなければいけないのは俺も同じ・・・つまり俺もリュウトたちと戦う仲間だとレーチェル様も認めてくれているということだ。さて、それじゃあさっそく
「ではすぐにでも行ってきます。」
あらあら忙しいことね・・・なんていうレーチェル様のコロコロ笑う声を聴きながら俺はレミーたちのもとへと向かう。信頼はしてる。だがやはり大切な妹は俺の手で守りたいものだ・・・・リュウト、お前だってそうだろう?
「ふう、私が強いか。・・・本当にそうだったらいいんだけどね。」
ひとり呟いた言葉は静かな空間にしばらく反響して消えていく。コクトくんがいなくなった部屋は本当に静かでさびしくなってしまった。・・・そう、まるで『あの時』の本当に一人きりになってしまった時に戻ってしまったよう。
「今の私は彼らの役には立てない。だから私は私にしかできないことをやらないといけない。それに・・・私ももっと強くならないといけないのは同じだしね。」
自分を奮い立たせるために紡いだ言葉は、ほんの少しの暖かさを心に残してすぐに冷めていってしまう。まるでこの部屋に響く声と同じように。
「寒いわね。」
自分でもわかっている。寒いのは体でなくて心だってことぐらい。私もリュウトくんたちを信頼してる。でも同じぐらい今の自分ほどでないことも知っている。そして、私が未来のために今を犠牲にしようとしていることも。もし真実が知られたら・・・私がライオスを失った時に感じた自身への怒り、それと同じものが今回犠牲になった者たちの大切な人から私へと向けれられる。それは本当に怖いことだと自分でもわかっているのよ。
「ライオス・・・私はいまだにあなたに縛られている。あなたはそんな私を笑うのかしら? でもね、それでも私は今でもあなたと共に。あなたが残してくれた道しるべ、彼らにも伝えないとね。」
きっと私は弱い。ライオスがいないと未来の一つにさえたどり着けない。私は未だに彼の残した地図だけを頼りに恐々と進んでいるだけ。そこまで考えて私は首を振る。否定はできないけど、心に浮かんだ弱音を振り払うように。弱くても・・・強いふりをしないといけない。何故なら私は彼らの先駆者なのだから。
「さて、とりあえずは素直じゃない御嬢さんに会いに行きましょうか。」
誰も聞いてやいないのに、ことさら明るく言う。そう私はまだ、ただのレーチェル=フランには戻れない。私は女神レーチェル・・・今はまだその役割を演じるときなのだから。
裏方の最初はコクトとレーチェル・・・というよりはレーチェルの思いと言うところですね。意外と彼女は傷つきやすくて繊細・・・なのか?
レーチェル「なんでそこで疑問符が付くのよ! 私みたいに繊細な女はなかなかいないわよ?」
いや~、普段の行動を見ているとなかなかそうは(汗)あとはコクトの合流フラグも立っていますね。彼は当然ながら・・・
レーチェル「そうね、ある意味リュウト君たちが持っていないのが不思議な情報をもっているわね。そして、私は次回も出るのよね?」
はい! 次回は裏方とはちょっと違いますが、まだ前面には出ていないリデアの番です。彼女がリュウトを探すのにはそれなりのわけがあるのです。
レーチェル「それを私がやさしく解きほぐしてあげるのよね?」
・・・まぁ、そういうことにしておきましょう! では次回も見てやってください!
レーチェル「そうね、見ないと・・・こうなるわよ?」
え? ちょっと! いったい何を(バキ! ゴキ! グシャ! ・・・)
レーチェル「ふう、そういうことにしておくってどういうことかしら? ・・・あら、まだいたの? フフフ、ここで見たことは内緒よ? いいわね?」




