6話 「見えない道」
空気が重い。告げられた・・・いや、知ってしまった事実が俺に重くのしかかる。それが他のみんなにも伝播してしまっている。
「リュウト・・・そなたはなんで名乗らなかったのじゃ?」
静かに・・・けれど重く、問いかけてきたアキ。何故か・・・それは
「名乗る前に行ってしまったからな。」
これは事実だ。だが、真実かと言われると怪しい。確かに彼女は何故か俺たちの名を問わなかった。竜神・・・つまりは竜族である俺が兄の可能性を疑わなかったのだろうか? だが、もしも俺が真実を知ってから彼女が立ち去るまでに時間があったら? いや、そもそも彼女が俺たちの名を聞くという『ごく当たり前の光景』が行われていたら? 俺はすんなりと名乗れたのだろうか? 兄だと言えたのだろうか? それは
「誤魔化すでない。そなたらしくもない。・・・それに、呼び止めることができる程度の時間はあったろうに。やはりそなたは・・・」
「ああ、そうだな。・・・言えるわけがないだろう? あいつが知る記憶を失う前の俺がどんな奴だったのか知らないが、少なくても100年間・・・竜族の末裔の俺たちだってけして短くはない時間探し続けるだけの価値があったんだろう? ところが今の俺はどうだ? リデアという名は知っていた。その子がおそらく妹であることも予想はついていた。だがそれだけだ。探しもしていなければ心配の一つさえもしていなかったじゃないか! そんな俺が・・・名前以外何も知らない。当時のあいつの顔一つ覚えていない俺があいつが100年探し続けた大切な兄だってどうして名乗れる!? 名乗れるわけがないじゃないか!」
血を吐くように叫んだ言葉。それはまさに心からの言葉そのものだった。きっと俺は怖いんだ。・・・失望されることじゃない。失望させてしまうことが怖いんだ。
「く・・・うああ?」
響いた呻き声に俺たちの視線が一斉にそちらを向く。どうやら、捕らえていた神が気づいたようだ。・・・問題を先送りしているだけの気もするが、とりあえずはこっちを済ませてしまうか。
「さて、知っていることを洗いざらい話してもらおうか? お前たちは誰の指示で動いている?」
剣を突き付けて脅すように・・・というより完全に脅す。こいつも操られている口ではあるのだろうが、俺は基本的に手段を選ぶタイプではない。こいつ一人に恐怖を与えて事態が早急に解決するならこれに越したことはないだろう。
「そのようなことを貴様などに話すと・・・くっ!?」
無言でさらに剣を喉元に突きつける。この手の勝負はどっちの覚悟が勝るかだ。死んでも話さないと思う覚悟と、例え殺してしまったとしても容赦はしないという覚悟。聞き出す側が不利なのは本来殺してしまっては意味がないから・・・自分が情報を握っている限り死はないという余裕が相手側にあるからだ。それゆえに拷問という死に至らない痛めつけ方もあるわけだが、あいにく俺はそっちのほうは詳しくないし、無論できればやりたくもない。メイとかならば得意なんだろうなぁ、こういうの
「・・・ゼウス様だ。」
とはいえ、こいつはそこまでの忠誠や覚悟があるタイプではなかったようだ。・・・もっとも疑問も残るがな、操られているものが自分の命と主の利益を天秤にかけて自分の命を選べるものだろうかという。
「・・・間違いないか!?」
「間違いない! その・・・ぐはっ!?」
!? 突然飛んできた矢が正確に名も知らぬ神の心臓を射抜いた!? 俺たち・・・いやアシュラにさえも気配を感知されずにこれほど正確な狙いをするとは! もしこれが俺たちを狙ったものだったとしたら・・・冷や汗が流れる思いがしたが、まだまだ侮れない相手がいるということは間違いないな。
まだ動悸がする。もし狙われたのが私だったら・・・リュウトだったとしたら、血が凍りつきそうな気さえもする。
でも、なんであのタイミングで撃ったのだろう? 本来だったらゼウスの名前が出る前に撃たなければいけないはず。あれが撃てる最速のタイミングだった? それとも・・・そう彼が言おうとしていた『その・・・』に続く言葉はいったいなんだったのかな?
「・・・アシュラ。」
「ああ、わかっている。警戒網を強化しておこう。貴様も常時気を張っておけ。くっくっく、楽しくなってきたではないか!」
リュウトとアシュラが真剣な顔をして・・・でもアシュラは楽しそうに、リュウトはちょっとほっとしたように話している。アシュラが楽しそうなのはわかるとして、リュウトがほっとしていういるのは私たちに被害がなかったから? 普通ならそうなんだと思う。でも今は・・・
「リュウト・・・先送りしても後が苦しいだけだよ?」
「ん? 何か言ったか?」
「い、いや、何でもない。」
私がぽつりと言った独り言を聞きとめて聞き返してきたリュウトだけど、私は誤魔化してしまった。たぶん、リュウトも気づいていない本当の理由・・・それは彼女のことを考える状況じゃなくなったから。今しばらく、考えから排除できる環境になったからだと思う。
「私としては、むしろこっちを先に解決してほしいぐらいなんだけどね。」
今度こそ誰にも聞きとがめられなかった言葉。誰にも聞かれるわけにはいかない言葉。だって、それは彼女が兄と知らないリュウトに恋しているから。このままいったら強力なライバルになるかもしれないからなんて・・・彼女のためでもリュウトのためでもない私の勝手な理由。ちょっとの自己嫌悪とそれだけリュウトが好きなんだっていう誇りが入り混じった不思議な感情を感じる。
「ム~、よくわからないけど・・・ようするにゼウスのところに行くってことだよね! よ~し、元気にGOGO! だよ~!」
「う~ん、まぁそうだな。どっちみち会わないと先に進めそうもない。当面の目的はそれだな。」
難しそうな話と認識したのか、会話に入ってこなかったレミーの明るい声が響き、リュウトもそれにつられるように明るく話す。でもね・・・
「リュウト、そなたはわかっておるのか? 結局、そのゼウスの居場所はわかっておらんのだぞ?」
「あっ・・・。」
まわりまわって振出しに戻るって奴ね。ううん、振り出しのほうがまだましだったかもしれない。お姉ちゃん、私たちの先行き・・・いろんな意味で不安だよ~。
リデアとの出会い。やっぱり色々わかっていないリュウトはくだらないことで悩むのです。
レミー「覚えていなくてもなんでも言ってくれれば救われる・・・そんなこともあるんだけどね~。」
おっ! さすがに経験があるだけあって、これには的確なことを言いますね^^
レミー「ム~、わたしはいつでも的確なこと言うよ~! で、的確って何?」
・・・さっ、次に行きましょう。この章は色々ありましたが・・・結局事態は何にも好転も進展もしてません! いつも通りレーチェルは一番情報を握っているのですが・・・
レミー「レーチェル様は知っていても教えてくれないと思うの。本当にどうにもならない事態じゃないと手を貸してくれないから・・・。」
そうなんですよね。まぁ、あれはあれでレーチェルの愛情だったりするんですが・・・。とまぁ、そんなこんなで天界を彷徨うリュウトたち! 次回はどんなことが起きるのか! レミー!
レミー「は~い! でも次回はわたしたちの活躍じゃなくて他の人たちにスポットライトっていうのが当たるんだって! レーチェル様にお兄ちゃん! めーちゃんにこーちゃんにまーちゃんたちも裏で頑張っているんだね! 竜神伝説第4部3章『裏方の戦い』う~、なんか頭が痛くなるような戦いだよ~。」




