5話 「その名は」
続々と現れる天使の大群・・・やはりココの神はそれほど地位の高い神ではないようで、出てくる天使たちも大部分は下級のもの・・・この前会った権天使級さえもいないようだ。となると
「ふん、貴様ら雑魚共がいくら群がろうともオレの血の渇きを癒すには程遠い!」
普通なら強敵・・・というよりもどう考えても勝ち目のない相手には身がすくむものだが、操られている彼らにとっては集中攻撃をかける相手ということになるらしい。そのため、アシュラが見えなくなるほどの数の天使たちが群がっている・・・まるで『飛んで火にいる』ってやつそのものを見ている気分だな。
「ム~? なんでわたしのところには来ないんだろう? まぁいいか! どんどん撃つよ~!」
反面、闘気の類がまったく感じられない(俺たちには感知できない部類のを出しているのかもしれないが)レミーのところにはほとんど誰もいかない。もっとも遠距離攻撃の得意なレミーにとっては攻撃がしやすい環境であるのだが・・・これも一種の才能と言ってもいいのだろうか?
「ふむ、数だけ集めた戦力など、今の私には意味がないぞ。星の子の祈りを受けて、大いなる光よ、万の敵を打ち倒す戦輪となれ! スターループ!」
アキはというとさっそく数の多い敵に有効な新技であるスタール-プを最大活用しているといった感じだ。無論、彼女のところにはそこそこの数の天使たちが集まってきているのだが、自動追尾のスターループ・・・技に意識を省かなくていい分、どうやら他の技も同時使用できるようで、光の輪を抜けて来たものはファイヤーボールでしっかり撃墜していたりする。
「あら? ワタシと戦うなんてなんて身の程知らずなのかしら? さぁ、全員凍らせてあげるわよ! それとも切り刻んでほしいのかしら? どっちでも好きなほうを選ばせてあげるわよ!」
そしてこの子だ。どうやらタイプ的には俺と同じようなタイプ・・・つまり攻防においてほぼ何でもできる万能タイプのようだ。しかも、どっちも使えるとはいえ剣のほうが得意で魔法が苦手な俺と違って、まさにどっちも同じぐらい使えるらしい。見方によっては器用貧乏とも言えるが、これほど高水準でまとまっているならどんな状況でもいかなる手段でも取れるということだろう。まさにプチレーチェルとでもいうか・・・本当の意味で後継者と言える者なのかもしれないな。そういえば、彼女が使っている剣・・・レイピアと呼ばれる細身の剣もレーチェルが愛用しているものによく似ているし・・・。
とまぁ、こんな感じで・・・早い話が数が多かろうとも苦戦する要因が天使たちにはないということなんだよな。ん? 俺か? 勿論ガンガン戦っているぞ。アキが合流時にスターループに指示をして殺さないようにしていたって話で思い出したんだが・・・俺も竜神剣にしっかり指示していれば命まで取らない程度に斬ってくれるんだよな。すまん、意味なく切り裂いてしまった無数の天使たち。その分、こっちでは犠牲者が増えんように人一倍の量を相手しているから。そういう意味では・・・
「なぁ、アシュラとそこの奴! もう少し相手のことも考えて戦ってやってくれよ。向こうは操られているだけなんだから・・・。」
そうレミーは意外にもちゃんと急所を外して気を失わせたり、戦力だけを奪ったりしている。アキはスターループに関しては死なないように指示しているらしい・・・ファイヤーボールで焼かれた奴の中には加減を間違えたのか丸焦げになっているのもいるが、アキが手加減が下手なんて言うのはわかりきっていたことだからな。まぁ、見なかったことにしておこう。それに対してこいつらは・・・
「ふん、戦いの対価に命など・・・安いものだろう。」
一応手加減は(相手を気遣ってではなく、無駄な力を使わないため)しているようだが、どう見ても致命傷(いや、即死かもしれないが)な天使を量産しているアシュラ。戦うからには命を失うのは覚悟の上・・・っていうのはわかるが、操られているやつらにまで当てはめるな! ついでに言えば、お前の命の価値観は低すぎだぞ・・・。
「誰がそこの奴なのよ! ふん、こんなのはね、操られるほうが悪いの。一応手加減はしているけど、そこまで細かいコントロールなんてしてられないわ。きっと、レーチェルだってそう言うわよ!」
誰の事だかわかっているじゃないか。名前をまだ教えてもらっていないんだからしょうがないだろ? それに・・・たしかにレーチェルもそんなことを言いそうだけど、何も悪いところまで踏襲しなくてもいいのではないだろうか・・・。
「つまり、2人とも殺さないように気を使うつもりは?」
「「ない(わよ)!」」
ふむ、息ぴったり・・・じゃない!! なんでこんなにはっきりと即答するんだよ!! はぁ、言って聞くような奴らなら苦労はしないか。仕方がない、運よく生き残ってくれる奴らが多いことを祈りつつ、あいつらに殺される前に俺が片づけるしかないか。
「ん? あれは・・・ちっ! しまった!!」
あまりの数の多さに(そして影の薄さに)すっかり忘れていた相手方の神。いくら闘いにかかわる神ではない(と推定される)としてもやはり神は神。ここら辺にいる天使よりはずっと強い。そんな奴を誰も警戒もせずに放置していたら・・・そのためにためられた光弾は発射間近、狙われているのは彼女か!
「えっと、そこの・・・・救世主! 避けるんだ!」
さすがにあれをまともに受けたらそれなりに危険だ。防御よりは回避のほうが楽なはず・・・と大声で呼びかけたのだが
「えっ? ・・・あ、あああ・・・」
どうやら力はあっても場馴れしてないタイプだったようだ。俺の大声と相まって突然の事態に固まってしまったらしい。くっ! 今から間に合うか!? いや、間に合わせるんだ!!
「竜神流・・・刹那!」
高速の突撃剣術・・・を応用した体当たり。対象はもちろん狙われている彼女だ。そして・・・ほんの僅か、まさにタッチの差でぎりぎり彼女にあたる前に体当たりは成功し、彼女を助けることはできたが一緒になって地面に倒れこむことになった。・・・ん? この状況、以前にも経験がある気がするな。
「あ、あああああ、あんた! さっさとワタシの上からどきなさいよ!!」
といきなり飛んできたのは正確にあごを捕らえたものすごくいいパンチ。ああ、そうか・・・アキと初めて会った時と同じような状況だったんだな。あの時はビンタだったけど。
「ってて・・・。」
「ちょ、ちょっと・・・ごめんなさい。そんなに強くたたいたつもりじゃ・・・。」
「あ、いや。(それも痛かったけど)そっちじゃなくてな。」
そう、今の衝撃で傷んだのは助けるときに光弾がかすめた肩のほうだ。まぁ、重度の火傷・・・ぐらいかな。あとでレミーにでも治してもらうとしよう。
「あ・・・ワタシのためにこんな・・・待ってて! 今、治してあげるから!」
「へぇ、回復もうまいんだな。」
彼女の回復はそりゃレーチェルやレミーに比べれば劣るが、俺なんととは比べ物にならないぐらいうまかった。・・・それになんか懐かしい感じがするな。
「あ、あたりまえじゃない! べ、別に褒められたって嬉しくないんだから・・・」
と真っ赤な顔で言うもんだから余計に可愛らしく見えるな。
「照れるな、照れるな!」
「て、照れてなんかないわよ!」
何故かわからないが、本当に懐かしく感じる。そして、心があったかくなる一時だったんだが・・・
「そなたは何をやっておるのだ?」
アキの凍てつくような視線に時間停止が無効なはずの俺の時間さえも凍った気がした。
「い、いや・・・別に何でもないぞ? そ、そうだ! こんなことをやっている場合ではないぞ! あの神は・・・」
「とっくにオレが倒した。天使どもは主がやられて逃げて行ったから戦い自体終わっている。」
とはアシュラの言。それもちゃんと(情報を聞くため)手加減していたようで、しばらくし気絶からさめても大丈夫なように拘束までしている完璧さだ。
「あ、あはははは・・・」
得体のしれないものは怖い。今の俺の心境はまさにこれだろう。何なんだ、この異様な雰囲気は!? 特にアキとあの女の子の雰囲気が・・・会話は聞こえない(というより聞きたくないから意識から外している)けど。
ちなみにこの時の二人の会話は・・・
「そこのもの、あやつは私の恋人でな・・・手出ししないでもらおう。」
「べ、別にワタシはあんな奴どうとも思ってないわよ!」
と詰め寄るアキと真っ赤な顔で言い返している(?)自称救世主という感じである。
「こほん・・・えっと、じゃあこいつが目を覚ます前にワタシのことを話しちゃうわ。」
しばらくアキとにらみ合っていた女の子がこう切り出した。
「実はちょっとお願いがあってね。ワタシは100年ちょっと前に行方不明になった兄さんを探しているのよ。もし、あなたたちが出会ったらワタシが探しているって伝えてほしいの。勿論、兄さんの居場所も聞いてほしい・・・。」
ちょっと意外な話ではあったが、断る理由はない。しかし100年ちょっと行方不明の兄? どこかで聞いたことがあるような??
「ああ、かまわないぞ。だったら連絡方法とキミと兄さんの名前を教えておいてくれ。」
「れ、連絡方法はいいわ。ワタシはあんたの居場所はわかるから。こ、こっちからたまに会いに行くわ。べ、別にあんたに会いたいわけじゃないのよ!? に、兄さんの情報を聞くためなんだからね!」
何故か真っ赤な顔をして力説してくるが、そりゃそうだろうな。彼女に俺に会いに来る理由はそれぐらいしかないだろう。何故かアキが怖い顔をしてにらんでいるが・・・
「ああ、わかっている。で、名前は教えてくれるんだろ?」
「わ、わかればいいのよ。そうね、ワタシの名前はリデア・・・リデア=アルバード。兄さんの名前はリュウト=アルバードよ・・・じゃあよろしくね!」
そう言い捨てて走り去っていく彼女・・・いや、リデア。リデア=アルバード、兄の名はリュウト、俺の持っている半分にかけたペンダントに書かれている名前もリデア・・・。
「リュウト、そしや彼女は・・・」
「ああ、やっぱり俺の妹なんだろうな。」
きっと彼女はずっと探していたんだろう。それなのに俺は探すどころか彼女の存在さえも忘れていた。いや、兄としての記憶も妹としてのあいつも知らない。・・・今更どんな顔をして兄なんて名乗れというのだろう。俺が兄だ、でもキミのことなんて何も覚えてない・・・なんて言えやしないじゃないか。
さて、ようやく正式にお目見えとなりました! リュウトの妹リデア=アルバート! 勿論メインキャラの一人ですので今後ともよろしくお願いします。
アキ「とうとう出てきたか・・・疫病神め。」
や、厄病って・・・一応味方で恋人の妹でしょ?
アキ「それ以上に私とリュウトの仲を壊そうとする厄介者じゃろうが! さ、さっそくアプローチを仕掛けてきておるではないか!!」
大丈夫です! リュウトは全く気付いていませんから^^
アキ「それが逆に厄介なのじゃ。リュウトは妹とか姉という言葉に弱い。自分が狙われていることも知らぬから甘い顔をするリュウトに前作も前々作もヤキモキさせられたのじゃぞ!?」
ま、まぁ・・・そこらへんはお二人で何とか対処を・・・
アキ「そうじゃな、しっかりとリュウトに教育を施さねば・・・フフフ。」
・・・(汗) え~、そういったところで今回はお開きです! リデアの再登場にも期待していてくださいね!




