3話 「ラビリンス」
「ム~、一体何なの~!?」
レミーの騒がしい声が聞こえる。だが、珍しく的を得ているといえるかも知れん。下級天使から魔獣、アンデットにいたるまで出てくる敵に統一性がまるでない。こいつらは本当にここに配置されている奴らなのか? ・・・それに
「詰まらん。」
手ごたえがなさすぎる。その攻撃はオレに僅かにダメージを与えることさえも出来ず、その命の火は拳風のみで容易く吹き飛ぶ。・・・落とし穴の落下地点にアレほどあった骨どもの主はこの程度の奴らに敗れる弱者だったということか?
「アレ? 行き止まり~!?」
無論、レミーもその程度の奴らに苦戦するはずも無く、襲い来る雑魚共を片付けながらも足を前に運んでいた。そんな最中のレミーの一言。・・・行き止まりだと? この方向からは確かに風を感じていたのだが・・・。
「ふむ、確かに行き止まりだな。」
別にレミーの目がおかしいわけでも、幻術の類がかけられているわけでもない。そして、風の通り道になるような隙間も見当たらん。・・・これはどういうことだ?
「ム~? アーくん、どうしたの? 壁なんて見てても進めないよ?」
ヌッ、たしかに一理ある。だが・・・
「ランランランラ~♪」
何が楽しいのか上機嫌に歌など歌いながらスキップをふんでいるレミーを横目に見ながら歩く。そもそもここは何の為の空間だ。侵入者を貶める罠にしては・・・
「ム~、ここも行き止まりだよ~。」
・・・ちょっと待て。ここはさっきまでは道があったはずの場所。くっくっく、そうか! そういうことか!!
「アーくん?」
フッ、オレの行動がわからんという顔をしているな。いや、この答えに行き着けん限りはレミーでなくてもわからんだろう。そう、壁に対して攻撃態勢をとっているなどな。
「ふん、これがこの迷宮の正体というわけだ。」
オレは思いっきり壁を叩く・・・いや、爪で切り裂くというべきか。その瞬間に液体・・・血が壁より吹き出し、ぐにゃりと辺りが歪みだす。
「な、なにこれ?」
訳がわからないという感じでポツリと呟くレミーだが、案外こいつは冷静であるというべきかも知れぬな。普通はパニックに陥ってもおかしくはない光景だ。もっとも、冷静だからといってまともな答えや行動にたどり着く保障はまったくない奴だが。
「ふん、擬態をするものは多くいるが、迷宮そのものに擬態する奴がいるとはさすがに思わんかったぞ。」
そう、ここは迷宮なのではない。いや、そもそもオレたちが落ちたのは落とし穴などではないということだな。
「ム~? ・・・ひょっとしてここ・・・おなかの中?」
ようやく気づいたか。あい変らず鈍いやつだ。そう、オレたちが落ちたのは落とし穴ではなく擬態された口だということ。オレたちが倒したのは配置された敵ではなく、こいつの獲物だったわけだな。
「ふん、いうなれば・・・『ラビリンスワーム』とでも言うべき存在か。」
大きさ的に考えると『サンドワーム』あたりの亜種というところだろう。そして確かに、これほど完璧な擬態を行えるのならば厄介な相手といえよう。下手に迷わせようなどと壁に小細工をしなければ気づかんかったかも知れぬな。
「ム~、でもどうするの?」
「ふん、決まっている・・・こうするのだ!」
再び渾身の力で壁を殴りつける。ぐらぐらとまるで地震のように迷宮・・・ワームが震える。もはや擬態する余裕もないのか、あたりはただの肉壁になっている。
「さっすがアーくん! でも、これだけじゃ出れないよ?」
「ふん、擬態が解けたのだ・・・当然奴らも気づくだろう。」
「ム~??」
やはりわかっておらんようだな。巨大な敵を・・・それも内部にいるものを気にせずに切り裂く。そんなことをやるのならこれ以上無く適任が外にいるではないか。
「ん? なんだ??」
地下への入り口を探すと同時に神殿の捜索をしていると、ぐらぐらと揺れる地面。地震か? とも思ったが、そもそもここは空に浮かぶ天界、そんなものが起きるはずもない。
「りゅ、リュウト! 建物が崩れるよ!」
「ちっ、とりあえず脱出するぞ!!」
何が起きているのかわからないが、まずは安全な場所にアキを連れて行かないと・・・アシュラたちは地下にいるわけだし、おそらく大丈夫だろう。
「アキ! 掴まれ!!」
「うん!!」
アキの手を取り・・・と思ったが速度の関係で俺が運んだ方が速そうなので抱き上げて走る。アキが『キャ~』とか『恥ずかしい!』とか言っていたがとりあえず無視をしよう。
「うう・・・い、いきなりお姫様だっこなんて恥ずかしかったよ~。」
赤い顔で涙目になりながら抗議するアキは可愛い・・・じゃなくて、そんな名称がついていたのか。じゃ女王のアキには似合わないのかも・・・
「リュ~ウ~ト~? なんか変なこと考えていない?」
「いや、まったく。」
アキには似合わないっていうのは・・・変なことじゃないよな? 言わない方が身のためだという気は何故かするが。・・・なっ!?
「これは予想外だったな。まさか、地面じゃなくてあんな奴の上に建っていた神殿だったとは・・・」
「ワーム? でもあんな大きい種は聞いた事がないよ?」
「どうせ、どこかの神が研究で作った実験体なんじゃないのか? さすがにこれは俺たちの知っているあの神の仕業じゃないとは思うが、前例もあるからな・・・こういうことをやる奴がいてもおかしくない。」
「・・・それもそうね。」
俺としてはあんな変わり者の迷惑な神が何人もいて欲しくないところだが・・・。おっと、その前に
「ねぇリュウト・・・ひょっとしてレミーたちはワームのおなかの中?」
「そういうことなんだろうな。で、それに気づいたアシュラあたりが中で暴れた結果がこれだろう。ある意味究極の食あたりだな。」
そりゃ、あんな煮ても焼いても食えない奴の代表みたいなのを飲み込めばこうもなるだろうな。
「さぁ、ここは俺たちの出番だぞ・・・リュム!」
「・・・よかろう。我が力、そなたに貸そう!」
相手が巨大ならばそれに見合う剣を持てば良い。刀身を大きくした竜神剣を振り下ろす。仮にその刃の先にあいつらがいても斬る対象を選ぶ能力を持つこの剣ならば、斬らずに助けられる。・・・そして
「ふん、手間をかけさせたようだな。」
ぶっきらぼうにそう言ったのはアシュラ。もっとも、こいつがその気ならば自力で出てこれただろうし、なによりもレミー単独で放り込んでいたら気づく前に消化されるところだっただろうから、むしろ感謝と言った感じだが。
「たまりにたまっている借りから一つ引いておいてくれ。」
と一応言っておく。アシュラからにとってはこの方がプライド的にも当たり障りがないだろう。
「しかし、やはりここは罠だったのじゃろうか・・・えっ!?」
足したる手がかりも掴めず、危機だけがあった現状に悲しそうに目を伏せたアキが呟いたが、次の瞬間に驚きの声をあげた。アキを・・・いや、俺たち一人ずつを捕らえた光の輪。なるほど、仮に罠だとしても本当の罠はここからかもしれないな。さて、俺たちの動きを封じて・・・次はどうでる?
意外な迷宮の真実・・・そして久々に活躍した竜神剣の能力! と思いきや再度訪れた危機と今回は忙しい話でした。
ママナ「ブ~、私が知らない間にこんな事になっているなんて~!!」
あ~、そういえばママナは今回の事態にまったくノータッチなんだよなぁ。・・・今のところ。
ママナ「ん? 『今のところ』ってことはちゃんと出番はある?」
まぁ、一応予定では・・・。そもそも、メイとコーリンというサポート陣に情報が伝わっている以上はママナのところに話が行くのも時間の・・・ってことです。
ママナ「お~! そうだよね!! 私もリュウトの役に・・・ってその光の輪ってリュウトやアシュラの身動きを・・・」
ストップ! それ以上はまぁ次回のとそれほど先ではないけどネタバレだから!! さて次回、リュウトたちに訪れるものとは! そして、レーチェルの元から派遣された彼女は! お楽しみに~♪
ママナ「私の出番も祈っててね~。」
いや、さすがに次回はまだ出てこないから・・・。




