1話 「契約?」
「レーチェル・・・急に呼び出しなんて何よ?」
現れるなり不機嫌だっていうのを前面に出す彼女。私に対してこの態度・・・普通ならちょっと機嫌を損なうところだけど、これが彼女の強がりだってわかっているから微笑ましく感じる。
「大したことじゃないわ。あなたにお仕事を頼もうと思っただけよ。」
「はぁ!? ちょっとワタシは前にも言ったでしょ? ワタシは行方不明の兄さんを探すので忙しいの! 余計な仕事なんてやっている時間なんてないわ。」
髪を引き上げたポニーテールと細く釣りあがった目・・・それは怖い女って言う印象を普通は持たれるのだろうけど、こうやって頬を膨らませて口を尖らせているような子供っぽいアピールをする子だってどのぐらい知っている者がいるのかしらね。いえ、この子はまだ本当の意味で子供なのかもしれない。
「あら? でも私も言ったはずよ? あなたに私の力の一部を渡すときに『これは竜神のサポート神の力。竜神の危機には最優先で彼を守ってもらうことになるわ。その時期は私の方から伝えるからよろしくね』って。」
それは私と彼女が交わした契約。その言葉に彼女は『うっ』と唸って何も言えなくなる。ここで『そんな約束守る気ないわ』とかって言わないところが彼女が実は誠実であることの証明かしらね。
「・・・つまり、その竜神とやらを助けに行けってこと?」
「そういうことよ。あ~、場所は言わなくてもわかるでしょ? あなたに渡した神の力は彼を・・・そしてその剣は竜神剣の居場所を常に探知し続けているはずよ。」
「ええ、忌々しいことにね。ふん、つまるところワタシはこんなことでサポート神に頼るような情けない竜神の相方で、この剣は竜神剣の片割れってところかしら?」
竜神剣の片割れ・・・この言葉に私の顔はピクリと反応する。幸いにして彼女には気づかれていないみたいね。本当の意味であの剣の片割れと呼ぶべき剣は別に存在する。もう1本の『究極の魔剣』。竜神剣に相反する剣・・・あの剣が『究極』であっても『最強』とは名乗れない理由。永遠のライバルであり、おそらくは・・・
「・・・? 何よ? 急に黙っちゃって。ふん、いいわ。約束しちゃったのは事実だし、今回は助けに行ってあげる。そう『今回は』ね。」
あら? その言いぶりだと、ちょこっと助けに行ってすぐいなくなりそうね? じゃあ、ちょっと釘・・・いえ、首輪をつけておこうかしら? まぁ、たぶん言わなくても会ったときの反応を考えれば必要ないことかもしれないけどね。
「一応アドバイスをあげるわ。彼らにあったら、自分の名前と目的ぐらいは告げておきなさい。彼らもアレで世界のあちこちを旅しているし、女王様や魔界の領主みたいな人とか情報が集まるポジションにいる人もいるわ。あなたのお兄ちゃんの居場所を知っている人もいるかも知れないし、あの子達なら情報が入ったら教えてくれるわよ?」
「・・・ワタシが百年も探して見つからなかった兄さんの情報がそんな簡単に入るとも思えないわ。でも一応、聞いてみるわ。あ、あくまで一応よ! 期待なんてしてないんだからね!」
・・・どうしてこの子はこうも素直じゃないのかしらね? まぁ、これ以上無くわかりやすいから不快な気分にならないどころか微笑ましいんだけど。
「はいはい、わかっているから。じゃあ、お願いね。」
「ふ、ふん! ワタシが協力すればどんな相手だって敵じゃないわ! ぱっぱと解決して逆にワタシを崇めさせてやるわよ!」
と言い捨てて出て行く彼女。彼女の言動は一見するとわがままにも思えるけどねぇ~。そんな真っ赤な顔でまくし立てても可愛いとしか思えないわよ。容姿だけなら綺麗とも可愛いとも言えない・・・まぁ標準よりはちょっと上かなぐらいの彼女だけど行動で可愛らしさをか。本人は不本意だろうけどね。
「レーチェル様・・・。」
彼女がリュウトくんたちの救援に行ったころに出てきたのはコクトくん。というよりも彼女がいたから出てこなかったというべきね。
「ん? なにかしら?」
「彼女・・・あの気配というか気質は俺がよく知っている奴に似ているんですが。ひょっとして彼女が探している兄というのは・・・」
ん~、やっぱ気がつくわよねぇ。でもね、教えちゃったら面白くないじゃないの。
「そこまでよ。あってみて吃驚! っていうのが面白いんじゃないの。まぁ、彼が名乗るのか・・・っていうのは微妙だと思うけどね。」
「えっ? あいつが名前も名乗らないとは思いませんが・・・。」
「そりゃ、普通ならね。でも彼女はきっとさっさと手伝って、帰り際に言い捨てるように言うのよ。・・・それにあなただってレミーに兄って名乗れなかったでしょ? 状況は違うけど、彼もね名乗りにくい状況なのよ。」
コクトくんは首をひねっていたけど、考えてもごらんなさい? 彼の状況からしていきなり妹を名乗られて、それを受け入れられるかしら? ましてあの子の執着度は並じゃないわよ? そこまでの思いを寄せられていた、対して自分は・・・ってくだらないことで悩んじゃう子でしょうに。
「さ、他にも聞きたいことがあるんじゃないの?」
私が促すと一転キリッと真剣な顔をコクトくんはした。きっとこっちの方が本命でしょうからね。
「ええ、彼女が言ったことで思い当たったんですが、もしや竜神剣とはあの伝説の? あ、いえ・・・俺も小さいころに母から御伽噺として聞いただけなので詳細は覚えていないのですが。」
「それは・・・って言う話かしら?」
私がすらすらと語った昔語り。いえ、御伽噺に驚きながらコクトくんは肯定する。
「ええ、それです。今になって思えば、竜神剣に符合することが多すぎます。それに・・・」
「そうね、確かに符合する点は多いわ。でも、私にも真偽はわからないのよ。だから、この話はここまでよ。今はまだ知らなくてもいい話なの。それにこの物語に語られている・・・いえ、この話は忘れてちょうだい。」
ちょっと不満そうなコクトくんだけど、まだこの話はあまりにも早すぎる。今のリュウトくんに教えたところで何の意味も持たない。そもそも片割れの剣がどこにあるのかさえもわからない。いえ、物語の剣と竜神剣が真実同一のものと言い切ることも私も出来ないわ。たぶん、そうじゃないかとは思うけどね。
「さぁ、そんなことよりも今は私たちのやるべきことをやるとしましょう!」
フフフ、ホント楽しみだわ。彼女がどんな反応を見せてくれるのか♪
「レーチェル様・・・それは絶対今やらなければならないことじゃないですよ。」
五月蝿いわね、今じゃないと楽しめないことじゃない! いざとなったらどうとでも出来るレベルの事態なんだから私が楽しむことの方が優先順位は高いのよ!!
さて、ついにというべきか出てきましたね~。
???「まったくよ、なんで本当のヒロインのワタシが・・・って! なんでまだ表示が???なのよ!!」
なんで? って、まだ名前が出てきてないからに決まっているでしょう? 別にメインヒロインじゃないですし。
???「わ、ワタシがヒロインだって言ったらヒロインなの!! それにワタシの名前はある意味出てきているでしょう!!」
どうでしょう? 出てきているかもしれませんが、そうだとしてもまだはっきりとイコールで結ばれているわけではないでしょう? まぁ、大概の人は正体に気づいているでしょうけど。
???「だったらいいじゃない。あんただって気づかれるとわかっていて書いているんでしょう?」
99%わかる書き方をしていようと一応ぼかしているのを読み取ってもらうのと公言するのとでは天と地ほど違いますので♪ 前者ならそう思わせておいて実は・・・みたいなネタも使えるでしょう?
???「あんた、まさか・・・」
ん~? 僕はキミが誰の妹かなんて一言も言ってませんよ? ただコクトが知っている奴に似てるとしか断言してませんからねぇ。レーチェルも『会ってみて』とは言ってますが、その彼が竜神一行の中にいるとは言っていないわけですし(ニヤニヤ)
???「もういいわ! 今に覚えてなさいよ!!」
大丈夫、すぐ忘れるから。はは、あ~やってすぐに感情をむき出しにするのが可愛いところ・・・って! あ、足・・・いや、体が凍・・・る・・・。
???「ふん、今に覚えていろって言ったけど、その今がすぐに来たっておかしくないわよね? さぁ、これを見ているあんたも次回以降の真のヒロインの活躍をしっかり見るのよ! な、なによ! べ、別に見て欲しいとかじゃないわよ! な、泣く!? だ、誰があんたなんかに見てもらえないぐらいで泣くって言うのよ! ふ、ふん、勝手にしなさいよ! べ、別に見てもらえなくても・・・いいんだから・・・クスン。」




