3話 「2人の天使」
「気に入らないわね。何の功績もあげないうちにただ力を受け継いだだけで神になった成り上がり者と天使もどきが私に勝てるとでも?」
うなずきあう視線。ただそれだけで良い。そう、俺たちは仲間なんだから・・・考えていることの1つぐらいはわかるさ。それは真逆にしてまったく同じ思い。
「行くぞ・・・竜神流! 竜爪閃!!」
三本の風の刃は権天使とオルトロス両方を狙い・・・そして避けられる。
「所詮はあんたの実力なんてその程度! 今までの活躍なんて井の中の蛙だってことよ!」
・・・その言葉、そっくり返してやろうか? 確かにあの攻撃を避けたなら身体能力はそれなりだろうな。だが、実戦・・・少なくてもタッグ戦は経験がないに等しいだろ? 俺の目的は・・・
「いっくよ~! ウォータショットだよ~!」
すかさず撃たれたレミーのウォータショット・・・それも5連発。いずれも当たりはしていないが・・・
「ガルルルルゥゥ・・・」
「はっ!? ま、まさか!?」
さすがに気がついたみたいだな。俺たちの攻撃を自分がかわすことしか考えなかった・・・それもあえて作られた避けやすい方向に避けたお前たちはお互いの距離がそんなにも離れてしまった。対する俺たちは未だにぴったりと背中を合わせられる距離にいる。そして
「お、オルトロス!! 私のところへ来なさい!」
「ガル!!」
今更、呼び戻そうとしても、もう遅い。俺が黙って合流させると本気で思っているか?
「竜神流! スタースクリュー・タイプA!」
高速突撃、横方向の竜巻であるこの技! 動きを拘束するならこいつが最適。無論、これだけでは終わらんぞ?
「竜神流剣術! 刹那!」
風に拘束されたオルトロスにさらなる突撃剣術! さすがに野性の本能か、素早く察知したオルトロスは致命になる箇所こそ避けたようだがこれで俺たちがさらに1歩有利・・・というわけだ。
リューくんがオーちゃんの相手をしてくれているからわたしはこっちの天使の相手をすればいいんだよね? ム~、頑張っちゃうよ~! だって
「フッ、貴様のような半端者が私の相手? 情けなさ過ぎて涙が出るわ。」
「ム~! 確かにわたしは天使と悪魔・・・両方の血を引いているよ。それが半端者だっていうならそれでもいいよ。でもね・・・わたしはあなたは許せないよ~!」
だって・・・だって! この人は!!
「ええ、怒れば良いわ。私も許す気はない・・・あんたみたいなのが天使を名乗るなんて・・・虫唾が走るわ。」
そんなことはどうでもいいの。きっと・・・言葉は届かない。だから・・・わたしは静かに弓を構える。この弓は神弓アルテミオン、レーチェル様がわたしに作ってくれた弓。レーチェル様は言った・・・この弓が打ち抜くものは闇なんかじゃないと!
「そうよ、悪魔は悪魔らしく暴力で訴えてきなさい! それでこそ、私も撃てるってものだわ。」
彼女も弓を構える。距離にして僅か数十m・・・隣ではリューくんとオーちゃんのぶつかり合っている音が聞こえる。そして・・・
「おわっ!?」
「ガルルルルルゥ~!」
リューくんが大きく跳ね飛ばされる。それによって位置関係はわたしの目の前に天使、左方向にオーちゃん。左後方に膝をついているリューくんという配置。
「フッ、どうやら勝負あった見たいね? あなたが弓を撃ったところで私に撃たれてオルトロスに襲われる。・・・諦めなさい。」
優しさの裏に透けているあざ笑う声がわたしにもわかるよ~。だって、だって! 厳しいことを言っても! 怒っても! 呆れられても! 感じられるレーチェル様やリューくんたち・・・わたしの大切な仲間のような優しさとはまったく違うもん! だから!
「えっ!?」
迷う必要なんてない。ただ、わたしは撃てばいい。レーチェル様に言われたように・・・この弓はわたしたちの未来を阻むものを撃ちぬく弓なのだから。
絶対撃たれるわけない・・・そう思っていたのかな? わたしの前にいた天使の慌てた矢は肩を掠めただけで終わり、わたしの矢は彼女の右肩を綺麗に射抜いた。
「オルトロス!」
「ガル!」
牙をむきながら迫ってくるオーちゃん。弓を撃ったばかりのこの体制からは避けられない。わたしはレーチェル様のように転移で避けるなんて出来ないし、今から幻影も意味ないよね? だから、そっと目をつぶったんだ。だって
ピキィ・・・響いた音に私は音のした方を振り返る。あれは・・・
「これはレミーが忘れていった矢ではないか? かってに折れるなんて・・・いや、まさかな。」
誰もいないエルファリア宮殿の執務室。お姉ちゃんが出て行って30分ぐらいかな。・・・何度抜け出して行こうと思ったかわからない。私はリュウトが大切・・・ちょっと恥ずかしいけど愛しているって断言できる。でも・・・同じぐらいレミーだって大切だし心配。余計な心配かもしれないけどレーチェルさんだって心配なの。だから行きたいんだと思う。だからこそ・・・命をかけてでも戦いたいのだと思うの。
「女王様・・・お待たせいたしました。」
帰ってきたお姉ちゃん。でも、私を驚かせたのは隣にいた人! な、なんでここにいるの?
「驚かれましたか? 以前、魔界に女王様を助けに行った時に密かに連絡方法の確立と転移陣を用意しておいたのです。私と・・・コーリン殿はサポート役ですので、こういった準備はぬかりありませんわ。」
「私もメイさんからご連絡をいただいたときは驚きましたが、こういった事態であれば喜んで協力させていただきます。いえ、もし連絡がなければ逆に機嫌が悪くなるところです。」
た、確かにそうだよね。あ、勿論機嫌が悪くなるのはコーリンさんじゃないよ? そう、彼女に連絡が行ったなら彼に話が通らないはずがない。そして、彼ならば面白いというだろうこの事態に何もしないはずもない。
「では、私と共に天界に行ってもらえるのだな? ・・・アシュラ?」
「ふん、勘違いするな。貴様と共にではない。オレが楽しき戦いをするためにいくのだ! 何が起きているかわからん天界? あのリュウトが関わっている? くっくっく、これ以上なく面白いではないか! そこに貴様・・・アキの同行も許可してやろうというだけのことだ。」
いつもどおり素直じゃない・・・って言いたいけど、たぶん今回は8割がた本音ね。たぶん違うところといえば、もう少し積極的に私を連れて行ってくれようとしてるってところと・・・レミーも心配ってところかしら? まぁ、下手に言って機嫌損なったら困るから言わないけど。
「なるほど、では同行させてもらうとしようぞ。」
待ってて、リュウト! レミー! 今行くから! ・・・あと、私を置いていったこと、覚悟しててよね~!
「キャウン!?」
オルトロスの案外可愛らしい断末魔の声が響き渡る。その声に目を閉じていたレミーがゆっくりと目を開けて俺に微笑む。
「リューくん、お疲れ様!」
「そういうレミーこそな。あと・・・信じてくれてありがとな。」
そもそもオルトロスに弾き飛ばされたこと自体が演技だった。一見、レミーが集中攻撃を受ける構図・・・だが、レミーを襲おうとするオルトロスは横っ腹を攻撃できる俺の格好の餌食になるポジションでもあったというわけさ。
「えへへ、なんとなく・・・かな? アーくんがいたら怒られちゃうかもね。助けてもらうことを前提にするな! って」
「いや、今回はそうは言わないだろ? 助けられることを待ったんじゃない。お互いにやるべきことを理解し、相手を信頼したからこそ無防備をさらせる。タッグ戦やチーム戦ではなによりも大切なことさ。」
そう、それは・・・射抜かれた肩を抑えながら俺たちを睨みつけているこいつには出来なかったことだ。さてと
「で、お前はどうする気だ? まさか、この状態で勝てると思っているわけじゃあるまい?」
「くっ!」
どれほど睨みつけても構わないさ。そんな力じゃ何にもできない・・・それは俺自身が痛いほど知っていることだ。
「・・・悪魔どもめ! 私はここで死ぬわけにはいかない! ゼウス様にお知らせしなければ!」
そういうなり、逃げていく権天使。追う気も殺す気もない俺やレミーは大甘なのかも知れないがな。・・・しかしゼウス? 神々の王か!
「ム~? ゼウスって聞いたことあるよ~。たしかレーチェル様よりもさらに偉い神様なんでしょ? その人が黒幕なの?」
額面どおりに素直に受け止めればそうなるがな。だが、あの状況下でそんな情報を言う必要はない。素直にそう信じるのは早計だな。
「どうだろうな。アレだけじゃなんとも言えない。そう思わせることが目的だったかもしれないぞ。だが、どっちにしろここまで事が大きくなっているんだ。何も関係がない、何も知らないとは思えない。行ってみる価値だけはあるな。」
どっちにしろ手がかりはないんだ、例え罠であろうとも踏み入れてみないと始まらないか。
「それはそうとレミー? 随分手加減していたみたいだな?」
「えっ? えっと、肩を射抜いたこと? だって、そういう状況じゃないとお話聞いてくれそうになかったんだもん! わたし・・・わたしのことは良いけど、リューくんに酷いこと言ったのは許せないよ。」
結局俺たちは相手のことを馬鹿にされて怒っていたんだよな。まぁ、似たもの同士ってか・・・なんかレミーとというのがちょっと寂しい気がするが。
「それに・・・」
「ん? それに?」
「あの人、操られてたんだよね? できれば、傷つけたくなかったの。」
悲しそうに言うレミー。傷つけてしまったことがか・・・。レミーは俺のように誰も彼も傷つけたくないなんて甘いことを言う奴じゃない。だから・・・これが本当の優しさなんだろうな。
「レミーは優しいな。ああ、彼女よりもレミーの方がより天使だと俺は心から思うよ。」
だが、レミーはそんな俺の言葉に静かに首を振る。
「違うよ、リューくん。彼女もわたしも天使なの。だって、天使なんてただの種族だもん。こうでなければならない・・・なんてもの初めからないんだよ、きっと。」
ハッっとする思いがした。光も闇も関係ないなんて言っておいて『天使』だとか『竜』だとかなんていう概念に囚われていたのは俺なんじゃないかと。レミーは純粋だから、俺が囚われていたところをするっと抜けて真実に辿りついたんだな。
「そうだったな。俺が馬鹿だったみたいだ。」
「ム~、リューくんは頭良いよ~。それにリューくんも手加減してたでしょ?」
「ん? ああ、俺のは手加減じゃない。手の内を隠しただけだ。・・・どうやら俺たちのことを注目してたのはレーチェルぐらいのものらしいからな。あえて、実力を見せてやる必要はない。」
だから今回は竜神剣の力も俺の全力も使っていない。どこまで隠したまま戦えるかはわからないがな。
「ム~、よくわからないよ~。」
「あはは! まぁ、レミーはそれでいいさ。」
「ム~! リューくん! わたしのこと馬鹿にした~?」
やっぱりレミーがムードメーカーなのだろうな。さて、じゃあ気ままに陽気に向かうとするか。・・・神々の王ゼウスの下へ
リュウト&レミーのタッグ戦は余裕の勝利でした!
レミー「えっへへ~ん! レミーちゃん強い!」
まぁ、実力だけならあのレーチェルのお墨付きだからなぁ。とは言ってもまだまだ油断は禁物です。もっと上位の天使や神々だっているわけなんですから!
レミー「ム~? 敵なの?」
・・・そこらへんを込みでお楽しみください(汗)そ、それとアキ&アシュラの動向にも注目ですよ!
レミー「うん! アーくんが助けに来てくれたら百人力だよ~! あれ? 千人力? 一騎当千?」
ま、まぁ、そこらへんはどうでもいいですが・・・アシュラはともかくアキがなぁ^^
レミー「ム~、あーちゃん、怒っている? うう~、でも悪いのはリューくんだもん!」
うん、きっと怒られる対象はリュウトだけでしょう♪ そしてメイとコーリン! この2人がなにもしないはずがない!
レミー「特にめーちゃんだよね~。うん、きっとどこかで何かやってきそうな気がするよ~。」
といったところを楽しみにしていてくださいね~♪ 第4部はまだ始まったばかり! リュウトたちの行く道をさえぎるものは! 乞うご期待です♪




