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竜神伝説~リュウト=アルブレス冒険記~  作者: KAZ
3部9章『永遠を求めて』
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7話 「血と贈り物」

「カハッ、ケホッ・・・。」


 激しく咳き込むアキ。だが彼女の意識は戻ってはおらず、苦しむそぶりも見せない。・・・はっきり言って非常にまずい。それはアキ自体の体あるいは精神が自身の体の危機を感じ取れていないってことだ。


「メイ! 回復は!?」


 メイの属性は回復が得意な水。魔法が苦手なメイはレミーやレーチェルのような回復のエキスパートに比べれば相当見劣りするが俺やママナなどとは比べようはずもない。


「もうやっております! ただ、回復の速度よりも消耗の方が激しいのです!」


 っ!? ということは外部から更なる回復の力が必要だってことか。エルファリアに戻る? 全力で竜神剣の力も使って・・・そんな速度にアキの体は持つか? 何か・・・他に手は・・・あっ! たしか前にレーチェルが


『リュウトくん、忘れないで・・・あなたの中には竜の血が・・・いえ、今は竜神の血が確かに流れているの。でもね、その力は強すぎる。ひょっとしたら死者さえも蘇らせるかもしれない。生者の運命を破壊するかもしれない。本当にあなたが大切な、助けたいと思うものだけに使いなさい・・・。』


 本当に助けたい相手・・・考える必要なんてないじゃないか。アキ以上に、助けたいものが俺にいるはずもない。手首を竜神剣で深く斬る。


「りゅ、リュウト! 何しているのよ!!」


「リュウト殿! あなたが死んでもアキは助かりません!!」


 とたんにママナとメイから悲鳴じみた抗議が上がる。そりゃ、そうだな。普通は手首を切るなんて自殺以外の何者でもないだろう。


「安心しろ。俺はこのぐらいで死ぬような・・・死ねるような体じゃないんだから。」


 そう自嘲気味に言う。死なないのではなくて、死ねない。それが真実だと自分でも思う。それは傷だけでなくて・・・


「ほらアキ、飲んでくれ。・・・くっ!? もう飲む力もないのか? なら・・・」


 意識がないことを差し置いても自力で口内の物を喉に流すことも出来ないアキ。だが、自力で飲めないなら飲ますだけだ! 血が滴り落ちる自分の手首に口をつける。鉄を多く含んだ血の味が口内に溢れて・・・俺はそのままアキに口づけをする。


「・・・っ・・・ふぁ~!」


 コクンコクンとアキの喉を下がっていく俺の血。・・・頼むぞ、劇的なとは言わん。せめて、アキの命の火をつなぎとめる程度には・・・!? 顔色が急に・・・良くなった?




「んん・・・」


 え、えっと・・・私、どうしたんだっけ? たしか不老を求めて森に来て、でも実は騙されてて・・・


「あっ、リュウト・・・」


 リュウトが目の前にいた。・・・私また、リュウトに助けられちゃったんだね。リュウトの力になろうって、リュウトのためにって行動して、結局迷惑をかけて助けられるんだ。


「ごめんなさい。でも、私・・・リュウトを1人で残したくなかった。私もあなたと同じ地獄を・・・えっ?」


 何があったのかわからなかった。初めに認識できたのはパンっていう乾いた音。そのあとに頬にジンジンとした痛み。私・・・リュウトに叩かれた?


「う、うええ・・・ごめんなさい。ごめんなさ~い!!」


 リュウトはちゃんと手加減はしてくれた。ううん、実際痛みっていう意味ではそんなに痛くはなかったの。


 でも、リュウトが初めて私に手を上げた。その事実が悲しかった。


 リュウトが私に対して怒っている。その事実が怖かった。


 リュウトをそこまで追い詰めてしまった。・・・そんな私が憎かった・・・。


「アキ・・・君の気持ちは嬉しい。だがな、俺がそんなことをされて喜ぶと思うのか? 俺が感じている苦しみを・・・これから感じることになる苦痛を・・・君にまで味合わせて喜ぶような男に君には見えていたのか?」


  淡々と語られるリュウトの言葉。でも、その顔は、その声はまるで血でも吐き出すかのように私には感じられた。私はまた・・・自分の心しか見えていなかった。


 リュウトの右手が上がる。『ヒッ』って上がる悲鳴。また叩かれると思った。『叩かせてしまう』ことが何よりも怖かった。でも


「君も、メイも、ママナも・・・いつか俺の傍からいなくなる。そんなことはわかっていることなんだよ。だから、俺は今を大事にしたいんだ。いつか来る別れ、それから続く途方もない時間は地獄かもしれない。だが、君たちと過ごした時間はけして消えない。君たちがくれた思い出はずっと俺を支えてくれる。頼むよ・・・俺はいつかは覚悟していても、今なんて受け入れられないんだ。もっと・・・もっと多くの時間を俺にくれよ。怖かった、本当に怖かったんだ。俺はまだ・・・君を思い出に出来るほどの時間を過ごしていないんだから。」


 だからこんな無茶はしないでくれ、そして君に俺と同じ地獄など見せたくないんだ。そう言いながらリュウトの手は私の頬ではなくて、体を抱きしめた。そのリュウトの腕は・・・体は震えていた。リュウトはまるで・・・不安と孤独で震える子供のようだった。


「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。」


 だから、私は・・・それしか言えなかった。




 ふう、本当は私がリュウトくんの代わりに叩くつもりだったんだけどね。仕方がない・・・今回は優しく抱きとめる姉役にしておきましょう。


「女王様は寝てしまわれましたか。」


「まだ体力までは戻ってないだろうからな。」


「リュウト殿、悪役は私に押し付けてくれて良いのですよ? 姉など・・・嫌われ者でも良いのですから。」


「そうも行かないさ。メイばかり悪者にして俺は良いとこだけ見せてろなんて冗談じゃない。それに・・・アキは君を嫌ってなんていないさ。」


 フフ、本当に優しい人。だからこそ、あなたを苦しめる孤独・・・私たちに包み込ませて欲しいわ。


 そうこの時はまだ、リュウトくんがアキに与えた血がまさかあんな力を持っていたなんて、私もリュウトくんも思いもしなかったのよ。そして、それがわかるのはずっと未来のお話・・・。




 そして翌日


「お~い、起きろ~。」


 んん~、誰よぉ~。昨日は大変だったから私疲れて・・・んん? ここ私のうちだよね? っていうか前もこんな事が?


「お! 起きたな。」


 目を開けるとリュウトのドアップ!


「うきゃあああ~~~!!」


「ま、またかよ!」


 それはこっちのセリフ! なんでいつもそんな近くで私の寝顔を覗き込むようにして起すのよぉ~!


「ブ~、それで何のようなのぉ~。」


 私はちょっとお冠。だっていうのにリュウトったら


「悪い悪い。ほら、こいつをな・・・」


 悪びれもせずにリュウトが軽く投げたものを私はキャッチする。これは石? ううん、これは!?


「拾ったんだ。俺には必要ないものだからママナにでもやろうかとな。」


 これはあの森でリュウトに連絡するために使った魔具・・・の原石。厳密にはアレは壊れてしまったから、別のものを探してきてくれたんだろう。前のよりも大きくて質も良いみたい。でも、それよりも・・・


『これは?』


『・・・拾ったんだ。僕にはなんだかわからないし、先生も欲しがらないだろうから・・・ママナお姉ちゃんにでもあげようかと』


 思い出すのはあの日の情景。あの日、照れたように投げ渡した少年の顔が、今のリュウトに重なるように浮かぶ。くすっ、リュウトはあの頃からまったく変っていない。それともあの日を再現してくれたのかな? どっちでもいい、どっちでもいいの。だって


「ありがと。これって結構珍しい石だから諦めてたんだ。」


「・・・俺だっていつまでもあの頃のような無知じゃないさ。こいつの価値も、ママナがあの時何したのかもわかっている。思い出の品の代わりにはならないかもしれないが、せめてもの・・・な。」


 リュウトが一生懸命探してきてくれたって言うのはわかるから。そこらの店に売っている様な石じゃない、そんなお金もきっと持ってない。だから、わざわざ採掘地で掘ってきたんでしょ? だからね


「うん、代わりになんかならないよ。だって、あの石はあの時のリュウトがくれたもの。石は壊れちゃったけど、くれた事実も思いでも消えてなんかないから。・・・それで、この石は今のリュウトがくれたもの。私の新しい宝物で、新しい思い出だよぉ。」


 代わりにならないって言った時に、ちょっと辛そうな顔をしたリュウトだけど、続く言葉に笑顔をくれた。でもね!


「で~、リュ~ウ~ト? アキにはこういうプレゼントしたのかな~?」


「な、何のことだ!? ・・・ふぅ、まだだよ。昨日叩いてしまったからなぁ、今など顔も合わせにくいぐらいだぞ? それに、アキは宝石なんていい奴を腐るほど持っているぞ・・・。」


 まったく、こんなことだと思ったよぉ。あのね、こんなときだからこそプレゼントしたらより喜ぶんでしょうが! それに! リュウトから貰ったものならガラス玉だって、どんな高価な宝石よりもアキは喜ぶよぉ~!


「駄目~! さっさと良いものを見繕ってきなさ~い!」


「わ、わかったよ。」


 口ではしぶしぶと・・・顔は嬉しそうに帰っていくリュウト。・・・でも、そっちってエルファリアでも町でもないよね? まさか、今から採掘に行く気~!?



 そして数日後


「あれ~? アキ~? どうしたの、その首飾り? はまっている宝石はアメシスト?(アメジスト・紫水晶とも呼ばれる2月の誕生石・・・アキの誕生日は2月22日)」


「な、なんでもないぞ!」


 アキの首元に飾られたその宝石は、アキの持っている宝石の中では質の悪いものでありながら彼女の宝物として常に身につけられていたとかいないとか・・・。






「なるほど、今世の竜神もなかなか面白い。俺に近く、俺の対極にいるもの。くっくっく、貴様は俺の友となるか? 俺に殺される為に戦いの荒野を抜けてくるか? ・・・それとも俺に滅びの祝福を与えにくるか?」


 一時的なのか狂気の色が薄くなり、いささか理性の色が顔に浮かぶそのものが手を上げると、目の前には小さな泉が生じる。そこに小石を一つ投げ込む。広がる波紋・・・


「くっくっく、この波紋が何を呼ぶか。それは俺にもわからん・・・だが、精々俺を楽しませてみろ、竜神よ。」


 竜神伝説第3部『平和な日常』完

 第4部『天界からのSOS』へ続く

というわけで実はこの章が3部の最終章でした♪ つまり一時の平和は終わり、次回からはまた戦いの日々にリュウトたちは巻き込まれていくのです。


アキ「4部のタイトルから見ると次は天界で戦うのか?」


まぁ、それは次回以降のお楽しみで♪ で! リュウトからのプレゼントはどうでした?


アキ「そ、それは勿論うれ・・・はっ!? べ、別にリュウトから貰ったとは言っておらぬぞ!?」


(バレバレなんですけどね。)アメシストの宝石言葉は誠実・心の平和・高貴と結構アキにあっているんですよね~^^


アキ「ほう? まさか、ここまで考えて?」


そんな訳ないじゃないですか! 後で知って意外とあってたと思った次第です!


アキ「感心して損したぞ。まぁ、そなたならその程度だな。」


まぁ、今回は言い訳のしようがないですね。さて、普段なら次章の予告というところですが、部をまたがるときはネタバレ防止です。ということで!


アキ「ふむ、今回は私の宣言で終わらせてもらおう。この先誰が来ようがリュウトは私の物だ。メイにもママナにもまだ見ぬライバルにも負けはせん! 皆も私を応援してくれると嬉しいぞ! では、また会おうの!」


では次回、4部でまた会いましょう!

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