6話 「本性」
「アキもママナもお前などの獲物じゃない! 俺の仲間だ!! 欲しければ・・・俺を殺してもぎ取ってみろ!!」
不思議だ。胸の中は怒りで渦巻いている。だが、頭の中は妙にクリアで・・・怒りが強すぎて感情が麻痺しているのか? 巨大な津波が起こっている一方で小波ひとつない、そんな矛盾した状況が今ここにある。
「くふぁふぁふぁ! 殺してもぎ取れか・・・よかろう! ただし、お主もワシの養分じゃあ!」
先ほどよりも太いつるが鞭のように襲い来る。・・・が、遅い。遅すぎる!
「くふぉふぉ!? 何故、当たらぬ!? 何故、かように容易に斬られる!? これは・・・この気はまさか・・・神気だと!?」
神気だかなんだかは知らないがな、俺はお前なんかには負ける気はない! 俺にはこんな力しかないんだ・・・癒すことも作ることも出来ない。ただ、俺の守りたいものを壊さんとするものを逆に壊すことで守ることしか出来ない。それが俺! 竜神とは・・・破壊神に他ならないのだから。
「安心しろ、楽には壊してやらんさ。アキの味わった苦痛、ママナの味わった恐怖、お前に命を貪られた者たちの絶望・・・全て刻み付けてから逝け!」
思考は未だにクリアだ。状況はよく見える。明鏡止水・・・そう言っても良いほどかも知れない。だが反面、感情が暴走している。どす黒い感情が、破壊衝動が湧き出している? 遠い昔にも感じた俺の闇。吐き気さえも催す感情が今は抑えられない。・・・いや、抑える気さえも起きない。
「裁き・・・なんて尊大なことは言わん。お前はただ、地獄に落ちればいい。」
「凄い・・・と言うべきなのでしょうね。」
私は身動き一つしないアキを抱きしめながらそう呟く。アキの状態は勿論心配・・・でもそれ以上にリュウトくんが心配・・・いえ、怖く思えた。でも、それは行動や彼が怖いんじゃなくて
「メイさんは・・・リュウトのことを怖いと思う?」
そう、不安そうに聞いてくるのはママナちゃん。その不安は私と同じ場所を起点とした別のものである気がする。両方持っている?
「そうですね。怖いとは思います。でも、私はリュウト殿を信じています。リュウト殿を信じた女王様もママナ殿も信じています。だからきっと、あんなリュウト殿が怖いのではないのでしょう。」
そんな私の言葉にニッコリとママナちゃんは笑った。やっぱりそうなのね? あなたはあんなリュウトくんを見た私たちの評価が変るのが怖かった。あなたは・・・あのリュウトくんを認められるのね? おそらくアキと同じように・・・そして私と同じように。
「よかった・・・。じゃないとリュウトが可哀想過ぎるから。だってアレがリュウトの本質であり本性なんだから。リュウトってね、本当は凄く臆病なの。あいつは確かに凄く優しい。でも、それは無条件な優しさなんかじゃない。」
ママナちゃんはここで一回、話を区切った。言いたくないわけじゃない。でもそこには確かに戸惑いがあったのでしょうね。その戸惑いの正体は・・・
「不思議だよね。あんなにもあいつは周りに仲間がいるのに。今はともかく昔の私とは比べ物にならないほどの信頼と愛情の中にいつもいるはずなのに・・・あいつは誰よりも家族に飢えているの。リュウトは未だに深い孤独の中から抜け出せていない。そう、あいつは・・・私たちを本当の意味では信じ切れていないの。」
本当に不思議な話ね。彼の良いところの一つは、その誰をもすぐ信頼すること。そう、彼はきっと普通の人の言う深い信頼は誰に対してもすぐするのでしょう。でも、それは酷く歪で一方通行。私たちからの信頼は受け取ってはくれていない。だからリュウトくんはいつも恐れているのね・・・自分の周りから人がいなくなることを。
「リュウトは臆病だから、そして孤独だから・・・あいつはいつだってその怒りを優しさの中に隠してしまう。あいつは誰よりも仲間を、自分の居場所を壊されることを恐れ嫌っている。本当のあいつは激しいの。昔は知らなかったけど、リュウトは竜なんでしょ? 激しいのが当然だったの。だから、私はアレで良いと思っているの。ずっと、自分を隠しているなんて出来るはずがない。そんなことをやってたら・・・リュウトはいつか壊れちゃうよ。だから、これはたまったガス抜きかな? ちょっと激しすぎる気も、自業自得とはいえ鬱憤をぶつけられるあいつも可哀想な気はするけどねぇ。」
きっと私は・・・私たちはまだ本当のリュウトくんを知らない。そして、壊れそうな彼が怖かった。彼を失うかもしれないことが怖かった。彼の抱えている苦しみを、彼の抱えている悲しみを・・・その他全部、彼が嫌うものを取り除いてあげられたら、抱きしめてあげられたら・・・そんなことを考えている自分に気づいて赤面したのは永遠の秘密なのです。・・・これを見ている人? 聞きましたね? 私の秘密聞いたんですね? うふふふふふ、わかっていますよねぇ?
「ば、馬鹿な!? 何故、お主のようなものがここに来る!? ここに・・・ここに来るのは不死を求めし愚か者だけのはず・・・!?」
喧しい。愚か者? そうだな、確かにここには愚か者が2人いる。どっちも救いようがない大馬鹿者だ。
「そうだな、自分の罠が完璧で永遠だと思っていた大馬鹿者と自分の大切な奴の心1つわかっていなかった大馬鹿者がここにいる。もっとも、もうじき1人はいなくなるがな。」
どうして、俺はいつもこうなのだろう。どうしていつも失いかけるまで大切なものの危機にさえ気づかないのだろう。どうしてあいつが発していたSOSをわかってやれなかったんだろう。守りたい、たった一つの思いさえもどうして俺の手は取りこぼしかけてしまうのだろう。取りこぼしてしまうのだろう? 俺は憎い・・・心から愚かな自分自身が憎い!
「は・・・はわぁぁぁぁ! すまなかった! 許してくれ! もう、その子娘は解放する! 今まで捕らえていた魂もだ! だから!! ぐふぁぁぁぁぁ!!」
五月蝿い。今の俺は感情が麻痺してるんだ。大人しく・・・切り刻まれろ! 風が土を吹き飛ばす。露出した根を切り刻む。枝を切り、葉が風に舞い散る。まだだ、まだ足りない! もっと、もっとだ! 俺の中のどす黒いものが消えてなくなるまで・・・。
「た、助けて・・・」
見る影もなく弱りきり、小さくなり、息も絶え絶えで延命を望むそれを俺は見た。そして
「・・・死ね。」
俺の振り下ろした剣は確かにその命を奪い去った・・・。
「はぁ~・・・。」
深いため息が漏れる。あの状態から戻ったときはいつもこうだ。とは言ってもこれで3回目かな? たしか前回の時はまだ竜神の力を得る前・・・ママナを助けようとしてだったか。その前は姉さんだった・・・と思う。
髪をくしゃくしゃと掻き乱す。すっきりしたといえばしたんだが、同時に酷い自己嫌悪に陥る。俺はけして正義じゃない、悪だとはわかっている。とはいっても自分の中の凶暴さをこうも見せつけられるとなぁ・・・いや、見せつけてしまったのか。姉さんは笑って認めた。ママナは自己嫌悪に浸る俺を怒りながら認めた。・・・アキとメイはどうなんだろう? 俺はいつも不安に思う。あんな俺を知ったら皆離れていってしまうのではないかと。いや、あの時よりも力を得て危険度を増した俺を見たらママナも逃げるかもしれないな。・・・そう自嘲的に思っていると
「リュウト殿! 女王様の・・・アキの様子が!」
メイの余裕のない声が響いた。・・・俺の自己嫌悪なんて一瞬で吹き飛んだ。
今回はリュウトの本質部分です。実は主要メンバーの中で一番精神的な弱さと欠陥を抱えているのがリュウトなんです。
アシュラ「ふん、以前オレが言っただろう? 奴は破壊者だと。」
その言葉はまさに的を得ているわけなんですよね。竜の力は破壊の力であり、竜神とは闘神であり、破壊神なのです。
アシュラ「だからこそ、あの剣があるのだろう?」
まぁ、そういうことなんですが・・・それ以上はネタバレになりますので^^ そうですね、予定では遥か先の8部で出てくる話なのです。
メイ「さて、話が一段落したところで・・・作者殿? あなたも私の秘密聞きましたよね?」
えっ? ・・・ ・・・ ・・・ごめんなさい(土下座)
メイ「いえいえ、謝られる必要はありません。・・・もうじき話せなくなる訳ですし。」
へっ? あ、アシュラ!・・・っていないし!! うぎゃぁぁぁあああ><
メイ「これで秘密を知ってる人は一人減りましたね。では、次は・・・」
(絶対、リュウトよりもこっちの方が凶暴で危険だよなぁ>< では、皆様、無事でしたら次回も見ていただけると嬉しいです! ・・・さてどうやったら体に戻れるんだろう? レーチェル~、た~す~け~て~~!!)




