5話 「蜘蛛の糸」
「ふぅ、ここが例の森か?」
「ええ、私も来たことはないけど、位置的には間違いないはずよ。」
迷いの森や草原のみならず、俺たちが通るところ全てで起きた超常現象。いや、もうはっきりと何者かの妨害と言って良いだろう。そんなものがあった以上はアキの身に何か危機が起きていると考えていい!
「ここが入り口らしいな。 この程度のつるで俺の侵入を防げるものか! 竜神流! 風竜斬!!」
気合を込めた一撃はつるを粉々に吹き飛ばし、深い森の入り口が開かれる。くっ、ここも妙な磁場があるな。強い、よほど強い力を発揮してくれないと居場所が探知できそうもない。
「リュウトくん、急ぎましょう!」
「ああ!」
待ってろ、アキ! すぐに行く! だから・・・どうか無事でいてくれ。
「くっ・・・うん・・・」
ズリズリと体を動かしてみる。焼き切るということが出来そうもないのなら(手だけでも自由に動けば、極小のファイヤーボールで根気良くって手もあるんだけど)物理的に解くしかないよね。なんとか・・・なんとかリュウトが来る前に不老の力を・・・。
「くふぁふぁふぁ! 獲物じゃあ、久しぶりの獲物じゃあ!」
頭の上から響いてきた声に私の・・・ううん、私たちの動きはぴたりと止まる。獲物って私たちの事? 恐る恐る上を見ると・・・
「な、何・・・アレ?」
私たちがつるで縫いとめられていたのは巨大な大樹。そして、その木の中ほどにある巨大な顔が喋っている!?
「くふぁふぁふぁ! 貴様らも不老などという幻想を追い求めた愚か者であろう? よかろう、よかろう! ワシが与えてやるぞ?」
どういうこと? たしか聞いた話ではこの森の中心の滝だったはず。ここが森のどこに位置するかはわからないけど、こいつは滝ではないのは明らかよね?
「このように捕えておいてよく言う! この森の不老を与えるものは滝だったはず! そなたの甘言などに惑わされはせぬ!」
「くふぁふぁふぁ! 滝! 滝か! ならば見よ! ワシの後ろに何があるのかを!」
シュルリと首に巻きついていたつるが緩められて、私はその木の後方が見えた。そこには壁を思わせる絶壁に水が流れていた跡が・・・ひょっとしてこれが伝説の滝? もう涸れ果ててしまったこれが?
「くふぁふぁふぁ! わかったかのう? そんな滝はすでにワシが吸い尽くしてしまったわ。さぁ、お主にも与えてやろう・・・ワシとともに生きる永遠を! こやつらのようにのう!」
「なっ!?」
「なによこれぇ~~!!」
私の声とママナの声が響く。それもそうでしょ? だって、うぞうぞと動いたつるの下から出てきたのは無数の骸骨だったんだから。
「馬鹿な! これは死んでいるではないか! これのどこが不老だと言うのじゃ!」
「死んでいる? それこそ何を馬鹿なことを・・・。よ~く、聞いてみるがええ、不老などという欲望に目が曇り、自ら蜘蛛の糸を手に取った愚か者共の声を!」
えっ? ま、まさか・・・耳を澄ます。聞こえる確かに・・・聞こえてしまう。
「・・・苦しい。助けて。・・・殺して。」
「う、ああああ・・・これは一体、何なのじゃ・・・?」
「何? だと? 見てのとおりじゃよ。皆、欲望に目がくらみ、こうしてワシに捕えられた。そして力も心も吸い取られ、残りかすのような魂さえもこうして吸い取られる。こやつらは永遠にワシの養分であり、永遠にワシと生きるのじゃよ。そして・・・これがお主の未来でもあるのじゃ!」
ドクンと心臓の音が聞こえる。何これ・・・私の全てが奪われる? 苦しいのに声さえも出ない。痛いのに思考がぼやけていく。心が消えていくのに恐怖だけがはっきりと残る。
「くふぁふぁふぁ! そうじゃ! その恐怖が! 絶望が! なにより美味な栄養じゃ! さぁ、永遠の絶望と恐怖と苦痛の中の生を与えてやろう!」
だ、駄目! アキの体からどんどん力が吸われていくのがわかる! アキの顔からどんどん感情の色が抜けていっている! あのままじゃ、アキは・・・アキは!
「アキを! アキを! 離せぇ~~~!!」
「うぬっ? 騒がしい子悪魔よのう? お主から吸い取ってやろうか?」
リュウト! まだなの? お願い、もう持たないよ!?
「おや? お主、不思議な物を持っておるのう?」
あっ!? スルスルと伸びてきたつるが私の懐に入っていた小石・・・ううん、魔具を奪い取る。
「か、返しなさい! それは・・・それは!」
自分でも涙目になっているのがわかる。あれは昔リュウトがくれたもの。初めてもらったリュウトからのプレゼント。そして・・・今回の私の切り札になるはずだったもの。
「うぬぅ? たしかに力を感じる? だが、これは~? 何!?」
魔具を舐めるように色んな角度から見ていた奴だけど、突然の発光・・・というほど強いものじゃないけど光ったことに驚く。そして、それは私にとってはまさに希望の光だった。
「リュウト・・・近くまで来てるんだね! 私は! 私たちはここだよ! 気づいて! リュウト~~~!!」
あの魔具は契約者1人・・・この場合は私が密かに登録しておいたリュウトが近づくと少しだけど発光する。そしてもう一つ・・・ちょっと私との距離があるのが心配だったけど、あの魔具に私のエネルギーを注ぎ込めば瞬間的にしみ込んだ気・・・私のエネルギーを大量に放出する。魔具自体は壊れちゃうけどね。アキの・・・アキの命には代えられないよ。リュウトならきっと気づいてくれる。私がいることの意味を・・・だから!
「貴様! 一体何を・・・何をした!」
グルルと力強く私を締め付けてくるつた。息が出来ない、視界が暗くなる。でも・・・アキだけは助けてあげてね、リュウト。
「・・・竜神流! 竜爪閃!」
ふわっと軽くなる体。つたが・・・切れてる? あれ? 私、誰かに抱かれている?
「ありがとうな、ママナ。おかげで正確な場所がわかった。」
リュウト・・・リュウトがいる。たったそれだけなのに涙が溢れ出して・・・あっ! そうだ。
「アキを! アキを助けてあげて!」
「大丈夫だ。ほら?」
リュウトに言われてアキの方を見ると、アキのつたも切られていてメイさんが抱きしめていた。アキの状態はまだわからないけど、とりあえずあれ以上の悪化はしないってことだよね?
「・・・ワシの! ワシの獲物を横取りするのは貴様か!!」
あいつがリュウトをつたでぐるぐる巻きにする。でも・・・
「お前の・・・獲物だと?」
リュウトの体から噴出した風が瞬く間につたを切り裂いていく。あちゃ~、あれはリュウト、久々にきれちゃっているかもしれない。まぁ、怒りで戦術を間違えるような奴じゃないから大丈夫・・・だと思うけど。
「アキもママナもお前などの獲物じゃない! 俺の仲間だ!! 欲しければ・・・俺を殺してもぎ取ってみろ!!」
美味しい話には裏がある。綺麗なバラには棘がある。・・・とはいえ、あまりにも鋭すぎだろ! って棘ですね。
ママナ「まぁ、引っかかった方が悪いとも言えるけどね。読者様の世界と違って法律とかなんとかっていうのに守られているわけじゃないし・・・」
・・・いや、法はこの世界にもあるぞ? ただ、相手が相手だから法の適用範囲外ってだけで。植物の範疇にあるかは微妙だが、自然に悪だの何だの言っても意味がないからなぁ。
ママナ「う~ん、確かにそうかもね。」
しかし、ママナは健気だというか何というか・・・アキを助ける為に思い出の品を使うなんて。
ママナ「えっ? だって道具は使うためにあるんだよぉ? あの場面で使わなくて何時使うのよぉ。それにね、道具はなくなっても思いでも貰ったって事実も消えないんだよぉ。」
うう、本当に健気だ。ひょっとしたらうちで一番良い子はママナなのかも・・・。
ママナ「う~んレミーじゃない?」
・・・純粋無垢っていう意味ではそうかも。あれはもう少し知恵と世俗の垢に汚れないとまずいだと思うけど。といったところで今回はおしまい! 次回はリュウトの怒り大爆発? お楽しみに~♪




