3話 「動き出した闇」
深い深い闇の底。ぱらぱらと紙をめくる音が聞こえるそこには、本を読んでいると思われる存在がいた、
そのものの姿、表情は闇に隠されうかがい知る事は出来ない。が、本のタイトルだけは辛うじて見える。そのタイトルは・・・『竜神伝説』
「竜神・・・またしても俺の前に立ちふさがろうというのか? そしてエルフの小娘、くっくっく・・・面白い! 俺の前に立ちふさがる価値があるかどうか確かめてやろう!」
笑いに体を震わせているのか、空気が小刻みに震える。だが、ふとその震えが止まる。
「ふむ、このままでは森に入る前に追いつかれそうだな? いいだろう、俺がほんの僅かに手助けをしてやろう。・・・くっくっく、あっはっはっは!!」
一方、迷いの森をひた走るリュウト&メイチームは
「リュウトくん! 森が、森が何かおかしいわ! 気をつけて!」
私を背負って、まさに風という感じで走るリュウトくん。このままならアキにもきっと追いつける。そう思っていたのに森がざわつく。こんなこと・・・こんな森は私は知らない。
「くっ、メイ! しっかりつかまってろよ。全力で行く!」
「ええ! 言ったでしょ? あなたにはアキに追いつくまでは全速力で走ってもらわないと困るって!」
リュウトくんが風の力で軽減してくれているのでしょうけど、それでも体に当たる風は冷たく痛いほど。彼の背中に抱きつくようにつかまっている腕も悲鳴をあげつつあるわ。それでも速度を緩めてもらうわけには行かない。置いていかれる訳にも行かない。・・・あの子に笑いかけて上げるのはリュウトくんの役目だけど、あの子をひっぱたくのは私の役目なんだから。
でも、それにしてもこれは一体何? 森自体が意思を持って私たちを阻んでいるような・・・いえ、意思なんて感じない。これは・・・操られている?
風もないのに鞭のようにしなり襲ってくる枝。まるで鋭い刃のように変形して飛んでくる無数の葉。驚異的な成長をし道を塞ごうとするつる。視界を覆い隠すほどの量の花粉。一つ一つはそれほどの脅威ではないかもしれない。ましてリュウトくんならば危険など皆無でしょう。でも・・・それは確実に時間という資源を私たちから奪い去っていく。
「メイ! 悪いが少し無茶をするぞ!」
リュウトくんが剣を抜く。無茶でも無理でも構わない。リュウトくんが傷つくのは正直嫌だと思うわ。きっと、アキもそう思うでしょう。その点、私が傷つくのは誰も何にも困らない。でもね、今回は・・・
「駄目よ、リュウトくん! その方法ではまだ時間の無駄があるわ。同じ無茶なら・・・私を信用してちょうだい!」
リュウトくんがやろうとしたことはエネルギーのフル放出による突撃。とはいっても攻撃力に転化する分速度は変らない。いえ、ほんの僅かでも止められ続けるのだから、速度は確実に遅くなる。そして、リュウトくんのエネルギーも大きく消耗するでしょう。あなたの力は最後まで残しておかなければならないわ・・・最悪の事態に備えてね。
「メイ? ・・・ああ! 俺は何時だって信じるさ。で、俺はどうすれば良い?」
「何もいらないわ。このまま・・・突っ込みなさい!」
「わかった。」
リュウトくんは私が何をするかさえも聞かない。ただ私を信じると言った。もし、私が失敗すれば危険が自分に及ぶというのに何の疑いも恐れも抱かずに突撃をしてくれる。心がほんのりと温かく、いえ熱くなるわね。アキが言ってたリュウトくんを好きな理由の1つ『彼は私を信じてくれるから・・・』それはきっとこれなのね。・・・だからこそ、私はそれに答えないといけない!!
「スプラッシュ・カッター!」
作り出した水のトンネル、その外表面の水を鋭い刃として飛ばす私のオリジナル魔法よ。私だってエルフ、鞭ばかりではなく魔法も使える。それにこの技なら周囲からのこの程度の攻撃は水の壁が防いでくれる。・・・後は、無防備の前面と後方ね。
「ウォータ オブ リバー!」
水のトンネルの中を流れる川ってところかしら? 私を中心に前と後ろに流れていく水が死角から浸入した植物たちを押し流していく。この組み合わせはなかなか・・・使えそうね・・・。
「メイ! 気をしっかり持て! もう少しで森を抜ける!」
リュウトくんの声が聞こえる・・・。そう・・・ね。技を二つ、それもこんなに持続させたことはなかったから。リュウトくんが少し体をゆする、その衝撃で今までピンと立てていた私の体も揺れて・・・まるでリュウトくんの背中に顔をうずめるように寄りかかってしまった。
「リュウト・・・くん?」
「しばらく寄りかかっていてくれ。いや、眠ってくれて良いぞ? 後は俺の役目さ。」
ごめんなさい。・・・じゃ、ちょっとだけ眠らせてもらうわ。ああ~、アキが安心できるいい匂いだって言ってたけど・・・よくわかるわ。
元々メイは魔法が苦手なのだという。だからアキ以上のエネルギー量と実力を持ちながらも女王にはなれなかった。そんなメイがあれほどの大技を2つも連続してではなく、同時に使えばこうもなるだろう。まぁ、メイ以上に魔法の苦手な俺が言うことではないかもしれないけどな。
「良し! 抜けた!!」
メイが寝てしまっても発動した技はすぐには消滅はしない。そのタイムラグを利用して森を抜けたのだが・・・。
「な・・・に?」
迷いの森を抜けた先に広がっているのは草原。そう、俺が姉さんたちと過ごしたあの孤児院があった草原だ。だがそこは・・・
巨大な竜巻が複数発生し、雷が雨のように降りしきり、あちらこちらで火災が起きている。少なくても俺がいた10年間ではこんな事態は起きたことがない。先ほどの森もそうだったが、何者かが俺たちの邪魔をしているとおもって間違いないな。だが、その正体も目的も気にしている暇は今はない!
「・・・っ!?」
雷が俺の体をかすり、風属性の俺さえも予測も感知もできない突風に揺さぶられる。そして
「しまっ・・・!?」
ぐらついた体はそのまま吸い込まれるように竜巻に・・・? ストンと降り立った地面。たしかに不慣れな飛行の技は驚いた拍子に解除してしまったが、何故竜巻に巻き込まれなかった? いや、辺りを見ると草原は俺も知っていたあの当時の姿に戻っていた。
「こ、これは? ・・・あっ。」
近すぎて、そしてあまりに思い出が多すぎて気づかなかった。俺の隣にあったのはあの孤児院? いや、そんなはずはない! だって、あの家は・・・燃えてしまったじゃないか・・・。
「・・・はっ!?」
気がつくと俺は寂れた神殿の隣に立っていた。そうだ、ここは竜神の神殿・・・孤児院の跡に作られた俺の神殿だ。これが今の姿・・・そしてここはやはりあの孤児院のあった場所だということでもある。
「ひょっとして俺を助けてくれたのは・・・姉さん。あんたか?」
答えなんて求めていない呟きが響いて・・・さぁ、行きなさい・・・そんな声が聞こえたような気がして、俺は駆ける。今、守らなければならないものを守る為に。もう、あんな失敗も思いも二度としたくはないのだから。
「リュウトくん・・・がんばっているみたいね。」
「お姉ちゃん・・・リュウトお兄ちゃん、大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。リュウト兄ちゃんは強いんだから!」
「そうね・・・ふふ、ハナ、ケンタ・・・私たちもここで見守ろうね。きっと、リュウトくんなら大切なもの全てを守れる人になってくれるから・・・。」
とうとう動き始めました謎の存在。
メイ「どんな存在が蠢いていようとも私の邪魔は許しません!」
おお~! メイはアキが関わると燃えますね~。
メイ「当然です! 女王様がいなくなったら誰が私に娯楽を提供するというのです! ・・・リュウト殿に提供してもらうという手もありますが(ポッ)」
いやいやいや(汗) 娯楽なんですか!? アキは!! っていうか何を顔を赤らめて言っているんですか!!
メイ「こほん、まぁそれは冗談ですわ。もう、1500年も一緒にいたのですよ? 雨の日も風の日もあの子の笑顔を心の支えに生きていたのですから・・・もう私の一部も同然です。」
メイ・・・うう、本当は本当にいいお姉ちゃんだったんですね・・・。
メイ「何を今更・・・。アキの笑顔も困った顔も怒った顔も全て大切です。だからこそ、私は幸せを守り、驚かすんですよ?」
・・・なんで両方を取るんだろうなぁ~。幸せな顔を見つめ続けていれば文句なしにいい姉なのに・・・。
メイ「それだけでは面白くないではないですか。起伏があってこそ幸せですよ。」
その起伏を意図的に作らんでも良いのに・・・。まぁ、一応はいい姉の分類だということにしときましょう。では次回は!
メイ「当然、アキたちの方ね。私たちが必死に追いかけているときにアキはどうしているのでしょうか? 私も楽しみです。ではまた会いましょうね。」
・・・うう、しめの言葉を奪われた・・・><




