1話 「不可避な未来」
「さ、そろそろ眠くなって来たんじゃないか? 俺は逃げたりしないから今日はもう眠っておけって。」
ここはエルファリア宮殿のリュウトの部屋。いつもどおりに私はここで寝るまでの時間を過ごして部屋に帰る。・・・そう、ここまではなんでもなかったんだけどね。
アキの私室
「アレ? あ~、最近計ってないかな?」
私が部屋で見つけたのは・・・というほどのものではないんだけど、普段は気にしていなかった柱の傷。厳密には傷つけるために作られた柱かな? 私の成長の記録がつけられた柱。・・・このためだけに柱を一本増やしたのはお姉ちゃんである。さすがに歴史ある宮殿の柱に傷をつけるのは躊躇われたのね。まぁ、1本ぐらい柱が増えても十分広いから良いんだけど。
さて、こんなものを見つけてしまっては計ってみたくなるのが人情というものよね? なんか子供っぽいって声が聞こえた気がするけど全力で無視するわ。自分で計ったものだから、ちょっと誤差があるかもだけどしっかり大きくなっているのがわかる。たしか、前に計ったのは50年ぐらい前かな?(人で言うなら半年前に該当)
ちゃんと、しっかり大きくなっている。それはやっぱり嬉しいことで・・・今日は幸せな夢が見られそう♪
そして翌朝
「ねぇねぇ、リュウト! 今日の私、いつもと違うと思わない?」
あんまり気分がよかったから朝起きてすぐにリュウトの部屋に乱入した私。私が部屋に入る前には気がついていたみたいで、そこまでは驚かなかったけどそれでも
「そうだな~、やけに機嫌がよさそうだって言うのはわかるが・・・何かあったか? それにこんな朝から俺の部屋に来るのも珍しいな。」
普通に考えたら昨日の今日でそんなに伸びたはずはない。いくらリュウトの観察眼が良いって言ってもあの言い方で背が伸びたって気がつくはずはないんだけど、ちょっと不満。でも、ふと気がついちゃったの。
「ねぇ、リュウトの顔・・・始めて会った時よりも近くに感じる。」
「ん? そりゃアキが大きくなったんだろう。俺は(年齢的にも)もうこれ以上は大きくはなれないだろうからなぁ。」
そう、リュウトは竜神。神、つまりは不老の存在。私はあと何年生きられるのだろう。エルフ族の平均寿命から言うと何事もなければ後6000年ちょっとってところ? リュウトは何時までも今のリュウトのままで・・・何時までも若くて元気で生きていく。でも、私は・・・彼と同じ時を共有することは出来ない。そんなの・・・そんなの嫌だよ。
「お、おい! な、何をそんなに泣くようなことが・・・。お、俺がなんか悪いことを言ったなら謝る! 謝るから機嫌を治してくれ~~!!」
ポロポロと泣き出してしまった私を見てリュウトが慌てる。結構、飄々としていて何事にも動じない趣もあるリュウトだけど涙には極端に弱い。特に私の・・・かな? でも、そんなリュウトの姿も私の心に芽生えてしまった・・・ううん、気づいてしまった暗雲を晴らすことなんて出来なくて・・・。勿論、リュウトは何一つ悪くはないんだけど。
「ごめんなさい・・・。リュウトは何にも悪くないんだけど・・・だけど・・・私!」
自分が情けない。きっとリュウトは訳もわからずに、それでも自分を責めるんだろう。私の涙の理由がわからない自分が情けないって。どんな理由であろうとも私を泣かせるものを見過ごしてしまった自分が許せないって。・・・それがわかっていながらこんな行動しか取れなかった私はどれほど情けないんだろう。
そしてエルファリア宮殿、蔵書室
「・・・この本でもないか。ではこっちの本は・・・」
「おや? 女王様、お珍しいですね。なにかお調べ物ですか? よろしければお手伝いいたしますが。」
難しい顔をして手当たり次第に本をとる私に気づいたこの部屋の司書員が声をかけてくる。たしかに私が自分で本を探しに来るのは珍しいかもしれない。いつもは内容を伝えて必要な本を持ってきてもらってたから・・・。
「うむ、これはまぁ・・・私の個人的な調べ物なのでな。」
ちょっと、正直にいうにはあまりにも情けないというか。呆れられそうな話だというか・・・。
「個人的・・・ですか? ですが私どもは本の管理とこうやって利用者のアドバイスが仕事ですので・・・なんでもおしゃって下さいませ。」
こうまで言われて言わないのも逆に不自然よね・・・。
「神族のことを少々調べているのだが・・・。」
「神族ですか? それは困りましたね。神族は特殊な種族ですからわかっていることが殆どないのです。竜神様・・・はまだ詳しくは知らないでしょうが、女王様のお知り合いの女神様、レーチェル様ならばここの本よりは詳しいのではないでしょうか?」
うん、間違いなくあの人は色々知っていると思う。でも、だからこそ逆に聞けないの。こんなこと・・・こんな情けない質問をあの人にするわけにはいかない。
「いや、あの人には頼れぬ事情があってな。特に神族の不老の謎について書かれた物はないか? ・・・それがわかればエルフ族、いや多くの生き物の未来が激変するやも知れぬ。私が本来考えることではないゆえ、あくまで私用だがな。」
嘘も嘘、大嘘ね。言っている事自体は間違いじゃないけど、そんな理由で探しているわけじゃない。でも、私には絶対に必要な力・・・
「う~ん、それは益々困りましたね。そこがある意味最大の謎でして・・・ああ、神族ではないですが、不老といえばここから北に1000キロほど行った森の中心にある滝を訪れたものは不老の力を手に入れられる・・・なんていう御伽噺がありましたね。」
えっ!? 不老の力・・・神でなくても手に入れる方法がある・・・。
「あ、すみません! 余計なことを話してしまって・・・あくまで御伽噺ですので。」
「いや、かまわない。それより余計な時間をとらせてすまなかったな。」
司書員の後半の言葉なんて耳に入っていなかったの。まるで山彦のように頭の中を反響してたのは、そこに行けば不老の力を手に入れられるかもしれないということだけ・・・。
こうしてこの日、エルファリアからアキ女王の姿が消えることになる・・・。
アキ失踪! って言ってもどこに行ったのかは一目瞭然ですね。
メイ「アキらしくない・・・いえ、ある意味アキらしい暴走ね。」
たしかに^^ ただ何故アキがそこまで不老の力にこだわるのか・・・ってところはちょっと読み込んで欲しいところでしょうか。
メイ「そうね、あのアキが・・・私の自慢の妹がただ死にたくないってだけで暴走してると思われたくはないわ。もっとも、あの子はまだそんなことを気にする歳でもないんだけどね。」
1501歳(人で言えば15歳)ですからねぇ。むしろ、まだそこで加齢が止まったら色々とまずい年齢ですよね(汗)
メイ「思い込んじゃうと、そういったところに気がつかないから困った子なんだけど・・・。普段はあんなにスタイルにコンプレックスをもってたり、大きくなれば私みたいになるなんて『ありえない妄言』を言っているぐらいなのに。」
あ、あの~・・・メイさん? 今、すごく棘のあるセリフを言いませんでしたか?
メイ「気のせいじゃないでしょうか? では、そろそろ締めの言葉を・・・。」
(・・・終わらせることでうやむやにする気か。でも逆らうと後が怖いし><)え、えっと消えたアキのその後は! そしてリュウトは! メイはどうする!? 次回もよろしくお願いします!!




