5話 「守る為の秘密」
「ただいま~!」
レーチェル様の神殿の隣にあるわたしのお家。実はね、ちょっと前までレーチェル様の神殿の一部だと思ってたんだけど、この前レーチェル様がなんか呆れたように『あそこはあなたのためにわざわざ作ったんだけど?』なんて言われたから正式に私のお家らしいの!
「ん? お帰り、レミー。」
いつもどおり真っ黒な鎧一式を着込んだお兄ちゃんがご飯を作りながら返事をしてくれる。えっとね、家では先に帰ってきたほうがご飯を作っているの! お兄ちゃんのご飯も美味しいんだから!!
「でも・・・お兄ちゃん、今日は早かったんだね!」
たっぷりご飯も食べて(えっ? リューくんのところでも食べてなかったかって? う~ん、別腹?)眠くなってきた頃にわたしはちょっと気になってたこと聞いてみたんだ。最近お兄ちゃんはレーチェル様に何か頼まれているみたいで遅くなることが多い。今のところ帰って来なかった日はないし、怪我らしい怪我もしてない(レーチェル様が治してたらわからないけど)みたいだからそこまで心配はしてないけど・・・ちょっと不安。
「ああ、今日は比較的楽な仕事だったからな。」
「まだ、わたしには・・・わたしたちには教えてもらえないの?」
さっき会ったリューくんやあーちゃんたちも知らないって言ってた。あーちゃんやめーちゃんは隠し事も上手いけど、あのリューくんが上手く嘘なんて言える訳がないからホントに知らないんだと思う。今回はレーチェル様が関わっているってことで前みたいな心配はないと思うけど・・・別の心配はあるかも。
「・・・すまない。まだ、まだ言えないんだ。だが、これだけは信じてくれ。兄ちゃんはもうお前の信頼を裏切ることはしない! 勿論、リュウトやレーチェル様やアキさんたちのもだ。兄ちゃんは今度こそ、レミーたちの安全のために・・・幸せのためにだけ行動するよ。」
うん、そこは疑っていないんだ。わたしはお兄ちゃんもレーチェル様も誰よりも信頼してるよ? だからね、きっと不安なのはお兄ちゃんが無理をしてないか。お兄ちゃんってリューくんとおんなじで無茶ばっかりするから・・・。
「あのね、わたしはお兄ちゃんのこと信頼してるよ? だけどね、お兄ちゃんが無理をしてないかだけが怖いんだ。お兄ちゃんがわたしたちを守ろうとしているようにわたしもお兄ちゃんを守りたいんだ。・・・きっとリューくんたちだってそうだよ?」
「ありがとう・・・そして大丈夫。兄ちゃんはレミーを残していなくなるつもりはもうないから・・・。」
「うん、絶対だよ? わたし・・・わたし・・・」
あれ? なんだか眠くなってきちゃった・・・よ・・・。
寝てしまったか。レミーは本当に昔から変らない。いつもこうやって限界まではしゃいでコテンといきなり寝入る。昔は死んでしまったんじゃないかって焦ったことも今では良い思い出だな。
「今、良いかしら? コクトくん。」
レミーをベットに運び込んだのを見計らったように・・・いや、本当に見計らっていたのだろうレーチェル様が転移でやってくる。
「ええ、レミーには聞かせられない話ですか?」
「そうよ。レミーは誰よりも純粋よ。だからとても脆くて怖くて、微笑ましいトラブルもとんでもないトラブルも起して・・・誰よりも輝いている。だから、こういった裏っ側の行動は私たちのお仕事よ。メイちゃんあたりは誘っても良いんだけど、リュウトくんやアキちゃんたちにはまだ心配かけたくないしね。」
レミーの寝顔を微笑ましそうに見ながらレーチェル様はこう言う。リュウトが兄のようにレミーを支えてくれたなら、この人は母だろうか?
「い、いてててててて!! な、何をするんです! レーチェル様!?」
いきなり、俺の兜をはずしたと思ったら耳をつね上げてきたレーチェル様。い、一体何故!? 過激なことはやるが理不尽なことはしない人なのだが・・・
「ふふふ、コクトく~ん? 今すっごく失礼なことを考えなかった? 私は精々お姉さんってところだと思うんだけどなぁ?」
あ、ああ。母と思ったことに対しての文句・・・ってなんで俺の考えたことをそんなに正確に把握してるんだ! と思って聞いてみたら。
「そんなの女の勘よ。」
で済まされた。恐るべし、女の勘・・・もといレーチェル様の勘。世の全ての女性にそんな勘が備わっていてたまるかというのが正直なところだな。
「さて、そんなことはどうでもいいわ。これを見てちょうだい。」
レーチェル様が懐から取り出したのは水晶玉。写し身の水晶という映った風景を保存して再生する(作者注:ビデオカメラのようなものと思ってください)レーチェル様作成の魔具だ。そこに映っているのは見覚えのある・・・というのも当然だな。今日、俺がレーチェル様の命でとある場所、対象というべきか? を撮ってレーチェル様に渡したものだ。今日中に解析するわなんて言ってたから明日、説明があると思っていたのだが、よほどの事態があったということか?
「そこまで緊張はしなくても良いわ。でもね、楽観視もできないわよ。・・・『あの存在』はリュウトくんたちのことに気づいたわ。彼にとってのリュウトくんの危険性を認めて何らかの行動をとるのは時間の問題。いえ、すでに何かやっているかもしれないわね。」
顔がこわばる。それはレミーに・・・そしてリュウトたちに危機が迫っているということだ。そもそも俺はレーチェル様のいう『あの存在』とやらのことも詳しいことは知らない。一体そいつは何者で、何をやってくるというんだ。
「・・・あなたの考えていることはわかるわ。でもね、まだ教えられない。それに『あの存在』が何をやってくるかは私にもわからない。何をやってきてもおかしくない。それこそ・・・」
今この瞬間に世界が消滅しても不思議ではないわ。・・・この言葉に震えが走る。そんな存在がこの世界に知られることもなく存在しているというのか? そして俺たちはその存在と敵対しなければいけないのか?
「な、ならば!」
今すぐに攻め込みましょう! そう言おうとした俺を遮って・・・
「迂闊なことをいうものではないわ。何が出来てもおかしくない。つまりね、いつ、誰の会話を聞かれているかもわからないのよ。それに・・・今の私たちが敵う相手ではないわ。全盛期の邪竜神すらあいつの前では道端の石も同然。サタンなんて塵にも該当しないかもしれない。それほどの存在よ。対抗する為に必要なもの・・・それは真に最強と呼べる竜神とその真の力を取り戻し全パワーを余すことなく使える竜神剣。さらには今の私の数倍ぐらいには最低でも強い仲間が10人前後は欲しいわ。そこまでお膳立てを整えて勝率は1%あるかないか・・・というところね。」
血が凍りつくような錯覚さえもする。必要なものの唯の一つさえも俺たちは持っていない。・・・勝ち目が低いとか小数点以下何桁なんて次元じゃない。まさに今の時点では純粋たる0だということか。
「大丈夫。私の予想では、まだそこまでのことはしてこない・・・と思うわ。『あの存在』が油断しているうちに体勢を整えないといけない。明日からは今まで以上に辛い任務が増えるはずよ・・・その覚悟を持ってもらおうと思ってね。」
すまなそうに笑うレーチェル様。だが、そんな罪悪感なんて必要ではない。なぜなら
「何でもやりますよ! まだ俺はレミーにもリュウトにも借りが山積みです。それに・・・まだ死ぬわけにはいきませんからね。」
なんとしても守ろうとする思い。リュウトの原動力だった物、今でもあいつを支えているもの。俺にもそれがある限り、足掻くことに否があるはずもないのだから。
こうしてコクトとレーチェルの見えない戦いは展開していく。・・・ちなみにレミーの試験の結果は、言わない方がよさそうな結果だったという。
「ム~、来年こそは受かるんだから~~~!!」
今回はメインはコクトとレーチェルの方ですね。というよりも『レミー奮闘記』と銘うっておきながら裏の主役は・・・
レーチェル「私ね! 1話から5話まで毎回出てきてるし!」
悔しい話ですがそのとおりなんですよね・・・。段々と不穏な空気の漂ってきましたが・・・レミー><
レーチェル「まったく、何時になったら受かってくれるのかしら? コクトくんは頭悪くないのにね~? そして私たちの影の努力はどうだったかしら?」
レミーの頭は・・・コクトとあなたの教育の所為だと思いますが? 影の努力というよりも陰謀??
レーチェル「さ・く・しゃ・く~ん♪ まだ手出しできない以上は下手な不安を与えたくないって言う慈愛をよりによって陰謀?」
えっ? あ、あの・・・その、ごめんなさウギャァァァ~~><
レーチェル「ふう、片付いたところで帰りましょうか。ん? 何この血文字は? 『次回予告を・・・』・・・一応、その根性だけは認めてあげるわ。では、時間の流れというのは無情なもの。特にその流れに乗れない人が周りにいるとかしら? 竜神伝説第3部9章『永遠を求めて』アキちゃんの悩み、わからなくはないけどね。」




