7話 「笑顔で」
暗い・・・ここはどこだ? 闇の中、手を伸ばす。触れるものは何もなく、代わりにねっとりとした空気が絡みつくようだ。突然、後方で何かが爆発したような気配にハッと振り向く。やはり何も見えない・・・が
「くっくっく、この世界も失敗だったか。まぁいい、失敗作は全て壊した。俺には無限の時間がある。また新たな世界を作ればいい・・・。くっくっく、あーっはっはっは・・・!」
何だ? この狂気しかないこの存在は、この世界は。だが、何故だ? その中に悲しみが見えるようなそんな気もする。これは・・・以前見たあの夢か? 折角忘れられていたのにな。嫌な気分だ、いや嫌な気分だからこそこんな夢を見るのだろうか? だが、これは本当に夢なのか? ひょっとしたら以前竜神剣を手にしたときに見たような・・・お前は・・・お前は一体誰なんだ・・・。
「どうやら・・・また命を拾ったようだな。」
目が覚めて一番に自然に口から出た言葉。それが良いことなのか悪いことかはわからないが・・・などと思っていたときに手が何かに当たる。
「・・・アキ?」
すでに日も落ち、暗い部屋の中でも彼女を見間違えるなどありえるだろうか。泣きはらしたような目で俺の寝ているベットに顔を伏せるように寝ている。ふと隣を見ると横のベットにも誰かが寝ていたような形跡があるところを見ると・・・元々そちらに寝かされていたアキが起きた後、俺を見続けていたってことかな? 泣きつかれてもう一度寝てしまうまで・・・。
そもそも、何故アキが隣に寝ていたのか。俺の状態にショックでも受けたか、助かった時の安著によるものか・・・色々考えられることはあるが、いずれにせよ原因は俺なのだろう。だからこそ恥じる。心配をかけたことではない。それは悔しく悲しく、そして後悔することではあるが恥じることではないと俺は思う。恥じるのは・・・助かったことが良い事かどうかわからないなどと思ったこと。こんなにも俺を心配し必要としてくれる人のことを忘れてそんなことを思ったことは絶対に許されない恥じるべきことだった。
「・・・ううん? リュウト?」
俺が身動きしたからだろうか? 起きてしまったアキが少々ぼや~とした表情で俺を見る。しまったな、もう少し可愛らしい寝顔を見ておくべきだった。・・・旅の間の女性用テントや今のアキの部屋に俺がむやみに立ちいれるわけないだろう? 俺だって片手で数えるほどしか見たことないんだ。
「・・・リュウト?」
目をパチパチとさせてもう一度呟く。まじまじと俺の顔を見て、じわっ~っと涙ぐんできて・・・ってまずい! 俺の所為なのはわかっているが、とりあえず泣き顔は見たくない!
「えっと・・・ただいま、アキ。」
先ずやるべきはこれだろう。俺は約束したからな・・・笑顔で帰ってくるって。予想外のことが色々あったおかげというかで心の痛みは軽減はされたが、それでもズキズキと痛むことには変らない。だからこそ、俺はアキに笑顔を見せなければいけない。それが大切な約束だった・・・そしてアキも見せてくれよ。俺が生きてここにいる証を、大切な約束をな。
「うん! お帰りなさい! お帰りなさい!!」
ポロポロと大粒の涙をこぼしながらの満面の笑みで俺に飛びついてきたアキ。ちょっと体に痛みが走ったが、これも生きている証。そう思えば、そして痛みの元がアキならばこれさえも愛おしい気さえもする。俺は・・・ここにいても良いんだよな? ところでちょっと漏れてしまったうめき声は気づかれなかっただろうか?
リュウトが目の前にいる! リュウトが私に微笑んでくれる! あって当たり前だと思っていたものは本当は酷く脆いもので、だからこそ大切なものなんだって改めてわかったの。
だから! リュウトが約束どおりに笑顔で帰ってきてくれたから。ただいまって言ってくれたから! 私も言うの! 約束どおりに笑顔でお帰りなさいって!!
あんまりにも嬉しかったからつい飛びついちゃって・・・リュウト、ちょっと痛かったのかな? なんか小さなうめき声が聞こえた気がした。ごめんなさいって思うけれど、あなたが感じてくれる痛みも嬉しいの! だって、痛いって事は生きているって事だから。それと、こんなにも心配をかけてくれたリュウトに可愛い可愛い意趣返し・・・かな?
私は飛びついた勢いのままリュウトの胸に顔をうずめる。だってリュウトに泣き顔なんて見せたくないもん・・・もう気づかれているとは思うけどね。
クスッってリュウトが笑う空気が伝わってくる。うずめた胸から大好きなリュウトの匂いがする。ぽんぽんって優しくリズム良く背中を叩きながら髪をもさらさらと撫でていく手。みんな、みんな大好き! どれか一つだって失いたくない大切な宝物だと思うから。・・・なんだか本当に私ってリュウトにベタ惚れなんだなぁって思う。
だからかな・・・私は気づかなかったの。後ろのドアがパタンって軽い音をして閉まった音に。聞こえてはいたんだけど、気づかなかったんだ。
ふぅ、やっぱりあの2人はお似合いね。ちょっと様子を見ようと入った医務室でまさかあんなシーンを見ることになるとはさすがの私も思わなかったわ。
リュウトくんは大切な弟、勿論アキも大切な妹。どっちも同じぐらい大切で愛おしく思っている。だから、あのシーンを見て心が温まるのはわかるのよ。つい涙が出そうになってしまったぐらい嬉しくて安心したのもわかるわ。
でも・・・ほんの少し感じる胸の痛みは一体何なんだろう? ひょっとしてアキをリュウトくんに取られて嫉妬しちゃってたりする??
キョロキョロ・・・どうやら前回出てきた、まだ出番のない前作のリュウトハーレム構成員たちは帰ったようで一安心です。
リュウト「なぁ、そのまるで俺がプレイボーイみたいな言い方はやめてくれないか?」
いや、むしろ自覚があるプレイボーイの方がマシなんじゃないだろうか? 前作では読者様から天然たらしの称号まで貰っていたじゃないか? 実際に前作のハーレム構成員は6人だけど、落とした女性は名前が出ているだけで8人! 作品に出てないのをあわせたら2桁は確実にいっているだろう?
リュウト「知らん! 俺には自覚はまったくないんだから。それに今回はまだアキだけじゃないか!」
・・・それを本気で言っているからタチが悪いのだが、そのうちに後2人から・・・いや、これから大量に出てくる候補たちから本当に後ろから刺されるぞ?
リュウト「冗談としては面白くないぞ?」
(この鈍さは本当に救いようがないな)まぁ、本人がよければ良いか。他の当事者がどう思っているかは知らないけど。とりあえず次回予告をよろしく。
リュウト「ん、ああ。今日も天界は・・・というよりも、とある特定の天使は大慌て。昇級試験にレーチェルの特訓(拷問?)と大忙し! 竜神伝説第3部8章『レミー奮闘記』・・・本当に奮闘といえるのかこれ? おっと、例の堕天使モードも初の本格始動するらしいぞ!?」




