6話 「命をあなたに」
ズルズル・・・ペタン・・・上手く動かない足を引きずるように、時には力なく倒れこみ、時にはまるで這うようにして医務室を目指す。勿論、自分を見てもらうためなんかじゃない。もしも、誰かに見つかっていたら女王の威厳なんて吹き飛ぶほど情けなくみっともない姿かもしれない。・・・でも、私は少しでもリュウトの近くにいたいから。
ガタン・・・殆ど私が寄りかかった重みで不自然な開き方をした扉が軋むように音をたてて開く。そこはまるで戦場のようだった。ううん、きっとここはドクターとルルの戦う戦場そのものなのだろう。
「ルル! R-グラムセンの100番! 急いでください!」
「はい! すぐに持って行きます!」
私には良くわからない専門用語? が矢継ぎ早に告げられドクターもルルも今まで見たことがないぐらい、怖いぐらいに真剣な顔だった。・・・リュウトは? リュウトは無事なの?
医務室中央のベットの上に寝かされたリュウトは息をしているのかどうかもわからなくて・・・私はフラフラと無意識のうちに彼の方へと足を踏み出していて・・・
「女王様! ここは私たちの戦場です! 私たちもリュウト様も今、必死で戦っているのです! 戦う術を持たない人は出てこないで下さい!」
ルルに厳しい言葉で止められる。女王に使う言葉じゃない? そう言うのは簡単だろう。でも、ルルもドクターも全身全霊を・・・ひょっとしたら命までをも賭けてくれているのかも知れない。だから非難なんて出来ない。厳しく余裕のない言葉は僅かなミスといえないようなミスさえも許されない状況と覚悟の現われだと思うから。それがわかるからこそ無力な自分が情けなくて涙が出る。
「女王様、メイ殿と一緒にそこのベットでお休みください。」
ドクターの丁寧で優しくとも、自分たちの戦場に関わるなという明確な否定。・・・えっ? お姉ちゃん!? ベットの上で寝ているのは確かにお姉ちゃんだけど、こんな状況で悠長に寝ていられるような人でないことは私がよく知っている。それにこの顔は安らかな眠りとはほど遠いんだけど?
「メイ殿は運び込まれたリュウト殿を見て、少々取り乱されましたので・・・申し訳ありませんが薬を使わせて貰いました。1時間もすればお目覚めになると思います。ああ、運び込まれたアシュラ殿は医務室の前にいるはずですがお会いになりませんでしたか?」
「・・・いや、見てない。」
きっと、私の様子を見て姿を隠したんだろうと思う。アシュラはあれで意外と優しくて気を使うから・・・。でも、あの冷静沈着って感じのするお姉ちゃんがそんなに取り乱すなんて、お姉ちゃんにとってもリュウトは大切な家族だからかな?
その後、早いようなゆっくりなような時間が過ぎて・・・そして
「これは・・・血が足りないですね。」
ふとドクターが漏らした言葉。足りないなら輸血すれば・・・っ!? そうだ、輸血は出来ないんだ。私たちは血液型どころか種族が違う。ううん、そもそもリュウトは大分薄いとはいえ竜族との混血。そんな特殊な血を持った人なんて他にいるかどうか・・・。一番可能性があるのはリュウトの妹っぽいリデアって人だけど、もう百年以上も前のこと。混血だから寿命は大丈夫かもしれないけど、生きてる保証もなければそんなにすぐに見つかるはずもない。八方ふさがりじゃないの!
「ドクター・・・血の代わりにエネルギーを代用する方法があるはずです。」
とお姉ちゃんがまだ薬の効果が残っているのか頭を抑えながら起きぬけにそう言う。そういえば、以前レーチェルさんも血が足りなかったリュウトをそうやって治療していたような・・・?
「理論上はたしかに・・・。しかし、私とルルは治療を続けなければなりませんから力をお分けすることは出来ません。リュウト殿ほどの膨大なエネルギーを持つ人の不足分を補い、さらには血液の代用にするほどとなるとどれほどの力が必要なのか・・・。」
そう・・・方法があるんだ! だったらやるしかないよね! リュウトのためなら命をかけるのに迷いなんてないよ。
「ならば私の・・・」
「それは私にお任せください!」
私の言葉を遮るように言ったのはお姉ちゃん。・・・なんだろう、凄く頼もしくて嬉しいはずなのに、ちょっと胸が痛い。不安? 悲しみ? 戸惑い? 全部な気もするしどれも違う気もする。良くわからないけど
「いや、1人でやらなくてはいけないという訳ではないのだろう? ならば2人でやればよいではないか。私の心配をしてくれるのはありがたいが、今はリュウトを助けるのが優先だ。何、死ぬほどには使わないから安心するがよい。」
なんだろう? お姉ちゃんが一瞬はっとした顔をした。ひょっとして私の心配で言ったんじゃないの? お姉ちゃんも自分の命を引き換えでもリュウトを助けたい?
「くぅ・・・まさかこれほどとは?」
「女王様、後は私にお任せを!」
「無理をいうな。そなただけでまかなえるエネルギー量であるわけなかろう?」
思ったよりもずっとリュウトのエネルギーは大きかったみたい。こんな大きな力をリュウトは抱えて生きてきた。大きな力があれば何でもできるなんて、よりいい生き方が出来るなんて思う人は多い。でも、それが間違えであることは・・・女王なんていう大きな権力を持つ私には良くわかる。
力を持てば持つほど、心に語りかけてくる黒い影がある。持てば持つほど責任もより強くなる。リュウトはどれだけの責任を心に抱えて暮らしていたんだろう? でもね、私の心をあなたやお姉ちゃんが支えてくれたように、私たちもあなたを支えたいの。この思いがあれば・・・あなたの命にも届くよね? お願い、私たちの力を! 心を受けてもう一度あなたに命を・・・
「ドクター! 心拍・・・停止しました・・・。」
っ!? でもまだよ! だってリュウトは・・・
「ルル! ドクター! メイ! まだだぞ・・・リュウトは心臓が止まったぐらいでは死なない! 今までも2度、そこから蘇生しておる!」
「わかっていますわ。まだ、希望を捨てるのには早いでしょう。」
「ええ、最後まで足掻く価値がこの方にはある。」
まだ、まだ私は諦められないよ? だって・・・あなたはまだ私との約束を果たしていないじゃない。それに私は誓ったもん、私があなたを守るって。そしてあなたも誓ってくれたよね? わたしのことを守ってくれるって。あの約束、時間制限なんて決めた覚えはないよ? まだ、私はあなたの守りを必要としてるよ? だから・・・
「ふん、貴様らにはリュウトのエネルギーは身が重い。こいつはエネルギー量だけならばオレ以上だからな。・・・オレの力も分けてやる。」
アシュラ? そういえば運んでくれたのがアシュラなのすっかり忘れていた。アシュラが結果も見ないうちに帰るはずもないか。私とは別の意味だけどリュウトに執着しているという点では同じだもんね。
「俺の力も使ってくれ。俺はまだこいつに返さなければいけない借りが山ほどある。」
コクト!? あなたも来てくれたの? リュウトならきっとそんな借りはもうない・・・なんていいそうだけど、ありがとう。とても嬉しいよ。
「あーちゃん! こういったことならわたしにお任せだよ~♪ 解毒は出来ないけど回復はレーチェル様に次ぐんだからね~!」
レミーも!? リュウト、きっとこういうのが本当の力なんだね。あなたはこんなにも凄い力を持っている。あなたのためにこんなにも力を貸してくれる人がいる。
「はぁはぁ、アキ! リュウトが大怪我したって本当!? うわっ!? 私も力を貸すよぉ~!」
誰から聞いたのか(たぶんレーチェルさんね)息を切らしながらママナも駆けつけてきてくれた。リュウト、私たちみんなの力があなたの命になる。私たちみんなの心のかけらであなたに命を・・・
「ふぅ、皆様、術式は成功です。しばらくすれば気がつくと思います。・・・ご協力ありがとうございます。」
本当は私の方がお礼を言いたいことなのに深々と頭を下げてそういったのはドクター。きっと、こういったことは自分の領域だという自負があるからだろうけどね。・・・あれ? 安心したからかな? それとも力を使いすぎたから? なんだか眠くなっちゃった。
アキは寝てしまったようね。まぁ、緊張しっぱなしだったから仕方がないわね。
「ドクター、女王様はこのままリュウト殿の隣で寝かせて差し上げてください。他の皆様方は即席ですがお礼の席を・・・」
「ふん、そんなものはいらん。オレはさっさと帰させてもらおう。」
「すまないが、遅くなるとレーチェル様に文句を言われるからな。」
「また今度、遊びにくるよ~。」
「あはは、一番役立ってない私だけお礼って言うわけにもねぇ。私は弟を助けに来ただけだし。」
と、それぞれにお礼の席を辞退して帰って行った皆さんを見送って私は一人バルコニーにいる。
「はぁ、私はどうしてしまったのかしらね?」
本当にわからない。私が一番守らなければいけないのはアキであるはずで、実際にアキのことはとても大切に思っているのは間違いない。なのにどうしてあの時に自分の発言にアキを守るという意図があることを気がつかなかったんだろう。
あれではまるで私が1人でリュウトくんを助けたかったみたいじゃない。いえ、あの時一瞬感じた思いはまるで嫉妬のような・・・ふふ、まさかね、いくら恋人がいないことを不満に思っていても大切な妹の恋人を奪うほど焦ってはいないと思うわ。・・・きっと、そうよね?
こうやってリュウトが助けられるのは何度目でしょうか? いつもはレミーやレーチェルがあっさりと何とかすることが多いですが、今回はドクターが頑張ってくれました。
アキ「私たちの頑張りもあってだがな。しかし心停止も3回目だぞ? リュウトは。」
あはは、そうですね。ただ過去2回は1部ですから久しぶり?
アキ「久しぶりも何もあるものか! 前にも言ったが、リュウトの心臓が止まるたびに私の心臓も止まりそうになるのだぞ! このままではリュウトの前に私が死んでしまうぞ!!」
えっと、それはそれで・・・ご愛嬌?
アキ「ご愛嬌で殺すんじゃな~い!! しかしメイの態度が気になる。・・・そういえば前作でも最後の最後でリュウト争奪戦に参加してきたような。・・・まさか!?」
まぁ、そこらへんは一応内緒で・・・ねぇ、メイさん?
メイ「このタイミングで私に振らないで下さい。ただそうですね、前作でリュウト殿のハーレムメンバーは6人。うち今作で出てきているのは女王様と私とレーチェル殿・・・今回はレーチェル殿は血縁関係がありますから参加しないにしてもまだ3人出てきてすらいない人がいますので・・・もうわかりますわよね。」
争奪戦はこれからだということですね。ちなみに前作では登場さえもせず、前々作ではアキと会う前にすでに死亡している設定で回想でちょっと出てきただけの名前さえ出てこなかったママナとマリアもいますからねぇ。・・・マリアは今作でもすでに死亡してますが。
アキ「うう・・・ひょっとして過去最大の激戦になったりする?」
さぁ、どうでしょう♪ 物語の文量的にはすでに過去2作の量を大きく超えていますけどね。そういえば過去作ではあっさりと退場したルーンも重要なキーつきで残っていますよね~^^
アキ「うう・・・リュウトは・・・リュウトは私の物だも~ん! うわぁぁぁああん!」
ありゃりゃ、逃げちゃいました。ちょっとからかいすぎましたか?
メイ「さぁ、どうかしら? 前々作はアキの1人勝ち。前作は無理やり力技でだけど皆で共有。今作は私の逆転勝ち・・・というのもありかもしれませんね。」
あはは、まぁ可能性はありますね。・・・ん?
???1「メイの前にワタシでしょう? アキの対抗馬といえば!」(彼女は今までにも何回か名前があがっているリュウトの実の・・・)
???2「え、えっと私も立候補していいですか? だって・・・フフフ、私は1人で2人分でしょ? ねぇ、作者?」(彼女は種族的には日本の有名な妖怪で・・・2重人格の美人です。)
???3「ボクだって忘れないでよ~。リュウトを好き度で言えばアキに次ぐ順位だったはずだよね!」(彼女は数少ない人間で食欲魔神! キャッチフレーズはボクっ子、ハラペコ、ぺっタンコ グフッ!?(余計なことはいうな~~!!))
・・・とりあえず、まだ出てきてないメンバーは帰れ~~~!! はぁはぁ、収拾がつかないので今回はここでお開き! では次回もよろしくお願いします!




