5話 「まだ・・・」
ピピピ・・・端末が軽い音をしてなる。私が会員NO、0000000をもつ(実は私が設立者だから当然なんだけど)リュウトファンクラブの会報が届いた音。
表面上は冷静を装いながら不安でいっぱいだった私はその音に飛びついたの。お姉ちゃんはちょっと苦笑しながらも見てみない振りをしてくれる。それに知っているよ? お姉ちゃんも時々時間を確認しながら不安そうに震えていたのを・・・。
私は不安だった。だって絶対にリュウトは心を傷つけて帰ってくる。リュウトは普段は飄々としてるけど、実は傷つきやすいガラスのような心をしていることは私はよく知っているの。・・・本当に、本当に私はリュウトを行かせたくなかった。でも、きっと、止めてしまったらリュウトの心を他ならぬ私が折っちゃうことになってしまったのよね?
そんな思いで、リュウトが無事なことを確認したくて飛びついた情報・・・でも、私の思いは最悪な形で裏切られることになる。
「えっと・・・『リュウト様情報、リュウト様は現在エルファリアに向け帰還中。お怪我をされているようでアシュラ様に背負われて・・・』 えっ!?」
ちょっと待って!? あのリュウトが自分で歩いてないってことは意識がないか、本当に動けない状態だってこと! あっさりと書かれているけどアシュラがいるってことはきっとレーチェルさんあたりが連絡をしたのよね? ・・・それは本当にリュウトが命の危機に瀕していると言うことを表している!?
言っちゃ悪いけどたかが人間。それもカーバンクルたちを襲うような盗賊かそれに属するような程度の低い人間がどうやってリュウトを? ふと、そんなことが頭をよぎるけど、すぐにそんなことはどうでもいいと考え直す。とにかく、今のうちにドクターに治療の用意をしてもらおう!
「メイ! すぐにドクターに連絡を!! あらゆる治療の準備をしておくように伝えるのじゃ!」
さすがのお姉ちゃんもこんな指示は予想外だったらしくて、珍しくちょっと慌てた様子で私の手元の端末を覗き込みにくる。普通だったらメイドとして女王にそんなことをするなど許されるはずもなく、お姉ちゃんも絶対にやらないことを考えると見ため以上に不安に思っていて、そして私の言葉に冷静さを失っているのかもしれない。
かという私も辛うじて言葉遣いを保っているのが精一杯で、上手く説明なんて出来そうにないからお姉ちゃんに押し付けるように端末を手渡す。何も言わずに端末に目をやったお姉ちゃんの顔がどんどん青ざめていくのがわかる。・・・ひょっとしたら私もそんな顔をしているのかもしれない。足がプルプル震えて、体が冷たくなって、それなのに心臓の音ばっかりがすごくうるさく聞こえて・・・
「う、嘘・・・。リュウト殿が、リュウトくんが? じょ、女王様、申し訳ありません。私がリュウト殿に任せようなんていった所為でこんな事に・・・。」
ううん、お姉ちゃんは悪くない。だって誰も、私もリュウトもこんな事態は可能性のかけらさえも考えてはいなかった。それに・・・
「今はそんなことを論じている時ではない! リュウトがどんな状態かもわからぬが、あらゆる可能性を考えた治療の準備を頼む・・・。ま、万が一のことを考えたら・・・。」
駄目、ちょっと考えただけで気を失ってしまいそう。じわじわと涙が溢れそうになっている。泣いたら、きっと私は何も出来なくなっちゃう。女王の仮面も何もかも捨てて、この場で号泣し続けることになっちゃいそう。だから、リュウトの無事な顔を見るまでは我慢しないと・・・
「わ、わかりました。すぐドクターに伝えてまいります。」
お姉ちゃんがすぐに駆け出して行ったけど、ときどき足がもつれたように転びそうになったり、明らかにいつものお姉ちゃんじゃない。お姉ちゃんもリュウトのことを心配してくれている。それを嬉しく思うのと同時に凄く怖い。もし、リュウトがいなくなったりしたらどうなっちゃうのか。私もお姉ちゃんもこの国も・・・ううん、もっと大きな影響があるかも。だからお願い、かってな願いかもしれない。私も出来る限りの事するから、どうかもう一度だけでいい、無事な笑顔を見せて・・・。
駄目ね、こんなことじゃアキのことをとやかく言えないじゃない。私が焦ったって何にもならない。一番、ショックを受けているのはアキなのは間違いない。だから私は冷静にしっかりとアキを補佐しなくちゃいけないはずなのに・・・
それなのに肝心の私の方が心を乱されてしまっている。それは何故? アキに言った様に私がリュウトくんに今回のことを任せたから? いえ、それはきっと間違っていないわ。それに私が言わなければリュウトくんはアキと喧嘩をしてでも1人出て行ったでしょう。じゃあ、何故?
「ドクター!!」
医務室の扉をノックもせずに開ける。本当に私らしくない・・・でもドクターはちょっと驚いた顔を見せながらもとがめる事もなく
「どうしました? メイ殿がそれほど慌てると言う事は余程のことでしょう?」
いつもどおりの優しい笑顔。私はそれほどまでに慌てているように・・・見えるでしょうね。横についている規律やマナーに厳しいルルでさえ怒るどころか心配そうな顔をしているぐらいに。気持ちを少しでも落ち着けようと深呼吸一つ・・・よし。
「リュウト殿が怪我をしてもうじきここに運ばれてくるという情報が入りました。状況は不透明ですが、かなりの危険があることもありえます。あらゆる事態を想定した治療の準備をお願いします。」
素直に自然に頭が下がる。そんな私に何を言うでもなく、また慌てるでもなく淡々とルルに指示をしながら薬品や道具を用意していく。本来なら頼もしい姿のはず、私もそうでなければならない冷静な行動のはず。なのになんでこんなにイラつくのかしら? わからない・・・私は一体どうしてしまったの?
「メイ殿は休んでいた方がいいでしょう。あなたに倒れられてはイザというときに困ります。女王様のことが心配なのはわかりますが・・・」
そうね、アキのことは確かに心配。あの子は逃げるということを知らないから。痛みからもプレッシャーからも責任からも逃げられない。本当に強いと思う、きっと本人は否定しそうだけど、本当は私よりもずっとアキはしっかりしていて強いのよね。だからこそ、私はアキが心配なのだけど。
「いえ、あなたは2人分の心配を背負っているのですね。あなたもまた不器用な方です・・・。」
このドクターの言葉の意味が私にわかるのはずっと先の話。・・・そう、リュウトくんを思っているのはアキだけではなかったのね。
1分、1秒が凄く長く感じる。アシュラが運んでいることを考えればもう着いてもおかしくないって思うのに時間は思ったほどには進んでいなくて。ああ、早く・・・お願いだから早く私を安心させてよ、リュウト・・・。
「アキはいるか!」
響き渡るアシュラの声! ああ、やっと・・・と思うのと同時に余裕の感じられない声に最悪の事態を覚悟しなければならないとまだ残っている冷静な部分が語りかける。
「ここにいるぞ!」
大声で返したつもりの声は実際には掠れ、震える聞き取りにくいものだったと思う。それでもアシュラには聞こえていたようで、アシュラらしくもなく足音がこっちに近づいてくる。私も近づく・・・つもりなのに足が震えちゃって殆ど前に進めない。
そうして、ようやく見えたリュウトの顔は・・・蒼白? 土気色? ううん、少なくてもリュウトは見た目は人間に属している以上、けしてあってはいけない顔色だと私は思った。
「見てのとおり厄介な毒を盛られている。医務室に案内しろ。」
毒? そうだよね、そんなことにもすぐに思い至らないほど私は混乱。いえ、思考停止してしまっている。でも、今は
「そこのもの、アシュラを医務室に案内するように・・・」
「は、はい!!」
・・・言えた。こんな言葉すら出ないのではないかと思うほど、今の私は頭も体もついていけてない。ホントは私が案内したかった。でも、歩けそうになかったから。だって、リュウトの顔を見たときから言うことを聞いてくれないこの足は立つことだって出来てないもの。
「リュウト・・・あなたは行くときに言ったよね? 必ず笑顔で帰ってくるって、笑顔で待っていて欲しいって。私、ちゃんと笑顔で迎えるつもりだったんだよ? でも、そんなあなたの顔を見たら笑えないよ・・・。まだ私、あなたの笑顔見てないよ? その笑顔を見たときがあなたが帰ってきたときなんだから・・・ちゃんと私のところに帰ってきてくれなきゃ嫌だよ・・・。」
メイドの1人に案内されて遠ざかっていくアシュラに背負われたリュウトを見ながら、そう呟くのが今の私の精一杯・・・。
戦う者よりも待つ者の方が、旅立つものよりも残される者の方がずっと辛いこともある。そんなお話です。ちなみに今回のタイトルの『まだ・・・』は最後のアキだけでなく『まだ』気づけていないメイにもかかっていたりします。
アキ「うあぁぁぁあああ・・・嫌だよ。ねぇ、私を置いていちゃ駄目だよ・・・。」
・・・今回は近くに寄らないほうがよさそうですね。前回に続いて2連続で生死の境をさまようのは勘弁です。・・・アレ? あの~、後ろから羽交い絞めにしてるのは誰?
メイ「今回のことに悲しんだり怒ったりしているのは女王様だけではありませんよ?」
あははは・・・あの~、お手柔らかに><
メイ「そうですね・・・では1人1人は半死半生レベルに止めておきましょうか。」
・・・1人1人?
ママナ「弟をこんな目に合わせれた姉としてはこのぐらいは当然だよねぇ?」
あ、あのママナ? このぐらいってどこからその凶器を持ってきたのかな~?
マリア「ママナちゃん、私も姉だって事忘れてないよね? さて、久しぶりに本編でも暴れてみようかな~♪ SSモード行ってみる?」
え、えっと顔が笑っていないのは凄く怖いんですが・・・
コクト「友として一応報復させてもらおうか?」
剣をもたれてすごまれると・・・報復って言うより復讐?
レミー「わたしにとってもお兄ちゃんだってわかっているよね~、サーくん!!」
あはは、真面目な顔はレミーには・・・ごめんなさい>< っていうかこの人数が1人1人半死半生レベルの攻撃って死ぬ! 絶対に死にますってそれは!!
レーチェル「大丈夫、私もいるから・・・。さぁ、(一応)神の前に懺悔して見なさい♪」
では皆さん・・・さ~よ~う~な~ら~(泣)




