3話 「優しさの代償」
なんだかんだと6時間ほど彼らと一時の安らぎの時間を過ごした頃のことだった。ヒュッと聞えた風切り音・・・緩みきった警戒が張りなおされると同時に認識された気配と無数の矢!
俺はとっさに風で防御しようとして気づく・・・この方法では俺の体によじ登っているカーバンクルたちまで巻き込んでしまう! 思ったよりも速度の速い矢を迎撃する時間もない・・・ならば方法は一つか。防げないなら受ければいい。巻き込みたくないなら一人で当たればいいだけのこと!
内部エネルギーの放出による体の硬質化・・・並みの人間の放った矢などこれならば刺さりはしない! はずだったのだが
「くぅ!? ・・・これはミスリル銀?」
その中の一本だけ・・・軽くて堅く、さらに魔法伝達率もいい金属であるミスリル銀の使われていた矢があったらしい。とは言ってもたかが一本! 腕に矢が刺さったぐらいで? なんだ? 体が揺れる? これは・・・
「ちっ! 毒か!」
体が痺れる。力が抜けていく・・・なかなか厄介な毒を盛られたらしい。いや、それ以前にミスリル銀製とはいえあの程度の奴らが放った矢が俺の体に何故刺さった?
「ぐわっはっは! 狙い通り・・・って言いてぇところだが、悪魔でさえ殆どの者は掠っただけで、即あの世行きのこの毒をまともに喰らって生きてやがるとはとんでもねぇ化け物だな。」
醜く顔を歪ませる大笑いをしながら近づいてきた盗賊頭。いや、あんな奴はどうでもいい・・・問題は何だ? あの金属で出来た巨人は? 一番近そうなのはゴーレムだが、どうも違和感がある。
「とはいえ、動けない程度に弱っているならなぶり殺してやれるなぁ・・・ん? こいつが気になるか? いいだろう、冥土の土産って奴だ。こいつは天使族がその昔に造った骨董品さ。なんで打ち捨てられちまったのか知らねぇが悪魔・・・てめぇみたいな化け物を殺す為だけの道具だ。結構なレア物なんだぜ。くっくっく、てめぇのような化け物にまでこうして丁寧に教えてやる。俺様は優しい男だと思わねぇか? ん?」
なるほどな・・・両腕には矢が設置されている。さっきの矢を打ったのはこいつか。そしてこいつが使われずに放置されている理由も大体わかるが・・・今のろくに動けない俺にはかなり厄介だな。
「・・・がはっ!?」
ゴーレムもどきの拳が俺の胴体を直撃する。普段ならばとか、毒さえなければなど何の言い訳にもならない。油断したということ、敵の策略に引っかかったということ・・・そもそも初めに見逃してしまったこと。全て俺の失策であり、その結果だ。
「おらおら! この程度で死ぬんじゃねぇぞ! こっちはてめぇに仲間殺されている恨みがあるんだよ!」
ふっ、こいつらにもその程度の心はあるってか。元々、この手の恨みを受けるのはとっくの昔に織り込み済みだ。・・・俺にはその恨み全てを飲み込んでもなお見たい未来があるから。お前たちの思いと俺の思い、どっちが強いか勝負といこうじゃないか! ・・・ん? ちょっと待て!? この気配は!
「師匠~~~!!!」
なっ? ヤマト!? なんでお前がここにいる!?
「女王様がじきじきに私に命をくれたんですよ。師匠の弟子たる私なら他の兵よりも早く着けるはず・・・あなたの助けになってほしいと。」
アキらしいな・・・嬉しい配慮ではあるが、今は少々まずい! ヤマトの力ではまだあのゴーレムもどきは・・・
「しかし師匠がこんな相手に・・・その腕は!? まさか・・・毒!?」
さすがに毒々しく紫に変色した腕を見ればヤマトにもわかるか。もっとも、だからどうしたというものでもないのだが。
「くぅ! 卑怯なマネを!」
歯をギリギリと鳴らすように悔しがり、盗賊たちを睨みつけるヤマトだが・・・一応、師としてはこれは教えておかないと。
「それは違うぞ。いかなる手段を使おうと勝った者が勝者だ。こんなマネを覚えろという気はないが、見抜けず引っかかった時点で俺の責。いかなる手段を用いられようと敵を罵倒することに意味はない。それが戦場だと覚えておけ。」
「・・・はい、わかりました。」
それでもなお悔しそうに納得がいかなさそうにうなずくヤマト。まだこれを受け入れるには少々早かったかな? だが、今はそんなことをいっている場合でもまたない。
「師匠は後ろにいてください! こいつらは私が倒します!」
迷いなく言ったヤマト、気持ちでは負けてはいない・・・そりゃ俺の殺気にも耐えたんだ、あんな奴の殺気に気おされるはずもない。だが
「うわぁぁああ!」
ゴーレムもどきにあっさりと跳ね返される。そうだ、ヤマトはまだあのレベルの敵と戦うには実力も経験も足りない!
「俺の弟子に手出しないで貰いたいな!」
動かない体を無理して動かしてヤマトに対する追撃を払いのける。動くたびに激痛が走るな・・・まぁ当然か。
「し、師匠! 動いたりしたらよけいに毒が!」
そういうことだな。どんな猛毒をどれほどの量を打ち込まれても即座に全身に回ることはない。毒は必ず血流によって運ばれる・・・つまり致死量を遥かに超える量の毒であってもそれが致命的なレベルにまで全身に広がる前になら救命方法はいくらでもあるということ。逆を言えば、こうやって動いてしまうことは毒の回りを早めることになる。と言っても
「馬鹿言え、俺は仮にもお前の師匠だ。弟子を見殺しなんぞできるか!」
ヤマトを犠牲にして俺だけ生き残るなんて冗談にもならん。・・・だが、残された時間も力も少ない。どうする? ・・・いや、どうやら助かったみたいだな。
「・・・こんな相手にオレを動員するような真似をしおって・・・」
俺に対して行われた攻撃を面倒そうにいとも簡単に受け流す悪魔がそこにはいた。
「悪いな、アシュラ・・・しかし、どうしてわかった?」
「ふん、レーチェルの奴が連絡してきたのだ。・・・あいつももうじき来る。」
あいつ? レーチェルなら来る気ならとっくに転移してくるだろうから・・・ああ、あいつか。兄妹そろってくるのか、片方だけか・・・どっちにしても負けは消えたな。もっともアシュラだけでも十分すぎるが
大ピンチ! から一転、楽勝モードが漂ってきました。さすがアシュラというところですね。相手が弱いから・・・というのもありますが
レミー「ん~、アーくんが強いのはいつもどうりだけど・・・なんか今回難しいことリューくん言ってるよね? 毒??」
ああ、それか。実際に毒の量が多くても死に至るまでの時間はあまり変りません。勿論、個人差はありますけどね。
レミー「んん~? どんな毒でも?」
中には血流に乗ってじゃない毒もありますので全部じゃないですが、例えば麻薬なんかはほぼ全てそうですね。どれほどの量を飲んでも死に至るまでには相応の時間があり、異常が出たときにすぐ対処すれば大概は助かるというデータもあります。
レミー「うう~、でも『悪魔でさえ殆どの者は掠っただけで、即あの世行きのこの毒』なんて言ってるよ?」
それはまさに個人差ですね。リュウトの場合は種族から違いますから。生命力がまるっきり違うから普通の生物が死ぬ量が回っても生きていると・・・とまぁ、毒談義はこれぐらいにしておいて、今回リュウトを苦しめているのは天使の発明なんだけどそれについては?
レミー「そんなのわたしは知らないよ~。天使って言ってもいろんな人がいるんだから! でもどこかであのロボット見たことある気がするなぁ?」
おっと、これ以上喋らせるとネタバレ(?)を話しそうですね。まぁ、なんでこのロボットが放置されていたのかはわかっている人が多いと思いますが・・・というところで今回はお開きです! 次回もよろしくお願いしますね~!




