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竜神伝説~リュウト=アルブレス冒険記~  作者: KAZ
3部7章『優しさと非情』
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2話 「化け物」

 

「ボス、ここですぜ、例のカーバンクル共がいる森っていうのは。」


 薄汚れた服を着、にやけた顔で話す男。似たような者たちが後方に数十人・・・殆どのものが山賊か盗賊と思うだろうこの一団はまさにそのとおりの者たちなのだった。


「へへ、うじゃうじゃ居やがるな。やろう共! 1匹たりとも逃がすんじゃねぇぞ! 奴らを一網打尽にすれば俺たちは一生遊んで暮らせる金が手に入る!」


 ボスと呼ばれたものの声に「おお!」と一斉に声が上がる。カーバンクルたちに気づかれぬように声は潜められていたがやるきは十分のようである・・・それが褒められたものであるかは別問題であるが。


 彼らの手には逃げられぬように捕らえるための投網が握られている。まさに今! カーバンクルたちに魔の手が差し迫ろうとしていた。




 森の木々を抜けるようにして走ること10分ほど、約200キロの距離のタイムとしては上々だろう。・・・刹那や竜神剣の能力開放をすればもっと早くつけるが森の中で木に衝突せずに走り抜ける自信がなかったのだ。


 急に開けた視界、目に映るは大型のリスのような生き物たち・・・カーバンクルたちと彼らに投げつけられた網。どうやらギリギリセーフだったようだな。


「はぁああ!」


 さすがに投げつけれらた数十の網を全部きるのは難しい。カーバンクルたちの前に立ち、風圧で網を吹き飛ばさせてもらった。


「な! 何者だ! てめぇは!!」


 カーバンクルたちも吃驚しているようだが、それ以上に驚き苛立っているのは突然の邪魔者に計画を台無しにされた盗賊たちだろう。


「悪いが、こんな場で貴様らに名乗るほど薄汚れた名前は持っていないものでな。お前たちなんかに富と引き換えに奪わせるほど彼らの命は安くはないんだよ。」


 俺は淡々と呟くように言う。感情が入らない、きっと入れてしまったら抑えていた物があふれてしまうだろうから。


「ぼ、ボス! こいつ最近売り出し中のフリーの冒険者ですよ! たしかリュウとかって名乗って商人の護衛を主にやっているとか・・・え、えらい強いって噂ですぜ。」


 竜神ではなく、ちょっと前までやっていた護衛の方を知っていたか。さすがにリュウトの名前は使えなかったのでリュウと名乗っていたんだが・・・確かに、こいつらからすれば竜神なんかよりも自分たちにも関わる(商人を襲うときに戦うかもしれない)護衛の方が興味のある話だな。


「ほう? フリーの冒険者ねぇ? 偉そうな口上を言いやがって! てめぇも金のためにごうつくばりな商人共に使われるゲスだろうが! 俺たちと大差はねぇよ!」


 黙って聞く。暴利を貪るような商人の護衛をしたことはないが(どちらかといえば益は薄くとも人々のためにという商人が主だった。それがゆえに彼らが払ってくれる高い護衛料は心苦しかったが、彼らに言わせれば信頼できる安全の対価としてなら破格の安さということらしい)前半部分を否定する気はない。お前たちの同類って言うのは全力で否定したいところだがな。


「こいつらの宝石を狙っているどこぞの商人にでも頼まれたか? それとも金持ちの偽善者のご依頼かな? そんな奴らの払う金なんぞ、たかが知れているだろうぜ。等分とはいかねぇが俺たちに協力するならそれ以上の分け前はくれてやるぞ。」


 もうすでに交渉がまとまることを確信しているかのようなげひた笑い。気に入らない・・・心の底から気に入らないが、表面上は冷静に一応の言葉をかける。これで引いてくれるとは思っていないがな。


「悪いが、今回の行動に雇い主はいなくてね。これは俺の個人的な行動さ。・・・もう一度いう。彼らの命はお前たちと富の引き換えにするほど安くない。2度と彼らの平穏を脅かさないと誓ってここから立ち去るか、俺に殺されるか・・・2つに1つだ。」


 こいつらが前者を選ぶとは思えない。選んだとしても色々と小細工をしておかなければ安心は出来ないだろう。だからそれでも・・・僅かな希望にかけてみたい俺がいる。アシュラやレーチェルが聞いたら甘いと怒るか笑うのだろう。いや、この場にいるリュムも内心はそう思っているかもしれないな。


「へへ、馬鹿な奴だぜ。てめぇ一人でこんだけの数に勝てると思ってやがるのか? 人が親切心で言ってやったって言うのに、こんな化け物を守る為に命を落とすとはねぇ。俺たちの選択はこれだ! てめぇを殺して宝石もいただくぜ。」


 化け物ねぇ、彼らは凶暴なわけでも強いわけでもなく(魔族を化け物と思っているわけではないが)魔族でもない大人しい種族なんだけどな。・・・だったら見せてやろうか。お前たちが真に化け物と呼ぶべき存在の力・・・のほんの一部を。


 一斉に突撃してくる奴らだが今まで上級悪魔やら魔王やらを相手にしていた俺から見れば、ろくに訓練も受けていないちょっと荒事に馴れてます程度の奴らなど止まっているも同然。俺は剣を地面に突き刺して


「ふう・・・竜昇撃。」


 別に名前を言う必要さえもなかったのだが一応な。風の力で吹き飛んだ地面と共に先頭を走っていた何人かが空へと突き上げられる。竜昇撃には本来攻撃力はない。ただのつなぎ技なのだが・・・30mほど上空に突き上げられた奴らはぐしゃりと嫌な音を立てて落下する。


 肉を切る音もその感覚も、断末魔の悲鳴もなれはしなく嫌な音であることには変らない。だが、この音はいつも以上に心にくる。心が、血が冷たくなっていく感覚がわかる。彼らは認めないかもしれないが、同じ人の命を奪うのがここまで嫌なものだとはな。


「て、てめぇも化け物だったのか! ふん、化け物は化け物同士で寄り添っているってことか! やろう共、ここは一端引くぞ!」


 一端といっているようにまたやってくる気なのだろう。冷静に合理的に考えるなら例え背中からでも切り伏せてカーバンクルたちの安全を確保すべきだとわかる。・・・だが、どうしても俺には出来なかった。はは、やっぱり俺は甘い、いや弱いのだろうな。


「お兄ちゃん・・・大丈夫?」


 心配そうに俺の周りに集まってくるカーバンクルたち。彼らは俺を恐れようとしない。そして、そんなに辛そうな顔をしていたのだろうか?


「キミたちは俺が怖くないのかい? それに俺は怪我はしてないから大丈夫だよ。」


「ううん、だってお兄ちゃんは強いけど優しいもん。それに心が泣いてるよ? 痛い痛いって苦しんでいるよ?」


 純粋ゆえにわかるって奴かな? たしかに痛い、苦しい。・・・でも、そんな彼らを守れて良かったと心から思う。そして


「すまないが、ここに彼らを埋めていってもいいかな? 自業自得もいいところだが、このまま放置していくのは忍びない。」


 俺は落下の衝撃で原形を残しているとはいいがたい彼らを指差しながら言う。カーバンクルたちはちょっと顔を見合わせて


「うん、良いも悪いもないよ。どんな生き物もみんな平等に土に返る。彼らも土になって木に変わる。それだけだよ・・・穴を掘るの僕たちも手伝うね。」


 そういうが早いか一斉に土を掘り始めてくれる。正直な話、時間だけならば俺だけで掘ったほうが早いだろう。でも、彼らの優しさを無になど出来ない。・・・その程度の時間なんて惜しむほどの価値などないさ。


 時間がゆっくりと流れていく。一通りの埋葬が終わった後、彼らはお礼がしたいといって宴を開いてくれた。といっても木の実やキノコなんかだが俺の体によじ登りながら接してくれる彼らに心の痛みが消えていく気がする。・・・彼らはそれを知っていたのかもしれないな。

とりあえず、危なげなく盗賊団は追い払いましたが・・・


メイ「ここまでは当たり前の話ですね。リュウト殿があのようなものたちに後れを取るはずがありませんから。ですが・・・」


ええ、前回レーチェルが心配していたとおり逃がしてしまいましたね。そして傷心を癒す為とはいえ油断しすぎるぐらいしていますから


メイ「いやな予感がいたします。リュウト殿は正攻法では無敵に近いですが・・・優しすぎる彼を封じる方法など手段を選ばなければいくらでもあるのですから。」


そうですね。相手は弱くとも手段を講じられる状況にあり、そしてそういう手段をとることに躊躇をしない相手ですから・・・。


メイ「リュウト殿、あなたは我が国に・・・アキにまだ必要な人よ。どうか無事に・・・笑顔で帰ってきて。私からはそれだけよ。」


では、今回はこの辺でお別れと行きましょう。次回もよろしくお願いしますね~!

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