5話 「開放! 第2封印!」
カチリ・・・そう音が聞こえた気がした。脳裏に浮かぶはきっちりとかみあい回り始めた歯車のイメージ。今なら・・・今ならきっと使えるわ。
「いくわよ、リュム。竜神剣・・・第2封印、解除!!」
力が回る、力が溢れる。それを受け流し、最小におさえる。今はこんな大きな力は要らないし、使えるとは思えないわ。今、必要な力は・・・この能力!
「リュム! 頼むわ!」
「・・・よかろう。力よ、我に集え。『地力同我』!」
灼熱の地獄のようだったあたりの温度が急激に下がっていく。いえ、あたりの炎が、火の力がリュムに、竜神剣に吸い込まれていく。・・・えっ?
「な、何? この光の力は?」
新しく開放された竜神剣の力は『周囲に存在する属性の力を魔法剣として取り込む』こと。今回は周りにある強力な火の力を取り込むことが目的だったんだけど、何故かそれ以上に強力な光の力も取り込んできている。
こんな力なんてあたりにあったように思えないのに・・・これは天界自体が持っている力だというのかしら? とてもそうとは思えないのだけど・・・それにたぶんこの力、私の全パワーよりもずっと強いぐらい。
「まぁいいわ。これだけの力があれば十分すぎるわね。・・・アシュラ、ありがとう。」
「ふん、なんのことだ?」
本当に素直じゃないんじゃないんだから。あなただって理解してるでしょう? 初めて使う力、思ったよりも時間がかかってしまったけれどアシュラがその間は戦ってくれていたから私はこの力の発動が出来たのにね。
「さぁ、これが正真正銘、最後の一撃よ! 竜神流・・・火炎竜尾斬!!」
炎の竜の尾にうたれた植物の巨人は声も無く(出せないのかもしれないけど)業火に包まれ・・・わずかばかりの灰を残して消え去った。
「ようやくたどり着いたな。しかし高い木だなぁ・・・これ登って取らなくちゃいけないのか?」
僕たちはレーチェルさんに聞いた木の根元にいる。近くで見ると益々高いこの木、登って取るのは少々大変かな。
「えっ? ああ、それは私に任せて。・・・はっ! とっ! えい!!」
なんか少し浮かない顔で考え事をしていたリュウトが僕の言葉を聞いて上に向かって剣を3度振る。その剣風によって見事に3つの木の実が落ちてくる! うん、やはりリュウトの剣技は凄い!!
早速、落ちてきた木の実を僕はパクって食べる・・・ボンって音がしたような気がするのは気のせいだろうか。ともかく気がついたときには私は女の子に戻っていて一安心。変化する時はいったん気を失ったり、言葉遣いや性格は徐々にだったのに戻るのは一瞬なのね。まぁ、そのほうが嬉しいからいいんだけど。
「ムッ? リュウト、どうしたのだ?」
隣ではアシュラも元に戻っていて、なんとなくホッとしている様に見えるんだけど・・・リュウトは手に持った木の実をじっと見たまま食べる様子がない。
「えっとね・・・私、このままでもいいかな~、なんて。」
その瞬間、少なくても私の時間は確かに停止していたと思う。確かにリュウトの方が先に食べてたし、私も結構、際どいところだったよ? でもね、恋人が女の子に戻ったのに自分も女の子で良いって言うのはどういうことかな~?
「だからね、これはポイって・・・えっ?」
リュウトが投げ捨てようとした木の実を私は無言で奪い取って二つに割る。そして同じように無言で隣に立っていたアシュラに半分を渡して
「え、えっと・・・アキ? アシュラ? 一体、何を??」
リュウトはちょっと青ざめながら後ろに後ずさりしたけど、私とアシュラがガシッと肩をつかんで逃がさない。
「貴様はオレのライバルだろう? ・・・女をライバルにせんという気はないが、貴様は戦術的に筋力のある男(魔力は女Verの方がある)の方が強い。」
「え、えっと・・・魔法をふんだんに使う魔法剣士も強いんじゃないかな~って思うんだけど・・・」
ちょんちょんと私がリュウトの肩をたたくとちょっと虚どけた目でリュウトが私を見る。
「そなたは私の恋人だろう? 私はノーマルのつもりなのだが?」
「え、えっと・・・仲のいい友達じゃ駄目・・・かしら?」
うん、駄目。絶対に駄目。だからね、結局のところ、早い話・・・
「「とっとと食べるのじゃ(食え)!!」」
私とアシュラが無理やりリュウトの口に木の実を押し込み・・・ボンという音と共にリュウトが男に戻る。
「ふぅ、助かったというべきだな。悪いな、アキ、アシュラ。・・・悪いついでに少し向こう向いていてくれ!」
やっぱり戻るときは即効性があるみたいで、すぐにリュウトが元に戻ってくれたのは嬉しい。で、つい抱きつきかけた私を制して向こう向いていてくれってどういうことかな?
「あ、あのなぁ・・・さすがに今の状態でこんなピンクのワンピースなんて着てられるか!! 元々、女の時だって嫌だったんだぞ!?」
へ~、でも、さっきまではむしろ着ていたかったんじゃないの? う~ん、リュウトの女装って結構似合っていて可愛いから、ちょっと残念かも? そりゃ、普段からやられてたら嫌だけど・・・たまにはねぇ?
一向に見つめたままに動かない私に業を煮やしたのかリュウトは自分から木陰に隠れて持ってきていた普段の服に着替えてきた。そうだね、やっぱりこっちのほうがリュウトって感じはするよ。・・・やっぱり、ちょっと残念だけどね。
「ムッ? アシュラはどこに行ったのじゃ?」
ふと気がつくとアシュラがいなくなっていた。ひょっとすると・・・
「ああ、あいつなら早々に帰って行ったぞ。帰るだけならあいつならなんら問題ないからな。さて、俺たちも帰るぞ。」
「きゃ! りゅ、リュウト・・・なにを?」
当たり前のように私をその・・・お、お姫様抱っこで抱えて帰ろうとするリュウト。さっきまで女の子だったからか少しいつもと匂いが違うけど、リュウトの匂いが近くて、顔も近くて、息遣いも心臓の音も良く聞こえて・・・きっと私の顔は真っ赤だったと思う。
「エネルギーはまだ足りていないだろう? それに火傷も酷いからな。」
「や、火傷はリュウトも同じじゃない!!」
「忘れたか? 俺は自分の体なら治せるんだぞ? まぁ、見た目は少々悪いがな・・・さ、レーチェルのところに行って治してもらうぞ。」
そうリュウトは笑ってしっかりと私を抱きかかえながら器用に触手たちを避け、切り裂きながら飛ぶように抜けていく。・・・ひょっとしたら本当に飛んでいたのかもしれないわね。今のリュウトなら空気を固めて蹴る位は出来そうだわ。
ちなみにリュウトは『俺はいい!』なんて言っていたけど、結局リュウトもこのままだと火傷が残るからって治療を受けさせられてた。うん、当然だよね! だってリュウトは男だけど可愛いんだもん! 火傷なんて残しちゃ絶対に駄目!
おまけ
「メイ、帰ったぞ!」
「お帰りなさいませ・・・女王様もリュウト殿も戻ってしまわれたのですね。」
・・・お姉ちゃん? なんでそこで残念そうな顔をするのかな~?
「・・・メイよ。で、今隠した紙はなんじゃ?」
ふふふ、お姉ちゃん? 私もそんなに甘くないからね? 何か凄いこと隠してない?
「あ、いえ・・・これはなんでも・・・あっ! りゅ、リュウト殿!?」
隠そうとしていたお姉ちゃんから素早くリュウトが紙を取り上げる。身体能力ならリュウトの方がずっと上だもんね! 普段はまったく頭が上がらないみたいだけど。
「何々・・・『この饅頭を食べると性別が反転します』これはあの饅頭の説明書?」
読んでいたリュウトが呆れた声をあげる。・・・つまり、お姉ちゃんは初めから知っていて私たちに食べさせたんだね?
「リュウト・・・続きを。」
「あ、ああ・・・『食べた後、気を失いますがこれ自体に危険性はありません。その後、徐々に性格や言葉遣いにも変化が出ますが、変化を速めたい場合は2つ以上食べてください。なお、効果は3日間であり、個人差はありますが3日後には元の性別にお戻りになります。』・・・だと。」
ふんふん、つまりぜ~んぶ知ってたんだね? 知っていてリュウトに2つめを食べさせようとしたり、三日間我慢すれば治るってこと教えなかったり・・・うふふふふ♪
えっ? この後? ごめんね、エルファリアの国家秘密指定にしちゃったから教えられないの!
えっ、○月×日ですか? その日は何故か女王様とメイ様はお酷い怪我をして執務室に居ました。ええ、数日間お互いに顔をあわせようともしませんでしたよ。喧嘩でもされたのでしょうか? (エルファリア宮殿勤務メイド談)
無事に3人とも元に戻れてめでたしめでたし! ですね。
アキ「・・・しなくてもいい苦労をさせられたということだがな。3日で戻るとわかっていれば、あんなに焦ることもなく楽しむ余裕もあったかも知れぬのに。」
それじゃ面白くないと踏んだのでしょうね。レミーが原因を作り、レーチェルが計画を立てて、メイが楽しむために実行をしたと・・・最高のトリオですね。
アキ「やられるほうとしたら最悪のトリオじゃ! まだレーチェル殿は他の目的があったようだから良いとしても・・・レミーとメイは何とかならんものか?」
なんともならないでしょう。レーチェルだって鍛えるだけなら方法なんて万とある中、あれを選んだのは・・・どうせなら(自分が)楽しくでしょうしね。
アキ「・・・あの3人が最強の敵なのではないのか?」
どうでしょう? ある意味正しいかもしれませんね。といったところで次回予告を
アキ「うむ、エルファリアに入った急報! 心優しき森の種族『カーバンクル』を狙う魔の手は!? 彼らを救うために駆けつけたリュウトだけど・・・次回竜神伝説第3部7章『優しさと非情』リュウト・・・あなたに人間は斬れるの?」




