1話 「贈り物」
「女王様、今朝ほどこのような物が届いていたのですが・・・」
ちょっと困惑したような顔でお姉ちゃんが持ってきたのは・・・お饅頭? なんでそんなものに困っているんだろ?
「ふむ、特に何の変哲もないものに見えるが? しかし、美味そうだな・・・さっそく一つ貰うとしよう。」
えへへ、何だかんだいっても私も女の子だもん。甘いものは大好きなのよね! ケーキとかだともっと嬉しいんだけど。
「ちょ、ちょっとお待ちください! あっ! リュウト殿、いいところにおいで下さりました。これを食べてもらえますか?」
「ん? ああ、かわまないけど。」
なんで私よりも先にリュウトなんだろう? いや、別にそんなにすぐに食べたいとか、リュウトの方が優先なのが嫌とかってことはないんだけど、ちょっと疑問ね。・・・賞味期限でも切れてた?
「で、リュウト殿? お体に変わったところはありませんか?」
「へっ? 別になんともないぞ?」
・・・お姉ちゃん、ひょっとして、ひょっとしたりする?
「どうやら毒は入っていないようですね。では女王様どうぞ。」
「ブブッ!?」
ああ、やっぱり。さすがのリュウトも知らないうちに毒見やらされていたとなったら驚くよね。っていうか私のリュウトに無駄に危険なことやらせないでよ~~!
「・・・メイ、リュウトに毒見などやらせるでない。他に適任がいるのではないか?」
「リュウト殿でしたら少々の毒ではお命を落とすことはないかと思いまして・・・もっとも適任かと。」
「あ、あのなぁ・・・俺はレミーと違って毒耐性はないぞ。確かに普通の奴よりは生き残る率は高いとは思うが・・・。」
そうだよね。レミーなら絶対大丈夫だろうけど・・・思いだすなぁ、レミーが自分の毒料理を食べてもなんともなかったことに疑問を持って聞き込みして回ったこと。結局、レーチェルさんの『ああ、あの子は体質なのか毒が効かないのよ』の一言で納得しちゃったんだけど。・・・まぁ、まったく効果なしじゃ毒見にならないけどね。
「次回からは他の者にするように・・・ふむ、なかなか美味ではないか。」
とりあえず毒ではなさそうということで私に回ってきたお饅頭をもぐもぐと食べる。適度な甘みが美味しいな。・・・なんて思っていたら
「・・・むぐっ!?」
へっ? りゅ、リュウトが倒れちゃった!? も、もしかしてこれって!! あ、私も・・・意識・・・が・・・
「じょ・・・ま! だ・・・で・・・か!」
うう、私・・・一体どうしたんだっけ?
「女王様! お気づきになりましたか!?」
お姉ちゃん? ・・・目を開けた私の視界に移ったのは心配そうな顔をしているお姉ちゃん・・・あれ? ちょっとだけ私をからかっている時の楽しげな顔が覗いた様な? それにお姉ちゃんの隣にいる女の子は誰? でも、どこかであったような気がする。それにその服ってリュウトの? サイズも合ってないみたいだし。
「メイ・・・一体、私はどうしたのだ。」
あれ? なんか声がおかしいな? ちょっと低くなっているような??
「その大変面白い・・・じゃなくて、困ったことになっていまして。とりあえず鏡をご覧下さい。」
お姉ちゃん? なんか初めに本音が出ていなかった? う~、一体、鏡がどうしたって・・・え? 鏡に映っているのは女の子の服を着た男の子。いえ、正確には私と同じドレスを着た男の子ね。なんかちょっと可愛いかも♪ じゃなくて!
くるって後ろを向く、誰もいない。鏡を見る、映っているのは男の子だけ、私の姿はない。右手を上げてみる、鏡の中の男の子も右手を上げる。ポッペをつねる、鏡の中の男の子も・・・
「ええ~~~~!! なんで!? なんで~!!? なんで、私が男になっているのよ~~!!」
やっぱり、アレ!? さっき食べたお饅頭の所為!? ん? ってことはそこにいる女の子は~?
「ひょっとして、あなた・・・リュウト?」
私の問いかけにちょっと顔を赤くした女の子は
「あ、ああ。俺も気づいたらこうなっていてな。」
どうやら意識して声を低めに出しているみたいだけど、それでも普段のリュウトよりはちょっと高い。う~ん、確かに細かいところは変っているけど、元々童顔で可愛い系のリュウトだからそこまで違和感ないかも? なんか凄く可愛いし! 両方性別変ったんだから問題ない・・・わけないよね・・・はぁ。
「とりあえず、女王様とリュウト殿には後で今のお姿にあった御洋服を用意いたします。」
まぁ、さすがにこの格好じゃおかしいもんねぇ。私としてはズボンとかは別に女の子でもおかしくないものだからいいんだけど・・・
「ちょ、ちょっとまて! それは俺に女装をしろと!?」
「女装ではありませんわ。・・・今のリュウト殿は女の子なのですから♪」
そりゃ、リュウトは嫌がるよね。反面お姉ちゃんはすっごい嬉しそうだし。絶対、男でも女でも通用する服なんて選んでこないわ、この人は。
そして
「うう、何でこんな事になったんだ?」
『リュウト殿は女の子の服の着方なんて知らないでしょうから』とお姉ちゃんに隣の部屋に引きづられて行ったリュウトが戻ってきたときはちょっと涙目で可愛らしいピンクのワンピースなんて着せられていた。お姉ちゃんはなんかニコニコと満足げに満面の笑みをたたえているし・・・一体何があったんだろう?
「でも、私やリュウトの性別が反転したなんて知られたら問題だから仕方ないよ。特にリュウトはそのままだとばれそうだから、変装だと思って・・・ね。」
とりあえず励ましてみる。しぶしぶ『わかった』なんていっているけどたぶんわかってないんだろうな~。さっきの私みたいに頭が働いてない状態じゃなければあなたはすぐにばれるよ? だってリュウトは元々女顔なんだから・・・。
「でもね~、私、ちょっと気に入らないかな~。」
「な、なんだ?」
リュウトが私の顔を見てちょっと逃げるように身を引く。そんなに怯えることなんじゃない? でもね~
「なんで(本来の)私よりもスタイルいいかな~。特にこの胸!!」
ちょっと(ほ、本当にちょっとだけよ? 私だってそんなに小さいわけじゃ・・・)嫉妬も混じってギュっと掴んでみる。ムッ、大きさだけでなくて形や手触りまで・・・うう、悔しいよ~~!!
「んなこと俺が知るか~~~!!」
こうしてリュウトの叫び声が再び部屋に響き渡ることになったり・・・てへ。
「はぁはぁ、そんなことよりも元に戻る方法を考えるべきだろう!」
しばらくたって息をちょっと切らせながら顔を赤くしたリュウトが提案する。とはいっても原因がたぶんアレってことしかわかってないし・・・どうしよ。
「もう一回食べてみてはどうです。とりあえずリュウト殿から・・・」
お姉ちゃんの提案だけど・・・それってまたリュウトに毒見させる気でしょう?
「もっともだけどな。それが性別の反転薬だとして、俺の本来の性別は男である以上もう一つ食べて元に戻るかはわからないんだよな。逆に悪化する危険性もあるわけで・・・」
うん、2つ食べて性格や最悪記憶まで・・・なんてことになったら困るしね。で、なんでお姉ちゃんは残念そうな顔をしてるのかな?
「ねぇ、お姉ちゃん・・・このお饅頭は誰から送られてきたの? その人に会うのがとりあえず手っ取り早いんじゃないかと。」
「それが、差出人が書いていなかったのです。それで毒見をしてもらったわけで・・・」
そんなものを女王に、妹に出してきたお姉ちゃんも凄いけどね。
「差出人以外も何も書いてなかったのか? メッセージとか・・・」
「一応一言だけ・・・『リューくんとあーちゃんへ』と。」
・・・うん、間違いなく差出人はあの子ね。なんで毎度毎度こうトラブルばかり呼び込むんだろ? で、お姉ちゃんわかってて、楽しんでいるでしょ?
「はぁ、とりあえず行く場所は決まったな。」
うん、天界だね。でも、あそこにはレーチェルさんもいるっていうのがちょっと心配だな・・・。
やっぱり平和な世界にトラブルを呼び込むのはあの天使! 本当に天使のカテゴリーに置いていてもいいんだろうか?
メイ「楽しくていいではありませんか。」
そりゃ、被害を受けていないものはな。傍観に徹しられるならあれほど近くにいて面白い奴もそうはいないだろうが・・・当事者にはたまったもんじゃないぞ。
メイ「ふふ、今回は大丈夫ですよ。だって、あの方が気づいていないとお思いですか?」
・・・? ああ、そういうことか。で、そういうキミも一枚かんでいたりしないか?
メイ「いいえ、私はただ受け取っただけですよ?」
ふ~ん、じゃあそのメモは一体なんだ?
メイ「・・・一緒に送られてきたものですわ。では、今回はこの辺でお開きに。」
あ、こら! 勝手に終わらせるんじゃ・・・ま、まて~~!!




