5話 「始まりの結末」
「いくぞ、リュム! 竜神剣・・・特別モード、強制解除!」
久々の特別モード、第2封印を解けない以上は臨時のこのモードが俺の最高の状態といえる。ビリビリと伝わってくる力と痛み・・・こっちは長時間使えないのは変わっていないようだな。
「ふん、本気になったというわけか。ならば、オレの本気も見せてやろう!」
その宣言と共にあふれ出す瘴気。観客に被害がないように作られた結界すらも揺るがす・・・!? って大丈夫か!? ん? より強力な結界が内に追加された? そうか、レーチェルか! 彼女ならば安心だ。どちらかというとむしろ
「ぐぅぅう・・・」
ついこぼれる苦悶の声。アシュラが強くなったのに伴って発生する瘴気の量も増したようで俺でもこの中ではまともじゃいられそうもない。本当に・・・敵じゃなくて助かったよ、アシュラ!
「いくぞ、リュム・・・わかっているな。」
「・・・主の考え一つ見抜けなくて何が剣だ。そなたの思うがままに戦うがいい。サポートは我に任せろ。」
心強い言葉を得て、視界さえも悪くなったようにさえ感じるどす黒い瘴気の中を駆け抜ける。特別モードもこの瘴気も長時間など耐えられるわけはない。ならば、全力で! 瘴気を中和しつつ短期決戦を仕掛けるしかない!
「竜神流剣術・・・無風!」
風をおこさす、空気をゆすらずに繰り出された斬撃・・・それはたしかに避けにくい一撃のはずだった。
「ふん、たしかに面倒な技だ。だが、速度が伴っていないならそれ以上にはならん。」
だが、アシュラにとってはまだ効果のない技のようだった。風などなくても他の情報でそれを補い、最小の動きで避けていく。そして
「ほら、後ろががら空きだ。」
まるで、転移魔法を思わせる速度でアシュラは後ろに回りこみ・・・間接を決めそのまま投げてくる。アシュラがその気だったら腕をへし折るぐらいは簡単だったな。どうやらまだ俺は手加減をされる立場だということに変りはないようだ。なら、色々試させてもらうとするか!
「ならば、これでどうだ!」
風の魔法をフルに使い、俺は飛行する。初めてやった技なのだが案外上手くいくものだな。そして、30mほど上空から竜神剣を変化させた弓で狙い打ってみる。
「貴様は・・・オレが空を飛ばれたぐらいで不利になるとでも思っているのか!」
距離はたかだか30m、ジャンプ一番であっさりと並び、皮膜を使った(むりやりの)飛行を瞬間瞬間に使いながら俺以上の速度で自在に空を飛びながら攻撃してくる。くっ、これはむしろ空中にいたほうが不利だ。
「竜神流! スタースクリュー・タイプA!!」
地面に降りながら放った広範囲に有効なはずの高速の竜巻も掠りさえもせず、俺たちは再び地面にて向き合った。
「はぁはぁはぁ・・・」
「くっくっくっ、リュウトよ・・・その程度で限界などという世迷言はいうまいな?」
一方的に息を切らせているのは俺だけでアシュラは息どころか汗の一つもかいていない。今のアシュラは間違いなく魔王たちなどよりもずっと強い! そういえば、この試合が始まってから俺はアシュラにただの一撃も有効打を与えられてすらいないな。
「どうした? 貴様の本当の力はまだこんなものではないはずだ・・・さぁ、見せてみろ! もっと、もっとオレを楽しませろ!」
そう・・・だな。まだ俺はお前相手に加減なんて出来るほど強くないみたいだ。心まで本気で・・・殺すつもりでやらせてもらう!
「くっくっく、そうだ・・・それでいい。さぁ、リュウト! 貴様の力! オレに見せつけてみろ!!」
だというのに・・・普通のものならば近づいただけで気を失いかねない殺気をもろにあびてアシュラは嬉しそうに笑う。まだアシュラは本当の意味では本気を出していない。ただ本気を出せる状態になっているというレベルなのだろうな。
「アシュラ、泣いても笑ってもこれが最後の一撃だ・・・。」
「いいだろう・・・来い!」
全ての力を剣に込める。全ての思いを剣にゆだねる。残すものなど何もない、ただ全てをぶつければそれでいい!
「いくぞ、竜神流! 風竜斬!!」
天竜斬は今の俺では単独で使える技ではない。・・・サタン戦が特別だったと見るべきだろう。無論、火炎風竜斬もだ。つまり、これが今の俺が使える最高の技!
「ほう?」
アシュラの僅かに感心したような声。それは無論、風竜斬に対してではない。そんな一撃では奴には通用しない。光と風の融合、エネルギー放出のブースト、つまり刹那にさらに風の放出で加速する・・・いうなればアシュラの修羅瞬雷撃の俺バージョンってところだな。
キン・・・響き渡る軽い音、それほどの加速をもってしてもアシュラに当てることは叶わず、その鋼鉄の爪を切り裂くことも出来なかった。突き上げを受けて空に投げ出される俺の体・・・だが、まだだ!
「うおおおお!」
響くは俺の咆哮! まだ容易に負けるわけにはいかない! 最大出力で後方に排出した風の反動で勢いを殺し、逆にアシュラに突撃する。無論、風竜斬の力もまだ生きている! そして飛び散る鮮血・・・アシュラの体を掠めた剣は確かにダメージにはなったようだ。だが、それだけだな。それにきっと・・・避けようと思えばあいつは避けれたのだろうしな。
「今回は俺の負けだな。完敗だよ。」
俺の頭にはアシュラの爪が押し付けられている。・・・結局勝てなかったか! だが、悔しいとは思えないな。なにせ
「ふん、これで1勝2敗だ。まだ1敗分借りがある・・・これで終わりじゃあるまい?」
「ああ、俺たちの戦いはまだこれからだろ。次は負けんさ。」
そうだ、きっと俺たちが生きている限りこの戦いは続く。俺たちは・・・ライバルなのだから。
「そこまで! 勝者、アシュラ=ストロングス! 試合時間38.47秒!」
審判をやっていたコクトの勝利者を告げる声が響き渡る。・・・しかしそんなに長く戦っていたんだな。
戦いの決着! リュウトが負ける戦いは意外と珍しいですね。
リュウト「意外というのが気に入らないが(一応主役なんだが?)俺は結構薄氷の勝ちを拾ってきているからな。今までの戦いで実力的に俺の方が勝っていた戦いってそう多くはないだろ?」
そうですね、名も知らぬ雑魚を別にすれば・・・ガーゴイルキングにナイトメアとカーミラぐらいのものかな? コクトは向こうの精神的なものだし(実力的には互角)。
リュウト「そういうこと。だから負けが今回で2度目だって言う方が驚きで確かにあっているのかもな。」
ママナ「ちょっとまった~~!!」
ん? どうした、ママナ?
ママナ「どうしたじゃな~い! 私、一応特別ゲストでここにいるのにまったく出てきてない!」
・・・そりゃ、『ゲスト』だからじゃないかな? たぶん・・・『ママナも見たいだろうから見やすい席に招待しておこう』・・・って感じだったんじゃないか、アキは。
ママナ「ええ~、じゃ・・・私、出番なし?」
たぶん・・・。次回辺りは置いてきぼり食らってるあいつが出てきそうだし・・・。
ママナ「うっ、この場にいない人にまで負けるの? ・・・うぅ・・・ひっく・・・うわぁぁぁぁん!」
リュウト・・・後は任せた!
リュウト「こら! 厄介ごとを俺に押し付けるな! あっ! 逃げるんじゃない!!」
ではまた~♪




