1話 「相談とその結果」
「さて、これはどうするべきかな?」
俺を悩ますのは一枚の紙。さきほど近況報告だとやってきたコーリンさんが『ついで』だと言って俺に渡してきたものだ。内容は・・・簡単に言えば試合の申し込みだな。勿論俺とアシュラのだ。
それだけでどっちの用がついでだったのかは丸わかりだが、っていうか近況報告を口実にこれを渡しに来たんだろうが、試合自体は俺も楽しみにしていたものだからいい。問題は・・・
「日時の指定はしっかりしていて場所はこっちで選んでいい・・・ね。」
確かに場所っていうのは戦術に多少は影響を与えるが・・・その程度でどうこうなるほどの実力じゃお互いにないからなぁ。そりゃ、特殊な結界や罠でも仕掛ければ別だが、そんなものを相手が仕掛けるとはお互いに思ってはいないだろうし。どっちかといえば俺とアシュラが戦って周りに迷惑をかけない場所を探す方が大変なんだがな。あいつに話してみるか・・・
「それで私に相談に来たのか・・・。」
珍しく私の執務室にやって来たリュウトが何の用かと思ったら安全に戦える場所を知らないかなんて・・・リュウトらしいといえばらしいけど
「ああ、アキの他に相談が出来るやつがいなくてな。レーチェルという手段もあるんだが、あいつに頼るのは何かと危険だからな。」
うん、お姉ちゃんと同じで何を企んでくるかわからないからね。もっとも、これは私もお姉ちゃんに相談しないといけないかな?
そして
「そうですか・・・それはなかなか難しいですね。」
ああ、やっぱりお姉ちゃんもそう思うんだ。
「うむ、しかし他ならぬリュウトの頼みだからな。何とかしてやりたいのだが、いい知恵はないだろうか?」
「そうですね・・・安全というだけならいくつか方法があるのですが、それは女王様もお気づきになられているのではないのですか?」
うん、安全に・・・つまり周りに被害が及ばないだけでいいなら私もいくつか方法を思いついているんだけど・・・
「だが、その方法だとかなりの大規模でやらねばならぬ。そして音や光などまでは防げぬゆえに面倒なことになりかねん。」
本来、リュウトたちの技術ならば周りに影響を与えないように戦うことは可能なんだけど、万が一があると困る。それにエルファリアの正確な位置がエルフ族以外に知られるのもちょっとまずいし、他のところでやって騒動になるのも困るよ。
「はい、でしたら方法は一つでしょう。」
えっ!? 何か方法があるの! さすがお姉ちゃん!!
「一体どんな方法のなのだ?」
「我々は先の魔王たちの侵攻で荒れた世に騒動を起すべきではないと今回のことに口をつぐんでおりましたが、そろそろ凶暴な魔物の数も減りだし平穏になりだしています。もうそろそろリュウト殿のことを世界に示してもいい頃なのではないかと思っておりました。」
あっ! そうね!! となるともっと大規模にしても大丈夫だし・・・それに
「ならば、こうしたほうがエルフ族の為でもあるな。」
「・・・女王様は女王よりも商人の方が向いているかもしれませんね。」
失礼ね。これでもエルフみんなの事を考えてのことなんだから! ・・・ちょっとリュウトは嫌がるかもだけど。
・・・アキの『任せておいて!』 の一言に安心して何も聞いていなかったのが悪いのだろうな。やっぱ。
「なぁ、これは一体どういうことだ?」
「そなたの要望は叶えているであろう? エルフ族の宮廷魔術師が総出で結界を張っておる。そなたたちがどんなに暴れても周りに被害など与えんから心配せんことだ。」
まぁ、そこらへんは信用しているのだが・・・問題はこっちの方だよなぁ。
「あ! そこ行くお兄さん! 彼女さんに竜神様のお人形いかがですか!? お守りになりますよ!」
と、道行くカップルに声をかける売り子たち。なんで俺の人形がお守りになるのだろう? それ以前になんでそんなものを売っているのだろう? いや、さらに言うならこの溢れんばかりの人は一体なんだ?
「なぁ、一体これは何の騒ぎなんだ?」
「安全の確保は簡単なのだがな、目立つというのだけはどうにも出来なかった。ならば、いっその事目立たせてしまおうというわけだ。孤児院跡に作られた神殿の近くのこの広場なら広さは十分! そなたが復活してなおかつ英雄の一人であるアシュラと試合をするとなれば見物客も来るのが当然だろう?」
確かに折角平和になった世界に余計な疑心を与えるよりは何が起きるのか知らせたほうが良いというのはわかる。正体さえわかっていれば別に怖がることではないのだから余計にな。
だが、この周りがわからないんだが? 俺やアシュラをかたどった人形やらぬいぐるみやら食い物やら・・・その他考え付く限りの俺たち関連のグッズを扱っているこの出店たちはなんなんだ!
「なぁ、アキ・・・」
「結界を張るのにはさっきも言ったが魔術師たちが総出で動いていてな。我が国の財政状態はそなたも知っておろう? そなたの為とはいえ出費だけというわけにはいかぬのだ。」
まぁ、なんとなくわかりはするんだけど・・・そこまでエルフ族の財政って厳しかったっけ? 結構な額を俺が稼いでアキに(っていうか国庫に)渡しているはずなんだけど?
「ふん、誰が見ていようと関係がない。貴様との勝負には何の障害にもならん。」
アシュラが俺の隣を憮然と歩いているように見えたのは俺の気のせいか。たしかにそんなことを気にするような奴ではないな、こいつは。
「わ、わかったよ! 気にしているのはどうやら俺だけみたいだしな!」
半ばやけっぱち気味に言うと、アキはにんまりと笑って
「そうかそうか。ならば私も特別席で観戦させてもらうぞ。ああ、審判はコクトに頼んでおいた。実況はメイで、解説兼救護にレーチェル殿、特別ゲストにママナも呼んであるがそなたたちには聞こえぬゆえ安心するが良い。」
・・・そのどこら辺に安心できる要素があるのだろう? ほとんど俺たちの仲間勢ぞろいだな・・・コーリンさんもアシュラがいる以上どこかにいるだろうし・・・たぶんレミーが唯一呼ばれていないのはトラブル防止ってところだろう。
「・・・わかった。もう好きにしてくれ。」
アキがこういうところはしっかりとした結構抜け目のない女王であることを再確認して、俺は急遽作られた仮設の控え室に入るのだった・・・
リュウトVSアシュラ再び! そしてお金儲けの気配には敏感なアキでした。
アキ「その言い方はよしてもらおう。私はあくまでエルフのためにやっているのだ。」
どっちかというと女王よりも商人の発想だけどな。まぁ、メイに頼りぱなしではなくてちゃんと女王様やっているってことでいいんじゃないか?
メイ「私はあくまで補佐ですので。女王様は基本的には優秀なのです。女王様が淡々と処理をしているのはありきたりですので作品に出てこないというだけですわ。」
リュウトとしてはまさにこれこそ淡々と処理してもらいたかったことだろうにな。それにまだ何か企んでいるだろう?
アキ「企むとは人聞きが悪い。・・・少々やってもらおうと思っていることはあるが。」
え~、皆様・・・メインはあくまでリュウトVSアシュラですので! アキの企みは一時記憶の外に追いやってくださいね?




