8話 「終わらぬ夢」
「では、最後に私がお話しますわ。これは私が以前エルファリアに迷い込んだ旅人から聞いたお話です。」
うっ! できればお姉ちゃんの話は聞きたくなかったけど、そういうわけにもいかないんだろうな。どんな意図があるせよ、お姉ちゃんが私を怖がらせるのに手を抜くとは思えないからかなり怖い話を用意してる気がする・・・。
「そうですねこの物語の主役は男性なのですが、便利上Aさんとでも呼びましょう。ご自宅で眠りについたはずのAさんが目覚めたのは見知らぬ洋館でした。」
・・・ってそれはただの夢じゃないの? そりゃ悪夢って怖いけど、他人の悪夢の話なんて私でも別に怖いとは思わないよ?
「とうぜんAさんはこれは夢だってお思いになりました。しかし、どれほど時間がたとうとも目覚めることはありません。そもそも夢とはこんなにも思考がはっきりし、時間の経過がリアルに感じるものなのだろうか? 勿論、人によってはそのような夢もあるそうですが、あいまいな夢しか見ていなかったAさんにとってはまさに異常な状態と言えました。」
えっ? じゃあ夢じゃないの? それともやっぱり夢なの??
「ともかくこのままじっとしていても仕方がないとAさんは洋館の中を探索しはじめました。特に何の変哲もない部屋たち、しかし外が見えているにもかかわらずけして窓は開かず、何故かどこにも外への出口はありません。そのうち辺りは暗くなりはじめどこからともなく子守唄が聞こえてきました・・・。」
びくっ! 何! 今の!? 本当に子守唄が聞こえるよ~~~!!? でも隣にいるリュウトを見ると、彼はそんな状況でもまったく怖がってないし・・・
「はぁ、アキ・・・この声よ~く聞いてごらん。どこかで聞いた事ある声じゃないか?」
ん? そういえばどこかで・・・というよりもよく聞く声ね? えっと、これはひょっとすると
「これは・・・ルルの声か!?」
そうだわ! これは看護婦のルルの声。そういえば彼女はときおり小さい子の看護をするときにこうやって歌ってたわね?
「メイが何らかの合図で伝えたんだろ? この合図があったらこの場所で子守唄を歌ってくれって・・・」
あ~、なるほど! って! お姉ちゃん~! そこまで! そこまでして私を怖がらせようと? 他の人にはわからないだろうけど、ずっとお姉ちゃんの顔を見てきた私にはわかるわ! 今、リュウトが解説したとき悔しそうな顔したでしょ!?
「こほん、ではお話を続けましょう。ふとAさんが気づくとあたりは完全に闇に包まれていて歌も止まっていました。自分は寝ていたのか? だとするとやはりここは夢ではないのか? そんな疑問を感じながらまずは明かりを探そう・・・そう思ったそのときでした。『ぐるるる・・・』と獣のうめき声がすぐ近くで・・・」
『ぐるるる・・・』ひっ!? 今確かに聞こえたよね!? すぐ近くだったよ! リュウト~!!
「落ち着けって。あれは・・・」
「あはは、あーちゃんごめんね。今のはわたしのおなかの虫♪」
さすがね、レミー・・・。抜群のタイミングでそういうことやるんだ。なんでこの子は騒動を起すことに関してはこうまで天才的なんだろう?
「Aさんがその音に気づいた時にはすでに時遅く、彼はそこのいた何者かに頭から食べられてしまったのです・・・。」
えっ? ・・・ちょっとまって? それっておかしいよね? なんでそんな話が伝わっているの? あはは、お姉ちゃん奇を狙いすぎだよ~。さすがに私でもそれは作り話だってわかるよ?
「ですがAさんは死んではいませんでした。いえ、初めから彼が思っていたことが正解だったのです。ですが・・・そう、それがけして覚めない悪夢であるということを除けば・・・ですが。」
えっ? それってどういうこと? なんかアシュラが妙な顔をしてるのが気になるけど? リュウトも微妙な表情してるわね?
「気づいたAさんはこう思ったのでしょうか? なんだやっぱり夢じゃないかと・・・それとも今までの夢を忘れて再び彷徨ったのでしょうか? これはとある病院に運び込まれた目覚めぬ患者の夢を魔術師が解析した結果だと聞いています。真実は私も知りませんが・・・。」
あはは、それはきっと作り話だって! そうだって言ってよ! ね・・・アシュラ、リュウトォ~・・・。
「あいつはこんな下らぬ事をやっていたのか。」
「やっぱ、奴の仕業か?」
「ああ。もっとも、もうこんな事は起きぬだろうがな。」
なんなの? 2人でわかったって感じで!
「アキも落ち着いて考えればわかると思うけどな。頭の出来で言えば俺よりもいいだろう? ほら、いただろ? 夢を操る悪魔が・・・」
夢を操る? あ! ひょっとして!
「これはナイトメアのしわざか?」
「そういうことだ。下らぬ奴らしい悪戯だ。」
悪戯というには悪趣味だけど、それなら一安心かな? アシュラが魔界で倒したって言ってたし・・・。
「さて、そろそろうっとおしくなってきた頃だが?」
へっ? アシュラ、なんのこと?
「そうねぇ、こんな話をしてたから集まってきても仕方がないんだけど・・・1万を越えてるとなると面倒ね。どこから沸いてきたのかしら?」
えっ? えっ? え~~~!? れ、レーチェルさん・・・それってひょっとしてぇ~~~~~!
「まぁ、手分けすればそう時間もかからないだろう? 奴らは斬っても本来いるべき場所に案内するだけだから俺も気が楽だ。」
だ、駄目! 私、そんなのと戦いたくないし! そんなのがわんさかいる状況で一人なんて無理だよ~~~!!
「ふう、リュウト殿は女王様についていてあげてください。私も・・・退治は出来ませんがサポートはいたします。つまり・・・2人きりですね♪」
お、お姉ちゃん? まさか、これを狙ったの? となるとひょっとするとこの騒動も計画のうち? ど、どうやって幽霊を呼び集めたりしたのよ~~~~!!
自分の楽しみのためにはここまでやるか!? なメイでした^^
メイ「楽しみのためだけではありませんよ? 女王様とリュウト殿の為を思ってのことでもあります。」
割合的にはどれぐらいで?
メイ「・・・2対8ぐらいでしょうか?」
それは絶対に楽しみが8だな。しかし、本当にどうやって幽霊なんぞ集めたのだか・・・
メイ「迷いの森は長年の遭難者が多く漂っていますから。(リュウト殿たちにやられるという方法とはいえ)協力すれば成仏できるとお誘いしたらすぐでしたわ。・・・あんなに多く来るとは思ってもいませんでしたが。」
なるほど、成仏を餌に釣ったと・・・。まぁ、たかが遭難者の霊一万程度に負ける連中じゃないが、レーチェルがどこまで把握しているかと、彼女がサプライズを用意しているかどうかが問題だなぁ~。




