7話 「小さき脅威」
「では、次のお話は私がさせていただきます。」
いつもどおりに落ち着いたコーリンさんが丁寧な口調で言う。うう~、一番考えていることが表に出ない人だから困るよ~。気がついてない・・・とは思えないけど怖くない話をしてくれるのかって言うとまったくわからない。
「皆様は妖精、フェアリーをご存知でしょうか? 一般的には花の妖精辺りがメジャーかと存じますが、他にも多々いるものです。変ったところでは幼くして死んだ子供の霊が変化したといわれるピクシーなどもそうですね。」
死んだ子供の霊・・・一応怪談らしいポイントは押さえたってことなのかな? 他のことなら怖いって思うんだろうけど、これは怖くない。まだ、よくわからない震えは続いているけど怖いわけじゃない。だって・・・
「アキさんやメイさんたちエルフ族も分類上は亜人種ですが妖精族とも親和性の高い種族だと聞き及んでいます。」
うん、私たちエルフ族は亜人種と妖精族の中間的な立場だから。何故か向こうは私たちの事をリーダー扱いするけど私たちから見れば近しい仲間ってところかな? 勿論ピクシーたちもね!
「しかし、おそらく皆様の中に知っているものは少ないと思われますが、魔界にも妖精はいるのです。私がこれからするお話はかつて私がいた地域に伝わる妖精の逸話です。」
ま、魔界の妖精? ちょっと怖そうだけど、たぶん大丈夫。きっと大丈夫。仲間だもん! こ、怖くないよ・・・ね?
「妖精族の起源はいまだに良くわかっていないことが多いのですが、竜族同様に自然の何らかの象徴という説がもっとも有力視されております。もっとも脅威の象徴である竜族のような力は彼らは持ってはおりませんが、自然の異なる魔界では彼らの性質も少々変ってくるのです。」
うん、私は会ったことないけど地上でも海にいる妖精族は森の妖精族とはまったく違うって聞いた事ある。他にもシルキーみたいな家付きの妖精とかもいるみたいだし結構とらえどころのない種族だって言うのは間違いないと思う。
「この物語は少女・・・といっても魔界ですので悪魔なのですが、力の弱いか弱き少女の悪魔が森の中で体験した・・・といわれている物語です。」
も、物語だもんね? 逸話だもんね? 本当かどうかはわからないんだよね? べ、別に本当だったら怖いって訳じゃないんだけど・・・
「魔界の森にとある植物を取りに入った少女は足を滑らせた弾みで崖の下に転落してしまいます。幸い命にかかわるような高さではなかったのでしたが、足を捻挫し羽が折れてしまった彼女はその場から動けなくなってしまったようです。」
う、うん。定番といえば定番なお話よね? ちょっと羽っていう要素は加わってはいるけど目新しい話じゃないよね?
「少女が動けないうちに日は暮れて、夜がやってきます。折れた羽が熱を持ち、足もずきずきと痛んではいましたがよほど体力を消耗していたのでしょう。少女は危険な夜の森で眠りこけてしまうのです。」
地上でだって夜の森で火も焚かずに寝るのは危険だもんね。それにリュウトやアシュラは魔界では殆ど寝ずの番をしてくれていたぐらいだもん。
「幸い・・・と言っていいのかどうかは分かりませんが、少女は何かに襲われることもなく無事に朝日の光を浴びて起きることができました。そして誰かがやってきたのでしょうか? 彼女の足と羽には薬草が塗られ、飛ぶことは出来なくともなんとか歩けるようにはなっていたのです。」
よ、よかった・・・。きっと、薬草を塗ってくれたのが妖精族なんだよね? あれ? でもなんで無事だったのが幸いかどうかわからないの?
「痛む足を引きずりながら彼女は森の外に出ようと歩き始めます。ですが、彼女は気づいていました。いえ、気づいてしまいました。自分を見ている無数の視線があるということに。初めは気のせいかと思っていた彼女ですが段々とそれは確信へと変っていきます。そもそも自分に薬草を塗ってくれたのは誰なのか? また、なんでそこまでしてくれておいて自分を夜の森に放置していたのか? それは段々と冷たい予想へと変っていきます。そして『そこに隠れているのは誰! 出てきなさい!』・・・彼女はそう叫んだのです。」
はわわわ、なんかそれってまずいような感じがする! ううん、大丈夫だよね? 妖精たちは見守っていただけだよね? よくいる小さいタイプで運んであげられなかったんだよね!?
「『ギギ、ギギギ・・・』何かのうめき声のような声が聞こえ、茂みの中から爛々と輝く無数の目が見えました。少女は悲鳴が出そうになるのを押さえつつさらに言います『あなたたちは何! なんで私を付回しているの!?』っと。それは聞いてはいけなかった質問。いえ、どちらにせよ遅かれ早かれだったのですが、もしそれが起きるのがもっと森の出口に近い場所だったならば運命は変っていたのかもしれません。」
はわわわ、なんかもう嫌な予感しかしないんだけど・・・。た、たしかに妖精の中には悪戯好きなのも多いけど、これは・・・ひょっとして?
「少女の言葉に茂みから出てきたのは無数の小人でした。そうですね、もう少し体躯が大きければゴブリンと間違われていたかもしれません。もっとも最下級の魔族である彼らと混合することはさらなる危険なのでしょうが。そして彼らは言います。たった一言だけ『・・・食わせろ』と。」
ひっ? 人食い・・・じゃなくて悪魔食いの妖精!? それは怖いよ~~!!
「その言葉に青ざめた少女は夢中で逃げます。けれど、彼女の足はあろうじて歩ける程度の状態。そんな状態で走ろうとすればすぐに転び、でも再び夢中で走りの繰り返しです。そして小人たちはその様子を楽しそうに笑いながらゆっくりとついてくるのです。そう、彼らが彼女の足を治したのは・・・これを楽しむためです。」
うう~、酷いよ~! 可哀想だよ~。あれ? でもそんな逸話が残っているってことは彼女は無事だったんだよね!?
「その後、彼女がどんな目に会ったのかはわかりません。ただ、わかっているのはその近辺では比較的力のある若い男の悪魔が彼女を発見した時にはすでに彼女が虫の息だったということ。無残にも食い裂かれた彼女はここまでを語って息を引き取ったそうです。」
あはは、そうなんだ・・・た、助からなかったんだ。その子・・・。うう、なんで皆そんな平気そうな顔してるのよ~!!
「その後、その妖精は魔界の木霊だろうと言われ、デビルスピックなどという名が与えられましたが、度重なる討伐隊の調査でも彼らは発見できなかったといいます。真実を知っているのはきっとその少女だけなのでしょうね。」
うう、魔界って木霊もそんな危険な常態になるんだ。・・・まぁ、木霊自体が危ないといえば危ないけど。いつの間にか隣にいてくれたリュウトに私はギュっと抱きつくと
「心配するな。もしそんな奴らがアキのところに来たって俺が守ってやるぞ?」
・・・あっ!? そうだよね! 考えてみれば妖精なら私も戦えるもん! それにリュウトと一緒なら・・・怖いものなんてない気がする。
そんなことをいつものようにさらさらと髪を撫でてくれるリュウトの手の心地よさを感じながら考えてた。うん、もう怖くないよ。ありがとう、リュウト。
・・・でも、次は恐怖の大魔王なんだよね。ブルブル・・・
今回は妖精のお話。わりかしよくある部類の話でまとめてみましたがどうだったでしょうか?
アキ「うう~、コーリンさんの語りが大人しかったからまだ良かったけど、語り方次第では結構怖い話だったよ~!」
・・・アキが素のモードになっているということがその証拠ですね^^
アキ「はっ!? ムッ、あ、あれでは子供の夢を壊してしまうではないか! 妖精とはもっと可憐なものだろう!」
いまさら女王モードに戻っても♪ それにそんな妖精ばかりじゃないですしね。作中に出てきた木霊は日本のものですが、木を虐めるものを木に変える妖精ですし、実際にはエルフの他にゴブリンやトロールなんていった怪物に分類されがちな奴も妖精です。
アキ「・・・本当に分類的には多岐にわたっているな。」
まぁ、コーリンの言うとおり花の妖精が一般的ですし、リャナンシーとか女王ティターニアとか可愛らしかったり綺麗だったりする奴らが多いのも事実ですからね。きっと、そのイメージが強すぎてそうじゃないものが妖精と認識されないのでしょう。特に日本では^^
アキ「まぁ、それはどうでもいいのだが・・・問題は次回だな。」
そうですね、メイはメイで企んでいることがあるようですが・・・だからといって怖がらせることに手を抜くかといえば・・・。
アキ「そんな相手ではないだろうな・・・。ふう、耳でも塞いでいようか。」
余計危ない気もしますけどね? その場では良くても><




