1話 「水の洞窟にて」
なんで? なんでこんなことになったのだろう?
たしか久しぶりに皆の都合があって・・・アシュラもリュウトが半ば強引に連れ出してきて(何故か帰ってきたリュウトはズタボロだった)・・・皆で楽しくお喋りしてたはずなのに・・・。
「ねーねー、なんか面白い遊び知らない?」
「そうですね・・・では百物語などどうでしょう? ねぇ、女王様?」
・・・レミーのトラブルとお姉ちゃんのからかいのダブル攻撃か。うう、だ、大丈夫! 私、もう大人だもん! きっと、大丈夫だよね?
「じゃあ、俺からはじめるとしようか。」
私がこういう話がちょっと・・・本当にちょっとだけ苦手なんて知らないリュウトが先ず話し始めようとする。大丈夫、リュウトの話だもん! きっと怖くない!
「アレはまだ俺がアキと出会う前・・・竜神の力も継承してない頃だった。当時の俺はな、まぁ所謂やんちゃ坊主って奴で、あっちこっち冒険してたんだ。で、当時俺が暮らしていた孤児院で休憩していた冒険者から面白い話を聞いてな。」
こ、これはリュウトの体験談? い、いえ、ただ聞いただけのお話だよね? そうだよね!?
「話自体はよくある話でな、恋人に先立たれた女性が悲観のあまり自殺した洞窟があって、そこにその女の霊が出るって言うものだ。そう、悲しげにすすり泣く声と料理好きだったという彼女が研ぐ包丁の音が聞こえ・・・そして聞いてくるのさ。『あなたは私の恋人になってくれる?』って。」
だ、大丈夫・・・きっとこれはその冒険者さんがまだ小さいリュウトに語った作り話よ! そうに決まってるんだから・・・。
「よくよく話を聞いてみるとな、結構近いんだよ、孤児院からその洞窟。」
「ん? ああ、ということはあの洞窟? でもあそこは・・・」
えっ!? ま、ママナも知っているの!?
「ママナ、それは言っちゃうと面白くないから。まぁ、当時冒険に飢えていた俺がそんな話を聞いて黙っていられるわけもなく行って見たんだよな。正直、行かなければよかったと後悔したんだが。」
えっ? あのリュウトがそんな風に思うなんて・・・い、一体何があったの!?
「洞窟の中はひんやりと冷たい空気に満ちていて、その床は水で覆われていた。ぴちゃん、ぴちゃん・・・と天井からたれる水音がまるで涙のような気がした。」
うう~、こ、怖いよ~。ううん、怖くない。怖くないもん!
「その洞窟は構造上の理由で奥から常に冷たい風が流れているんだが、その風に乗って聞こえるんだよ。『うう、恨めしい、悔しい、悲しい』ってな。」
はわわ! 駄目! それは絶対危険だよ~、それ以上先に行っちゃ駄目~!
「背筋に冷たいものを感じながらも俺はその洞窟を進んだ。シャリ、シャリってまるで刃物を研ぐような音が奥から聞こえてきて・・・いや~、あの時は冒険してるって感覚で楽しかったな!」
へっ? 楽しい? ・・・まぁ、それはある意味リュウトらしいというか。うん、きっと何にもなかったんだよね?
「だけどな、奥に待っているのがあんなものだと知っていたら、俺は絶対に近づかなかったと思う。」
急に青ざめた顔で語るリュウト、隣ではママナがうんうんと首を縦に振っている。い、一体何があったって言うの!? ま、まさか、本当にゆゆゆゆ、幽霊が!?
「水音と恨めしげな声が響く洞窟を進んでいくと広間のような場所に出た。その中央にはコポコポと水の湧き出る泉があって、その傍には女性がいたんだ・・・。俺の足音に気づいたその女性はゆっくりと振り向いて、その手にはさび付いた包丁が・・・。」
あはは・・・もう駄目。なんか意識が・・・
「でな、振り向き様に言うんだよ。『あれ? リュウトくん、こんなとこで何してるのかな~?』って。」
へっ? なんかいきなり展開が変ったような? っていうかその口調どこかで聞いたことあるような?
「やっぱり、オチはそれだよね。えっとね、リュウトの言う洞窟は水の洞窟って言われてて、近くにすむ魔物や人が水をよく汲みに行くの。あそこだけは魔物も人も争わないって言うのが暗黙のルールでね、当然行ってたんでしょ? マリアも。」
「そういうことだ。あの辺りは天然の研ぎ石もあってな、姉さんは普通に水汲みのついでに包丁を研いでいたらしい・・・。」
ちょ、ちょっと! 人を散々怖がらせて最後はそれなの! っていうか結構わからないこと多いよ!?
「ちょ、ちょっと待て! なんでマリア殿は恨めしげな声などあげていたのだ!」
「それはな・・・姉さんがサボりにサボっていた所為でさび付いた包丁はそう簡単には切れるようにならなくてな。そんな紛らわしい恨み言を呟きながら研いでいたんだと。」
・・・なんとなく、想像がついちゃうのが悲しい。で、でも!
「で、では! その冒険者が言っていた『あなたは私の恋人になってくれる?』ってのは何なのだ!」
「あの姉さんだぞ? まぁ、状況が状況だからな、偶々立ち寄った人が幽霊と見間違えるのも無理はない。そんなことに気づいた姉さんがいたずらの一つもしないと思うか?」
ああ、マリアさんはお姉ちゃんと同じ人種だったわね。・・・人を選ばない分お姉ちゃんよりも性質が悪いかも・・・。
「結局俺は黙ってあんな場所を冒険してたという『名目』で姉さんに嬉々としてお仕置きをされることになってな。本当にあんなことなら行かなければよかったよ。」
あはは、そんな話に怖がっていた私ってなんなんだろう? 周りを見れば怖がっている人は誰もいないし! お姉ちゃんなんかは私の方見てニヤニヤ笑ってるし! うう~、もう絶対に怖がらないんだからね!
え~、突然始まりました百物語。注目は物語よりも・・・ですね。
リュウト「しかし、以外だな~。あのアキにこんな弱点があったとは。」
まぁ、原因については予測がつくんじゃないでしょうか? アキの姉はメイですからね・・・。
リュウト「なるほど。なにもトラウマになるほど語ってやらなくてもいいのに。」
そして、今回もそんなアキを見たいがための提案ですからねぇ。
リュウト「アレさえなければいい姉だとおもうんだが・・・。俺といいアキといいなんでこんな姉ばかりなんだろう?」
ママナ「ぶ~! 私も姉なんだよ~!」




