4話 「心眼」
師匠の教え方はかなり独特なのだと思う。基本的には僕に勝手に剣を振らせている。でも、けして放任してるわけではなくて・・・
「ヤマト、その振り方じゃ敵は斬れないぞ。」
見ていないように見えるのに、こうやってまずい振り方をしたときはすぐに指摘してくれる。
「そうだな、後は戦場では体勢が整った状態ばかりじゃない。十分な体勢でなくとも剣を振るためにはどうしたらいいか、それも考えておくといい。」
鍛錬の指針はくれる。でも、答えはけして教えてはくれない。それは僕の剣である以上は僕が見つけなければいけない答えだからだ。
『剣はただ振ればいいものではない。』師匠はそう僕に言った。剣は僕が思っていたほど強い武器ではなかった。ただ当てただけでは何も切れない・・・師匠の持っている竜神剣クラスならまた話は違うのだろうけど、いずれにしても技術がなければその真価は発揮されない。
そして技術を手に入れるにはひたすら剣を振り続けるしかない。剣の道は遠いってこういうことなんだろう。師匠は僕なんかよりもずっとお若い頃から剣を振り続けたのだという。それもたった一人で・・・見てくれる先人がいると言うのは本当に幸せなことなんだろう。
「結構、振り方も様になってきたな。」
突然かけられた師匠の声。その言葉はこと剣に関しては厳しい(それでも一般の剣客よりは優しいんだろうな~)師匠にしては珍しい褒め言葉で・・・
「ほ、本当ですか!?」
きっと、僕の目はらんらんと輝いていただろうな・・・。
「ああ。ただし、戦場で役に立つほどではないけどな。だが、約1ヶ月ほどか・・・それにしては悪くない振りだとは思うぞ。」
ニコって笑った師匠の笑みは男の僕でも見ほれてしまいそうで・・・だ、駄目だ! 男としてどうとか言う前にそんなことを思ったことが女王様に知られたら・・・恐ろしい。
「ん? 何をしてるんだ? まぁいい、そろそろもう一回俺と試合をして見ないか? 勝てる・・・とは思っていないだろうが、1ヶ月前とは違ったものが見えると思うぞ。」
師匠と試合? 僕の胸中に複雑な思いがいくつも走る。それに・・・
「いいのですか? 師匠には師匠の鍛錬があるのでは?」
「気にしないことだ。それに、この戦いで俺も試したいことがあってな。まぁ、俺にとっても鍛錬になるってことだ。」
さぁ、どうする? 師匠が向けた瞳はこう僕に言っているようだった。僕と師匠の実力差なんて言うまでもない。それこそ天地がひっくり返っても僕の勝ち目はないだろう。でも、きっとそんなものではない何かがあるのではないか? それに勝ち目が見えないからって逃げるようじゃ剣士なんて名乗れない。この人の弟子なんて今後名乗れなくなる!
「やります! やらせてください!」
「ふむ、いい返事だ。さて、さすがにこの前と同じ木の枝では・・・ちょっと厳しいかな。」
師匠はきっと事前に用意をしていたのだろう鉄の棒を地面から拾う。握りこそ申し訳なさげについているが刃も何もついていないただの鉄の棒だ。でも、もし師匠が本気ならこれでも楽に僕を殺せるのだとも思う。
「行きます!」
「おお!」
以前と同じように切り込んだのは僕から、師匠は悠然と構え僕の攻撃を受け流していく。
森の中に響く金属音、そうやって何度剣(師匠は鉄の棒だけど)を重ね合わせただろう。僕はようやく気がついた。師匠は・・・目をつぶっている!? それに気がつかなかったのは師匠の動きにまったくよどみがなかったからだろう。見えていないというのが信じられないぐらいだ。
「さて、実戦では攻めるだけなんて都合のいい戦いはないぞ? そろそろ受けるほうにも回ってみろ・・・怪我はしないようにな。」
は、速い!? 師匠の斬撃は信じられないほど速かった。いや、速度というならば僕よりもゆっくりと明らかに手加減をした一撃だった。それなのに動きにまったく無駄がない、どこからどういう風に攻撃が飛んできているのかわからない! それだけでこんなにも速く感じるものなのだろうか!? 技術の違いってこんなにも圧倒的な差を生み出すものなんだ・・・。
ガキ~ン、ガキ~ン・・・と2撃、がむしゃらに盲目的に出した剣に師匠の剣(鉄の棒)が運よく当たる。いや・・・たぶん師匠がわざと剣に当てたんだろうと思う。
「うわっ!?」
ゆっくりとした剣のはずなのに剣がはじかれそうな衝撃を感じる。もし・・・もし本気の斬撃だったなら、この衝撃だけで僕は死んでいるのではないのだろうか? いや、この鉄の棒でさえ剣を切り裂いて僕を一刀両断にするかも知れない。そう思わせるだけの力が確かにあった。
「と・・・まぁ、実戦ならこれでチェックメイトってところだな。」
「えっ?」
あ・・・いつの間にか僕の首筋に当てられていた鉄の棒の冷たさを感じる。注視していたはずなのに・・・目なんか離していなかったのに・・・いつ当てられたのかさえもわからなかった。
「やっぱり、師匠は凄いですね。目を閉じたままなのにそうはとても思えなかった。」
「ああ、これか。心眼って奴だな。もっとも俺の気配探知の延長線上にある技なんだが。とりあえず生き物ならば問題ない。無生物も大体はわかるな。・・・俺もそうだが自分の姿を隠す奴もいるし、そもそも目に見えないなんて奴もいるかもしれない。まぁ、覚えておいて損はない技術ってことだな。」
きっと、これが師匠の試したいことだったのだろう。そして、そのきっと師匠から見れば未完成の心眼でも目を開いていた僕よりもよくものが見えていたのだろう。そして力なんかじゃなく、圧倒的な技術の差・・・やっぱり僕は半人前とすら言えそうにないですね。でも・・・
「あの・・・僕なんかが言うのはなんなんですが、今の勝負・・・何かが足りない気がしたんです。」
「足りない?」
「はい。」
ふむと目をつぶりしばらく考えていたような師匠だったけどやがて
「なるほどな。なら今日は疲れただろう? 明日、その足りないものを埋めてやるさ。」
何故だろう? 普段どおりの優しげな師匠の顔が少し怖く感じた。
足りない・・・か。なかなかに鋭いって言うべきなんだろうな。そして危ういか。
まぁ、そろそろ経験をしてもいい頃かもしれない。明日、剣士として名乗れるものになるか、それとも剣士として死ぬことになるのか・・・第一の試練ということか。
普段は圧倒的なパワーで戦っているように見えるリュウトですが、その実技術も結構凄いということがわかった話です。
アシュラ「当然だろう? オレのライバルともあろうものがパワーだけで戦っているはずがあるまい。」
アシュラだってパワーではなく技術もたぶんに使って戦っているものな。
アシュラ「ある一定以上の実力者でパワー頼みなんて奴はまずおらん。魔獣タイプとて野生という技術を用いて戦うものだ。」
たしかにそうかもしれませんね・・・ん?
アシュラ「くっくっく、心眼を習得しつつあるのか。やはり、なかなかに楽しませてくれる!」
あはは、アシュラも燃えてるな~・・・。




