2話 「最高の才能」
僕は今、竜神様と並んで歩いている。見た目だけで言えばけして強くはなさそうな竜神様。なのに隣に並んでいるとその存在に圧倒されそうになる。でも、怖いとは思わない・・・ただその存在が頼もしい。
「あら、リュウト殿。今日はお休みのはずでは?」
ビクッ! まずい、声をかけてきたのは冷酷だと名高いメイド長にして女王様の姉君であるメイ様。ここはまだ立ち入り禁止区画、どんな罰を受けるのだろう。
「何、休みといえども少しは体を動かさないと落ち着かなくてな。」
「そうですか、女王様もご心配しますのでほどほどにしてくださいね。・・・ところでそちらの兵は?」
や、やっぱり! うう、ど、どうしよう。
「ああ、ちょっと俺が用があってな。悪いとは思ったが来てもらったんだ。」
えっ!? 竜神様?
「そうでしたか。ですが、ここは女王様の私室もある区間です。警備上の理由でこれからは慎んでくださいね。」
メイ様は竜神様のお言葉を信じたようで特に僕にお咎めを言うでもなく去っていった。
「あ、ありがとうございます。私を庇っていただいて。」
「礼を言う相手が違うぞ。」
「えっ?」
「あのメイがあんな嘘を見抜けないとでも思っているのか? 気づいた上であえて見逃してくれたのさ。彼女らしいよ。」
そうだったんだ。兵の間では絶対に逆らってはいけない怖い人って言われてたけど、本当はお優しい方なのかも。
「ところでリュウト殿。」
ビクゥ! 突然また現れたメイ様が竜神様に声をかける。まったく動じていないのはさすがだと思う。だけど
「今晩、私のお部屋にいらしてくださいね。嫌とは言いませんよね?」
この言葉に竜神様の顔色がどんどん悪くなったのは何故だろう?
気を取り直して森の中。竜神様はいつもここで鍛錬をするらしい。
「よろしくお願いします! 竜神様!」
「ん~、その前にその竜神様っていうのやめないか? 俺のことはリュウトでいいよ、勿論様付けもなし。」
竜神様のお言葉ではあるけど、さすがに呼び捨ては・・・。じゃあせめて
「あの、師匠じゃだめですか?」
「う~ん、あまりよくもないが・・・まぁ、そこらへんが妥協点か。わかった、それでいいよ。」
と少々渋られたけど師匠と呼ぶことは認めてもらえた。きっと、こうやって他者の気持ちをわかってくれるところが慕われるのだと思う。
「で、俺はキミをなんて呼べばいいのかな?」
あ! なんていうことをしてしまったのだろう。僕は名前さえも名乗っていなかった!
「す、すみません! 私の名前はヤマト=ルオールです! ヤマトと呼んでください。」
「そうか。ならヤマト、早速といいたいが君は剣を持っていないだろう?」
師匠の言うとおりだ。別に立ち入り禁止エリアに入るからじゃない。元々僕は剣を持っていないのだ。剣を習いたいって言うのに何をやっているのだろう。
「なら、これを使え。」
そう言って師匠が渡してくれたのは1本の剣。
「これは?」
「俺が昔使っていた剣だ。といっても期待はするなよ。安物の剣なんだから。」
恐る恐る鞘から抜き出した剣は確かにエルファリアの町でも見かけるレベルの剣。でも、お話どおりなら使っていたのは竜神剣を使う前のはずなのに新品のような輝きを放っている。きっと、師匠は大事に手入れをしてきたのだと思う。
「いいんですか?」
「俺の手元にあっても埃をかぶるだけだからな。使ってくれるものの手にあるのがいいだろう。じゃ、先ずは模擬戦といくか。」
そう言って、師匠は手近なところに落ちていた木の枝を拾い上げて構える。
「えっ!? あの師匠? 師匠は木の枝で、私は真剣って危ないですよ!」
「おいおい、逆なら危ないけどな。大丈夫、まだこの程度のハンデで君に負けるほど俺は弱くないぞ。」
確かにそうなんだろうけど、真剣で師匠を切りつけるなんて(ちなみに後に師匠は笑いながらこう言った。『別に俺が真剣でも危ないことはなかったんだけどな、ヤマトに真剣の感じを知ってほしかったのさ』と)。でも・・・恐る恐る振った剣は師匠の木の枝に受け止められて・・・あっさりと弾かれた。
「えっ!? なんで・・・」
「当たり前だろ? あんなへっぴり腰で切れるものなんてあるものか。よほどの名剣ならいざしれず、普通の剣で切れ味だけで切れるものなどそうはない。・・・いいか、俺を殺すぐらいのつもりで切りかかって来い。それとも、諦めて帰るか?」
・・・そうだよね。師匠はもっと凄い敵が本当に殺すつもりで襲ってくる戦場を戦い抜いたんだ。僕が本気になったぐらいじゃ、かすり傷一つ受けはしないのだろう。
「・・・行きます! 師匠!!」
「おお、来い!」
あれから何度打ち合っただろう? 何度切りかかっても木の枝であっさりと受け止められ、枝を切ることさえもできなかった。
「なんで切れないんだって顔してるな。」
息が上がってまともに喋れない僕は不敬とは思いながらもうなずくだけで返した。
「理由はいくつかあるんだけどな。まずはこれ・・・森のエルフならわかるだろう?」
師匠が見せてくれたのは師匠が受け止めていた木の枝の向き。・・・あ、そうか。
「そっちから切っても・・・切れるわけありませんね。」
木の枝というのは生えている時に上になっている方は非常に堅い。師匠はそっちの方で剣を受け止めていたんだ。
「それが一つだな。まぁ、それでも何度も切られればいずれはだが・・・見てのとおりだな。」
木に残っている傷は一つも重なっていない。つまり、全部完全に見切られて受ける場所まで調整されてたんだ。
「とまぁ、この二つは特にどうということもないんだが・・・。気がついていたか? 俺が剣を受けるときに合わせて剣を引くように受けていたのを?」
えっ? そういえば、ぶつかった瞬間に止まるのではなくてちょっとは押せていたような?
「相手の剣速に合わせて引いてやればそれだけで衝撃は軽減される。地味に実戦でも使える技術だから覚えておいて損はないぞ。あとは少し、俺の気を注ぎ込んで木自体の強度を上げていたりもしたな。」
あはは、つまり僕なんかじゃどう足掻いても切れるわけなかったんだ。
「さて、これで一つわかったろ? いわゆる武器破壊なんて早々簡単に出来るものじゃない。出来たら圧倒的に有利にはなるのは事実だが、ただの木の枝でさえ実力が上のものに使われればこうなるって訳だ。・・・そうだな、少し休んだら自由に剣を振ってみろ。まずはそこから始めた方がいい。」
休んだら、と言ったのに早速剣を振り始めているヤマト。しょうのない奴だと思いながらも嬉しくなるのは彼の才能がわかるからだろう。
剣の風切り音は思った以上に鋭かった。初めて剣を振ってあれならば十分に及第点をあげてもいいだろう。だが、そんなのはおまけだな。本当の才能・・・それはあの熱意。なんとしても強くなろうとするあの思いがあればきっといい剣士になる。あとは初心さえ、何で強くなろうとしたのかさえ忘れなければ大丈夫だろう・・・。
2話目で名前の出てきましたヤマト=ルオール君。メインどころではありませんが、皆様よろしくお願いします。
ヤマト「これからは僕と師匠の大冒険ですよ!」
いや、そんな展開にはならないから・・・。っていうか男2人旅は暑苦しいだろう? アシュラとよりはマシだが。
ヤマト「ならないんですか・・・?」
あ、あの~、そんな悲しそうな顔で・・・剣をこっちに向けるな~~~!!
ヤマト「えっ? だってメイ様が『作者に言うことを聞かせる時はこうしなさい』って。」
ほほ~、後進の指導は万全ってわけか。あの女・・・ぴぎゃ!
メイ「誰があの女でしょうか? 口の悪い子はお仕置きです。」
ヤマト「あの・・・なんか凄いことになっているんですが?」
メイ「いいのです。作者なのですから次回までには復活してますわ。」
お、覚えてろ~・・・ガクッ。




