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竜神伝説~リュウト=アルブレス冒険記~  作者: KAZ
3部2章『ハッピーバースデーズ』
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6話 「9月15日」

 ここは魔界のアシュラ様のお屋敷。私、コーリン=ブラックはいつものようにアシュラ様のお役にててることを嬉しく思っています。


 魔界の者たちはアシュラ様の付き人というと過酷な職務か下賤な想像をするものが大半のようですが、そのようなことは一切ございません。あの方は照れ屋で無愛想なだけで本当にお優しい方なのです。


「アシュラ様、本日の御夕飯はいかがいたしましょう。」


 付き人の分際で主人の食事を勝手に決めるなど出来ません。とはいってもアシュラ様は『貴様に任せる』以外のことを仰ることも殆どありませんが


「そうだな・・・今日はいい。どうやら代理がきたようだ。」


「代理? ですか?」


  一体何のことかしら? と首をかしげていると屋敷の結界が反応した。主人よりも感度の鈍い結界なんてと思いましたが、アシュラ様の感知が優れすぎている所為ですね。あら、いけない、お客様のお出迎えをしないと




「えっ!? あなたは・・・」


「えへへ、お邪魔してもいいかな? コーリンさん。」


 ドアを開けたとたん飛び込んできたのは魔界には眩しすぎるぐらい眩しい笑顔。そこにはママナさん・・・いいえ、もうこうは呼べないけど私の娘がいた。


「アシュラ様に御用事ですか?」


「ううん、今日はコーリンさんに用だよ。」


 私に? いまさら私に何の用があるというのだろう。この子は私と自分の関係なんて知らないはず。知ってたら・・・こんな笑顔じゃ話せないでしょう。


「もう! コーリンさん前に言ってたじゃない! 今日、9月15日はコーリンさんの誕生日だって!」


 誕生日? ああ、そういえばそうでしたね。私にはもう意味のない日だと思っていたのですが・・・。


「では、私の誕生日のお祝いに?」


「うん!」


 もうまさに満面の笑みを浮かべるママナ。・・・あ、お客様と玄関で話し込んでしまうなんて!でも、ここはアシュラ様のお屋敷。私に用があるものを招き入れていいのでしょうか?


「・・・何をしてるコーリン。入れるのならさっさと入れろ。」


 背後から不機嫌そうにかけられた声。アシュラ様を知らない人ならばイラついてるって思うことでしょう。ですが


「ほら、アシュラも入っていいって言ってるよ?」


 そう、これは私の葛藤を知った上で声をかけてくれたのだ。私には、そしてこの子にもそれがわかる。


「申し訳ありません。では、お入りください。」


 言葉には出来ないけれど、私とママナはお互いに笑みをかわしたのでした。




「コーリンさん、台所借りていい?」


「しかし、お客様に作っていただくわけには・・・」


 それに、この子にはけしていえないけど・・・そうは思ってはもらえないのだろうけど、母の手料理を食べてもらいたいという思いもある。


「でも自分の誕生日のお料理を自分で作るのは違うでしょ? それともアシュラに作ってもらう?」


「とんでもありません!」


 アシュラ様も昔はご自分で作っていたように、そこいらのものよりは美味しいお料理を作りますが、主人に料理を作ってもらう付き人など許されるはずもありません。


「でしょ? だったら私に任せてよ! それにね、後は暖めるだけの料理もあるんだ。・・・ホントはね、リュウトとアキたちも呼びに行ったの。でもね、リュウトが『ママナだけで行くのが一番喜ばれる』って。でも、少しこれも持っていけって料理を作ってくれたんだ。」


 リュウトさんが? あの方は意外と冷静でよく周りを見ていますので私とこの子の関係に気がついたのかもしれません。


「あ、そうだ! アシュラ、リュウトから手紙預かってるよ。」


 怪訝そうな顔でママナからお手紙を受け取ったアシュラ様は


「ふん、奴らしい。」


 お手紙を見た後、一瞬にやりとお笑いになって


「コーリン! オレは少々やることが出来た。料理は部屋に運んで来い。」


「あ、はい。わかりました。」


 ひょっとして、ひょとしてリュウトさんは?


「え~!? 今日はコーリンさんの誕生日なんだよ? アシュラも一緒に祝おうよ~!」


「ふん、文句なら厄介ごとを持ち込んだリュウトの奴に言え。部下の誕生日をいちいちオレが祝ういわれもなし・・・貴様がオレの分まで祝えばよかろう。」


 間違いありませんね。リュウトさんもアシュラ様も気づいていらっしゃる。気づいた上で私とママナ、2人の時間を作ろうと・・・。今更、私にどんな顔をしろって言うのでしょうか?


「ふふふふ~ん♪」


 上機嫌で料理の支度をし始めるママナを見ながら、私はあの日の事を思い出していた。




 私は・・・いえ、私の夫を含めた夫婦はどちらも名もない下級の悪魔でした。上層魔界の片隅で目立たないように、ただそれだけを意識して生きてきました。


「ママ~! 今日ね、私こんな綺麗なお花摘んできたの!」


 そんな私たちにとってママナは唯一の生きがいと言ってもよかったかもしれません。ママナは私が8400歳(人間で言うなら21歳)の頃の子。あの日、私たちの運命が狂ったあの日は・・・確かママナが1200歳(3歳)になったころだったでしょうか?


「コーリン! ママナ! 逃げろ!!」


 ある日突然夫が家に飛び込んできてこう言った。その時は何がなんだかわからなかった。後で人づてに新興勢力の悪魔が領地拡大のために私たちの暮らしていた場所に攻め込んできたのだと知りました。


 とても、とても残忍な悪魔でした。土地を奪うのが名目なのではないかと思うぐらいに逃げるものも命乞いをするものも殺していきました。私たちを逃がすための時間を稼ごうとした夫も・・・。


「パパ! パパァ~!!」


「駄目! そっちに行っちゃ駄目よ! ママナ!!」


 全ては私が目を離してしまったのが、手を離してしまったのがいけなかったのです。まだ小さかったママナは起こったことなんてわかるはずもなく、不安に駆られて夫を探しに行ってしまった。勿論、私も追いましたが結局見失ってしまったのです。


 それから私は失意の中に魔界をさ迷い歩きました。夫も、ママナも生きているはずなんてない。そう思っていました。そして力ない私が生きるには誰にも気づかれないこと、隠密の術だけが研ぎ澄まされていったのです。そして・・・


「あの子は?」


 私が見つけたのはいかにも上級悪魔の子供という容姿を持ったもの。いくら上級でも子供ならばどうにでもなる。私にはそう思えました。捕らえておけば役に立つ。立たなければ捨て駒にでもすればいい・・・きっとそう思ったのでしょう。私はその子の後をつけていきました。


「・・・貴様、いつまでついてくる気だ。」


 でも、その子は気がついていたのです。今まで誰も気がつかなかった私の隠密術をあっさりと見破って。


「ふん、隠れることしか能のない下級悪魔か。だが、その力は見事だ。どうだ? オレの部下になる気はないか?」


 立場は私が思ったものとは逆になりましたが、これほどの力を持つものならば魔界でのし上がれるかもしれない。私の中に浮かんだ打算が私を彼の前に膝を折らせました。それが今より4100年ほど前、私が1万歳(25歳)の頃。そしてその少年・・・アシュラ様がまだ5200歳(13歳)の頃の話です。




「コーリンさん? どうしたの?」


 しばし回想に浸っていた私を不思議に思ったのかママナがそう聞く。まさか、生きて再び会えるなんて思っていなかった我が子。あの時に助けられなかった、そして見捨ててしまった私がいまさら母などと名乗ることは出来ないわ。


「いえ、なんでもありません。しかし、ママナさんはお料理がうまいんですね。」


「えへへ、私は孤児だったからずっと自分でやっているうちにね。」


 ずきんと私の心を削る言葉。この子は今まで一体どんな思いで生きてきたのでしょう? 親を、私をさぞや怨んでいるのでしょう。


「でもね、悔しいことにリュウトの方がうまいんだよ。」


「まぁ!?」


 だから話せない。・・・私はやっぱり打算で生きている女なのですね。


「それにね・・・前、食べさせてもらったコーリンさんのお料理の方が美味しかった。その、心が温かくなるような・・・うん、お母さんの味って感じがした。あ! ごめんなさい! 私にお母さんなんて呼ばれたら嫌だよね。」


 つぅ~と流れ落ちる涙。私を・・・母と思ってくれるのですか?


「こ、コーリンさん! そんなに嫌だった?」


「い、いえ! ちょっと目にゴミが入ってしまいまして。ママナさんさえよろしければ・・・その、お母さんと思ってくれて構いませんよ?」


 勝手な言い分だと思います。本当はそう呼んで欲しい。真実を明かす勇気さえ持てないのに、自分の勝手な欲望だけ押し付けている。それも自分の娘に・・・。


「ホント! よかった。実はね、前からそう呼びたかったの。私よく覚えてないんだけど、たまに夢に見るお母さんの顔にね、コーリンさん似てるんだ・・・。」


 はっきりとではなくても、かすかでおぼろげであっても覚えていてくれた。そして、私を母と呼んでくれる。こんな奇跡あってもいいのでしょうか? こんな幸せを私が手にしてもよいのでしょうか?


「その・・・これからもよろしくお願いします。コーリンさん・・・じゃなくてお母さん♪」


「ええ、ママナさん。いえ、ママナね。」


 悪魔の私に祈る神はないけれど、今は感謝いたします。願わくば、この幸せを今度こそ永遠に・・・。

9月の15日はコーリンの誕生日でした。今まではっきりとは言っていませんが、殆どの人がわかっていたと思われる真実付きですね。


コーリン「あの、私がこのような場所に来てもいいのでしょうか?」


そういえば、コーリンはあとがきは初めてだっけ? ・・・初めてかもしれない、敬意を払われるなんて!


コーリン「いえ、敬意はないのですが他の皆様に悪いかと。」


あ、そういう意味なんだ。


コーリン「ですが、今回のことは感謝しております。その・・・アシュラ様に。」


アシュラになんだ。


コーリン「はい、今まで助けていただいたのはアシュラ様ですから。・・・あの、どうしたんですか?」


いえ、ちょっと無性に泣きたくなって・・・。えっと次回の予告をお願いします。


コーリン「? わかりました。次は10月10日ですね。残りのメイン3人のうち誕生日が公開されていないのは1人。となると次回はあの黒騎士さんでしょうか?」

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