1話 「2月22日」
2月21日 夜
うふふふ~♪ えっ? やけに機嫌がいいなって? それはそうよ、明日は2月22日。私の誕生日なんだもん!
毎年毎年おこなわれる女王の誕生パーティなんて堅苦しくて退屈なだけでちっとも面白くない。でもね、そこにリュウトがいてくれるだけで、私の誕生日を祝ってくれるってだけでとても楽しみに思えるの。
「ねぇねぇ、リュウト覚えてる? 明日はね・・・」
「ん? 明日なんかあったか?」
え~!? リュウト私の誕生日覚えてないの~!! って私がちょっとショックを受けていると・・・コンコンってノック。お姉ちゃん、また飲みに誘いに来たんじゃないよね?
「リュウト殿、よろしいですか?」
「ああ、入ってきてくれ。」
「いえ、リュウト殿に出てきて欲しいのです。お一人で・・・。」
「? ああ。」
一体何なんだろう? こうして部屋に取り残されて10分ほどすると、リュウトだけ戻ってきて・・・
「アキ、すまん。ちょっとメイから頼まれごとをしてな。出かけてくる。」
「ええ~! 今から? もう夜だよ?」
「ああ、なんでも可及的速やかにって言われているからな。そうだな、明後日の朝には帰ってこれると思う。」
明後日? ってことはリュウトは明日はいない? ・・・ ・・・ ・・・ええ~~!!? なんで? なんでよりによってこのタイミング!? うう~、お姉ちゃん怨むよ~~!!
そして当日
はぁ、楽しみにしていた分逆に憂鬱だよ~。それでもいつもよりはいいのかな? だって
「えへへ~、お招きしていただけてありがとうございます。ってこんな感じ?」
深々と上流階級流のお辞儀をしたのはママナ。あのメンバーのことはエルフではもう有名だから魔族の彼女を呼んでも問題はないの。
「うむ、なかなか様になっていたぞ。」
「でもいいの? 私なんかが来ても・・・」
「今日は私の誕生パーティだ。私の呼びたい友を呼んで悪いということはあるまい。心配せずとも他にも魔族は来ることになっておる。」
うん、一応来る予定にはなっているんだけど、来るかな?
そして
「それでは今よりアキ=シルフォード=エルファリア女王、1501歳のご誕生日を祝うパーティを始めさせていただきます。」
「あーちゃんおめでとう!!」
お姉ちゃんの厳粛な声の始まりの挨拶、そして、周りの雰囲気なんて完全に無視して叫ばれた一言。誰がなんて言うまでもなくわかるよね? 内容からもこんな場面で叫ぶ人って言う意味でも・・・。
「こほん、気を取り直してエルフ貴族議院委員長ザルク=ファサラ様よりお祝いのお言葉を・・・」
毎年恒例の退屈な言葉。たまには内容変えてきてもいいのに・・・。もっともろくに聞いてなんてないんだけどね。たぶん、この場にいる人全員。メンバーは殆どいつもと変らない。
違うのは、キョロキョロと珍しそうに辺りを見渡すママナとまだ誰も手につけていないのにさっそく料理に手を出し始めてるレミーと監督責任があるはずなのに他人の振りしてるレーチェルさん。さらにはそんなレミーを微笑ましげに見てるコクト・・・って2人とも少しは止めに入ろうよ!? そして壁に寄りかかって話を聞いているのか眠っているのかわからない、でも一応来てくれたアシュラとたぶんこの中で一番真面目に話を聞いている付き添いのコーリンさん。
たったのこれだけ、でもそれだけでも・・・心の繋がった仲間がいてくれるだけでも少しこのパーティが楽しく思える。リュウトがいてくれたら最高だったのにな。
「お兄ちゃん! これすっごく美味しいよ!」
・・・お願い、レミーはもう少し大人しくして。恥ずかしいから・・・。
「では、最後に僭越ながらわたくし、メイド長のメイ=シルフォードからもプレゼントをさせていただきます。」
えっ? お姉ちゃんから? いつもはそんなことは・・・ってなにあれ? 巨大なケーキ・・・っていうかそれじゃあウェディングケーキみたいだよ?
「では、女王様にご入刀をしていただきましょう。」
本当にウェディングケーキなの? うう、何が悲しくて一人で入刀しなくちゃいけないのよ~。真似事でもリュウトと一緒だったら凄く嬉しいのに・・・。
「あの・・・その前にレミー=エンジェル様? 頭上のクス玉を弓で射抜いていただけませんか?」
全員の視線がレミーに集まる。きっと、そういう段取りになっていたんだろうな。でも、レミーは忘れていたと・・・まぁ、レミーに段取りを覚えていろなんて無茶を言ったお姉ちゃんが悪いわね。
「ああ~! そうだった忘れてたよ~!」
んでレミー? 大声で忘れたなんて言わない! はぁ、レミーを呼んだのは失敗だったかな?
「それじゃ、射抜くよ~・・・きゃ!」
弓を構えていたレミーが普段は着ていないドレスのすそに足を取られて・・・軌道がそれた矢は放物線を描いて・・・ケーキにぷすりと・・・。なんともいえない静寂が流れて、そして
「いってぇ~~~!!」
ケーキの中からクリームまみれで飛び出してきたのは・・・リュウト?
「レミー! なんでお前はピンポイントで俺に刺すんだ!」
「ご、ごめんなさ~い。」
幸い刺さったのは腕でそれほどの怪我ではなかったみたいだけど・・・ああ、楽しそうにクスクス笑ってるレーチェルさんとアシュラが恨めしい。・・・じゃなくて!
「リュウト・・・そなたこそ一体何をやっておるのじゃ?」
私の声にリュウトがぴたりと静止する。横ではお姉ちゃんが頭を抱えてる。何を考えていたのかは大体わかるけど甘いわね、レミーが計画に絡んだ時点でこの程度のトラブルは予想していないと。
「いや、その・・・な。ちょっとしたサプライズを演出しようかと・・・。」
うん、凄く驚いたよ? 昨日の夜からずっとリュウトがいないことが寂しくてね~、まさかケーキの中に入ってるなんて思いもしなかったよ。
「あ、あのな、アキその目凄く怖いんだが?」
私の目が怖い? そうかもね~、だって私、怒ってるもん。
「け、計画を立てたのはメイでな・・・っていないし!」
うん、この手の計画を立てるのはお姉ちゃんだよね。でもね、それに乗ったリュウトも同罪だよ? フフフ。
「何時からじゃ?」
「一週間前・・・。」
ふ~ん、じゃあ昨日私が聞いたときには誤魔化してたんだね。私、あなたに誕生日覚えてもらえてないって結構ショックだったんだけど?
「ほう? ならケーキの中に入っていたということは・・・食べてもよいのじゃな?」
「へっ?」
私はリュウトのほっぺについていたクリームをペロって舐める。どこからかオオ~! って声が聞こえたけどそんなのは無視する。だって私たちが婚約者だって言うのはみんな知ってるし。そして、とたんに真っ赤になるリュウト。で、そんなリュウトの耳元でささやくの。
「そんなサプライズいらないよ? だってあなたがいるだけで私にとってはサプライズだもん。だから、ずっと傍にいてね?」
「ああ、わかった。ごめんな。」
「うん。もういいよ。そのかわり、ゆっくり食べさせてもらうから♪」
ペロペロとリュウトの顔(のクリーム)を舐める。リュウトからは悲鳴じみた抗議がもれたがそんなの受け入れないもん。リュウト・・・私とっても幸せだよ♪
アキの誕生日はいかがだったでしょうか? 色々トラブルはあったようですが、本人は幸せそうだったので良しというところでしょうか?
アキ「だが、レミーがやけに目立っているな。」
日常で目立つのが彼女ですからね。一章ではあまり目立たなかった分きっと二章では・・・。彼女の特質は健在ですし。
アキ「ああ、嫌ってほど思い知った。来年は絶対に呼ばんぞ。」
計画になんて関わらなくても、きっといるだけでトラブル呼び込みますしね。
アキ「まったくだ。次は・・・4月2日じゃな。なんとも厄介そうなあの人の誕生日だそうじゃぞ」
はい、この章は日付順に紹介していきますのでレミーとかは最後になりますね。
「ふむ、ならリュウトは比較的すぐ来そうだな。」




