6話 「悪夢再び」
今日もエルファリアは平穏で平和な一日。そして
「アキ、お疲れ様。」
「うん、ありがとう。」
リュウトといつもどうりの会話のいつもどうりの夜。こんな日々が、こんな時間が永遠に続けばいいと心からおもう。
「大分伸びてきたな。」
伸びたって言われたものが背だったら凄く嬉しいんだけど、残念ながら背じゃなくてリュウトがさらさらと撫でてくれている髪の方よね。肩に当たるぐらいまで伸びてきたかな?
「うん、まだ昔に比べれば短いけどね。」
そう、リュウトと出会った頃はもっと長い髪をしていた。旅に出るときに邪魔にならないように切ったんだけど、やっぱり私はあのころからリュウトのこと好きだったんだな。だって、何の疑問も感じずにリュウトと同じ髪型にしてたんだもん。で、リュウトと別れなくちゃいけなかったあの百年、髪を伸ばしたらリュウトとの繋がりがまた一つ消えちゃう気がして伸ばせなかった。
「でも意外だったな。リュウトが長い方が好きなんて。」
このままでもいいかなって思ってたんだけど、平和になったんだからまた伸ばさないか? ってリュウトが言ったのをきっかけに伸ばし始めた。だって、好きな人にきれいって言ってもらいたいのは女の子共通の望みだよ? リュウトは一回も言ってくれないけど! 可愛いとは言ってくれるんだけどなぁ~。
「特別好きってわけでもないんだけどな。ほら、姉さんといいママナといい、昔から俺の傍にいた子はみんな短いだろ? だからちょっとした憧れって言うのかな? まぁ、最近はメイとかレーチェルさんとか長い人も知ってはいるが・・・な。」
あの2人は特別長いもんねぇ。さすがにあそこまで伸ばそうとは私は思えないよ? などとのんびりとした夜を過ごしてると、コンコンとノックの音。こんな時間にたずねてくるのは・・・
「入って大丈夫だぞ。メイ。」
さすがリュウト、この距離で知り合いの気配を読み間違えることはないのね。でも、お姉ちゃんが一体何の用だろう?
「さすがね、リュウトくん。」
「この距離でわからなければ剣士なんていえないさ。」
きっとね、わからない人いっぱいいると思う。リュウトが気配に敏感なのってマリアさんの所為なんだろうなぁ。リュウトの感覚がおかしいところってみんなあの人が原因な気がする。
「アキに何か用なのか?」
「いえ、今日はあなたに用よ、リュウトくん。」
ゾクってする笑顔。妖艶とかそういうんじゃない。なんていうか・・・本能的に危機を感じる笑顔? リュウトですら腰を浮かせかけてるし。
「あら、いやだ。大したことじゃないわよ? お久しぶりに一献にお誘いしようと・・・。」
お姉ちゃん、一献の意味わかって言ってる? お姉ちゃんの場合、一献じゃすまないでしょ? 杯じゃなくて樽で飲んでも一杯じゃ終わらないんだから・・・。リュウトの顔、青ざめてるよ?
「いや・・・そのな?」
「たまにはアキだけでなく、姉にも付き合って・・・ね?」
うん、これはリュウトには逃げれないわ。私も助け舟は出せないし・・・どうやら一日が終わるちょっと前にリュウトの平穏な一日は終焉を迎えちゃったみたいね。
「リュウト・・・生きて帰ってきてね。」
「・・・善処する。」
部屋を出る前のアキとの会話。本気で真実味があるのが怖い。
「戦場に行くわけじゃないのよ? ただ、お酒を飲みにいくだけなのに・・・。」
ちょっとすねた顔。普通なら可愛らしいと思うのだろうが、今の俺には悪魔の顔にしか見えない。いや、悪魔と同列にしたら悪魔に悪い。きっとアシュラあたりが一緒にするなって文句を言ってくる。
「あ・・・あはははは・・・」
もはや、乾いた笑いしか出てこない。たしかにただ飲むだけだ。だが、その場にあなたという要素が加わると殆どのものにとっては下手な戦場よりも過酷な状況になるって・・・わかってないんだろうなぁ。はっきり言って、俺にとっては一人で魔王7人と敵対する方がまだ勝率が高いと思う。
「じゃ、かんぱ~い!」
今日はビアホールじゃなくてメイの部屋に来ている。そして当然のように鎮座してる樽。それも10樽!! なんで2人で飲むのに3人で飲んだときより増えてるんだ!!
「あのメイ・・・これは?」
「ん? ああ、安心して。ウォッカじゃないから。」
そうか、量はとりあえず見ないことにして度数が少ないなら多少は飲めるか・・・。
「・・・ブハッ!」
一口飲んだ瞬間に思わず吐き出してしまう。なんだこれは? 何故、俺はこの匂いに気づかなかった? あまりに強すぎる匂いに鼻が馬鹿になっていたとしか思えない。
「ん~、リュウトくんにはちょっと強かったかしら? 凄いでしょ、これ。」
ああ、凄い。生命体への無言の挑戦状だと思うほどに凄い。そしてそれを美味しそうに平然と飲むあんたはさらに凄い。
「これは一体?」
「以前ね~、レミーちゃんに強いお酒を探してるって言ったら送ってきてくれたのよ。天使の技法でアルコールを濃縮してなんて100%を越える度数のお酒を造れたんだって! 150%だとか言ってたかな? ちょうだいって言ったらホントにくれたのよ。いい子よね~。」
脳裏にお気楽な妹分の天使の笑顔がちらつく。レミー、お前はその場にいなくてもトラブルを呼び込むのか? きっと、天使族も造ったはいいが処分に困ってたんだろうな。んで、そんなことに気づきもしないレミーがそのまま送ってきたんだろう。
「あ、そうそう。こんなのもついてきたわ。」
手紙?
「リュウトくん宛よ。」
確かに・・・だが、レミーならリューくんへとかって書きそうだよな? これにはちゃんとリュウトくんへって書いてある。なんだろう? むしょうに嫌な予感がする。
リュウトくんへ
お久しぶりね。レミーから頼まれていたお酒100樽分送っておいたわ。これね~、天界でも飲める人がいなくて困っていたから助かったわ♪
レミーはリューくんたちとかって言ってたけど、あのメイって言う人なんでしょ? これ欲しがったの。 で、これを読んでいるころあなたも巻き込まれていると思うんだ♪ 色々感想とか聞きたいし、今度遊びに来てちょうだい。レミーも会いたがってるわよ。
レーチェルより♪
・・・たはは、あの人も絡んでいるのか。そりゃ、そうだよな。一天使、それも見習いがこんなに大量に送りつけられるはずもないか。で、あきらかにレーチェルさん、いやさんづけなんて必要ないな。うん、レーチェルはわかってて送ってきてるよな? これを送ることで俺がどれだけ困るかわかった上で楽しんでいると?
今頃、クスクスと笑っていると思われる元凶を心の中で睨みつける。ああ、遊びに行ってやるとも! 文句の一つでも言ってやらないと気がすまない!!
「これだけあれば数日はリュウトくんと美味しいお酒が飲めそうね。でも、これでも酔えそうもないわね。私を酔わせられるお酒どこかにないものかしら?」
・・・その前にこの最悪な戦場を生き残らないといけないのか・・・
おまけ
「りゅ、リュウト・・・大丈夫?」
「あ、アキ・・・俺は生きて帰ってきたぞ。ウプッ。」
「う、うん。(なんか今にも死んじゃいそうで怖いんだけど。お姉ちゃ~ん! 一体どんなお酒をどんな飲ませ方をしたのよ~!!)」
え~、最強の肝機能を持つ女、再びです。
メイ「まぁ、普通の人よりもちょっとは強いかもしれないわね。でも、前も言ったように私たちの両親はもっと強いわよ。」
酔ったことがない人が何を言いますか・・・。
メイ「私は精々が5樽までしか飲まないけど、あの2人は2人で20樽ぐらい飲んでたわよ?」
・・・そこまでいくと強いとか強くないじゃないでしょう? っていうかその水分はどこに消えているんだ!! まったく吸収されずにそのまま出てるんじゃないのか!?
メイ「女性にそんなこと言う?」
はぁ、彼女と飲みたい方いましたらご連絡を・・・。この人、お酒さえ飲めればどこでも嬉々としていくでしょうから。
メイ「お待ちしておりますわ♪」
というところで次回予告を・・・
メイ「ええ、第三部は日常編ってことで時系列を無視してイベントを! 次章は各キャラの誕生日を追っていくようね。竜神伝説第三部二章『ハッピーバースデーズ』あのキャラの誕生日、このキャラの誕生日、何が起きるかしら? 勿論、私の誕生日もあるようよ。」




